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1.戦い

ドラゴンと人間の戦いです。

 心臓がドッドッと早鐘を打つ。

 外にも聞こえているのではないかと思う自身の鼓動を無視し、煙玉を地面に叩き付けて脱兎が如く岩場まで避難して村の薬師が調合してくれた薬液を一本飲み干す。


 体力はまだまだある。


 幸い負った負傷は左腕に走る引っ掻き傷。引っ掻きと言うには深いが、ドラゴンを相手にして負った傷が治るモノならその程度の表現に収まるだろう。

 薬液の即効性から傷は塞がって、血も補填された。日に使える本数は身体への負担を考慮して十までと決まっているが、今の使用が一本目。


 大型の竜との戦いは何度も経験しているが、それでも緊張はある。

 村で開拓外領域を満足に動けるのは自分だけ。その事実もあって動きは慎重にもなるが、相手に与えられた傷は中々のもの。


 相対する個体――刄王竜と名付けられた地上の生態系の最高位に位置するもの――は何度か倒しているが、今回の個体は今までのと比較しても大きい。


 大きいという事は強さにも繋がる。


 岩場から確認すれば俺を探しているのかその大きな体躯を左右に振って辺りを見ているのが分かる。匂いで判断する相手じゃない事は知っているからこうやって逃げる事が叶う。

 かつて相手にしてきたドラゴンの中には嗅覚のみで判断する種類も居たから煙玉一つで上手く逃げられる事を幸運に思いながら村の道具屋に感謝する。


 幸い空の敵は居ない。

 龍種が居れば戦い合わせて消耗した方を愛刀で刻むが、今この場で戦力足り得るのは自分だけ。小さいが油断ならない群れで行動する爬竜種も居ないから呼吸を整えてから、向こうが此方にその長い尾を向けた時に駆け出すと決めて静観する。


 タイミングを誤れば硬い骨で作られた刄王竜の顔面とかち合う事になる。それでは此方の刃が通らない。あれだけ大きな個体ともなれば俺が知っている刄王竜よりも硬いのだろう。それは避けねばならない。


 タイミングはいつか。


 今か、違う。

 今も、違う。


 集中を欠かさずに観察し、刄王竜が油断する瞬間を待つ。長く待つ事になっても向こうには直ぐには癒えない傷を与えているから今は待つ時だと言い聞かせて逸る心を鎮める。


 向こうが足を折り曲げるその瞬間を見て、()だと反射的に飛び出す。足音に気付いているだろうが、構わず走り出してその尾を一刀の下に切断する。


「グゥオオオオ!!」

「ハハッ、斬れたなぁ!!」


 立ち上がる前に何回か斬っておきたかったが、痛みに反応して跳ねた身体で立ち上がられる。


「グゥオオ!」

「小回りの効く奴だな」


 その場で回転した刄王竜は近寄り難いが、既に脅威となる尻尾は切断済み。その場で回転するだけの巨体に怖気付く程弱い心はしていない。


 何度か回ると此方を向いて止まり、前足だけで飛び掛かって来たからそれを駆け足で避けつつ着地に合わせて腹の辺りを刺突する。

 だが効果は薄いのか怯んだ様子は無い。


 奥の手はあるがソレを使うには場が整っていない。

 不完全な状態で放てば手負いのドラゴンが生まれて余計厄介な事態になる。生き物はその多くが手負いである程強い力を発揮する。


 確実に殺せるまで奥の手は使わない。


「グゥオオオオ!」


 人間で言う所の額から生えた鋭利な角を下から上へと勢い良く動かした刄王竜だが、俺とはかなり距離がある。


 何故そんな事をしたのか考えていると態勢を整える行為だったらしく仕切り直しと言わんばかりの刄王竜を見て大きく息を吐き出す。


 刀を構えて巨体の下に潜り込んで刃を振り回すと、自分の下に居る存在の倒し方には慣れているのか、前足を上げると足踏みが行われる。


「――ッ、危なっ!!」


 俺が避ける先に合わせて何度か足踏みをした刄王竜だったが、左右交互に足を下ろすだけならこっちにだって戦い方はある。そう思って刀を構えた瞬間刄王竜と眼が合った気がした。


 そして、奴は笑った。


 そう見えただけかもしれないが、俺には笑った様に見えた。


「グゥオオオオオオオ!!!!」

「――ッ!」


 耳を塞ぎたくなる咆哮が上がる。

 だけど耳を塞ぐなんていう隙を晒せばたちまちその角や爪牙に穿たれる未来が待っている。


 音の圧がビリビリと身体を駆け巡るが、ソレを無視して鷹鋼(ようこう)と華閃龍の爪で出来た刀を振って脚を斬る。

 腱が斬れたのか態勢を崩した刄王竜が崩れる。


「オオオオ!!」


 裂帛。

 刀の扱いにも慣れたものでただ振り回すのではなく円を描く様に連撃を繋げれば刄王竜の身体に無数の傷が生まれる。


 八連撃。


 ソレを与えた辺りでバランスの取り方を覚えたのか立ち上がった刄王竜が顔を此方に向けて、片足を引き摺る形で突進を行うが、四つ足でない突進は横に回転して避けるだけで素通りしていく。

 踏ん張りが前足二本でしか出来ない所為か岩壁に頭を打ち付けて止まった刄王竜はゆっくりと此方に身体を回す。


 だがそんな遅い相手を待つほど俺も優しくは無い。

 突進が岩壁に当たった辺りで既に距離を詰めていた俺はそのまま刄王竜の頸に刃を当てて刀を滑らせる。


 顔面は確かに硬いが、横からなら斬れる事はこいつを何度か倒しているから分かる事実。

 滑らせた刃が抜けると、盛大に血が噴き出す。


 これまでの傷と合わせて考えてもそろそろ失血死してくれても良い頃合いだが、この刄王竜は倒れる気配が無い。


「オオ……グゥオオオオ!!」

「簡単にやられちゃくれないってか!」


 それなら少し傷物にするが、仕方ない。


 血を噴き出しながら立つ姿は王と名に付くだけあって堂々としている。この名前を付けた俺の姉代わりの二人はやっぱりドラゴンについて詳しすぎるなと思いながら刀を構える。


 角が生えた頭を低くして突進する姿は避けなければ刺し貫かれるが、それは何も持っていない村人の終わり方だ。


 伊達に長くドラゴンと戦ってないし、お陰で得られた力もある。


 速力を上げて最早飛び込む勢いの刄王竜に向けて刀を静かに振り下ろす。それだけで俺の持ってる武器は酷く刃毀れをしたが、それと引き換えに刄王竜は身体の半ば程度まで裂傷が及び、ついに地面に倒れる。


 長かった戦いが終わった事に安堵するも、武器の性能が落ちる所まで落ちた事に変わりはない。


 他の生物は今回の刄王竜がこの辺りの主だったのか避難しているから遠慮なくナイフで解体を始める。皮はさっきの一撃で一部しか使い物にならないけど今回の目的は皮よりも角と爪。


 なんでも最近俺が持ち帰った鉱石の使い道が判明したらしく相性が良いのは刄王竜という事で、今回の狩りを俺が自発的に行った。


 尻尾も良い感じの長さで切断出来たから持ち帰るとして、強い竜の血は薬師連中に好かれる。だから流れる血も瓶に回収しながら解体を進めていると陽が傾き始める。


 此処から歩いて数分の所に荷車があるから素材を積みに一度戻り、そういえば岩壁にぶつかっていたと思い出してそちらから鉱石が得られないかと見るも、あるのは恐らく普通の石だけ。


 何も無い事を少し残念に思いながら残った素材を手に持つと、解体して露わになった刄王竜の骨に何故か視線が吸い込まれる。

 鷹鉱を初めて目にした時の様な、自分に必要だと何故か分かる素材との巡り合わせの波を感じた。


「まあ、運ぶのが増えて困らないから……」


 変色した骨だけを上手く切り取って荷車に積み込み始めると、血の匂いに釣られて小型の竜が動く気配を感じたから荷車に積んでおいた鉄刀(てつがたな)を装備する。


 刄王竜から切り出した他の素材を集めていると、夜は別のドラゴンが縄張りとしているのか空から強い気配を感じる。


 愛刀が無事であれば手傷を負わせてその場をやり過ごすまでは持っていけるだろうが、生憎今持ってるのは非常用の鉄刀。急いで他の素材を回収して荷車に運び終えると、空から急降下してきた龍が刄王竜の肉を食べ始めたのを見てその場から逃げ出す。


 村の英雄と呼ばれていても、寧ろ呼ばれているから彼我の実力差が分かる。日暮れの陽光を浴びたソレとは今は戦えない。


 目の前の肉に夢中になってくれているのなら御の字。俺は急いで荷車を動かし始めて村へと帰還を始めた。

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巨大なドラゴンと闘うりゅう狩りの冒険ワクワクしますね(*^^*) 文章もしっかりとされていて、私事で恐縮ですが好みの文体です。 ブクマつけさせていただきました。応援しております!
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