表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/99

驚異の書 ジーペングオの戦い

 まずジーペングオというのは遥か東方のオケアノスに浮かぶ島の名前だ。


 この島は〈帝国〉の首都・大都から距離にして1500マイル(約2250km)も離れた場所にある大きな島になる。


 あまりに距離がありすぎるので商人ですらほとんど向かおうとしない。


 そんな離れた場所になぜ攻め込んだかというとその国には「キ」が豊富にあったからだ。


「キ」というのは(ゴールド)のことで、その莫大な量の金を欲して通交を求めたんだ。


 さっき言ったように商人が活動していないということは、ぼくら商人の常識に照らせば、その国に膨大な金が国外に出ないで留まっているということになる。


 さて、実際にかの国へ行った軍人たちから驚きべきことを知りえた。


 なんとその島の君主が住まう宮殿は、キリスト教会が鉛の屋根を()くように、純金で屋根を()いているという。


 それだけでも驚きなのに床や窓も金の板を敷き詰めたものになっているんだ。


 他には赤いニワトリが多く、宝石も大量に採れるというから驚きだ。


 ところで我々キリスト教徒にとって異教徒の国は恐ろしいものがある。


 それでこの島はどうかというと住民は肌が白く礼儀正しい。


 また偶像崇拝者でもある。


 そしてこの国では真珠が大量にとれる。


 なにせ大量にあるから死者を弔うときにこの真珠を活用する。


 まず使者の弔い方は土葬と火葬が並びおこなわれている。


 そして土葬の場合は死者の口に真珠を入れて埋葬するんだ。


 とにかく希少な物に対する価値観が違うので、ぼくらにとって財宝が豊富にある豊かな国だ。



 ここからがなぜ戦争をすることになったかだ。


 理由は同じ、かの皇帝も豊かなその国の話を聞きつけて、これを征服しようと思い立った。


「それで忠烈王よ。官吏を介して述べた〈島国〉については真か?」

「はい、お送りした金の器と同等以上の物がかの国には無数にございます」

「そうか――アラテムルはいるか?」


「ここに」


「お前の母は朕ら歴代皇帝の娘が降嫁する家――いわば家族である。そしてお主ら二人もまた同じ王朝に属する王族となる。ならば同じ家族である我々にウソ偽りは不要であろう?」


「はい、まさにその通りでございます」


「お主は海の向こうにそのような豊かな国があると思うか?」

「私も同じ黄金の器と美味しいニワトリを貰いましたので――もし、よろしければ私をその〈島国〉へと派遣してください」


「それはならん。まずは使節を送り、それからとなる。しかしお主も一人前の兵であるのだから、遠征軍が必要とあらば、あるいは行くことになるやもしれぬな」


「はっ」


「ほかにも南宋の船の材料はその島に生える膨大な木が材料だと言います。南宋攻略の際も〈島国〉のことを心に留めていただければ幸いです」


「なるほど、覚えておこう。次の謁見があるゆえ、二人とも下がるがよい」


「はっ…………くくく」

「はっ…………ふふふ」


「…………〈島国〉か、クドゥン将軍を急ぎ呼ぶのだ」

「かしこまりました皇帝陛下」



 さて、皇帝は〈島国〉征服のために二人の将軍と大船団、騎兵と歩兵をそろえて派遣したんだ。


 その将軍の一人はアラカン将軍、もう一人は范文虎将軍という。


「氾文虎将軍、準備はよろしいか?」

「ええ、それよりアラカン様は病気で伏せられたと聞き及んでいましたが……」

「大丈夫だ。問題ない。寝たら治った」

「そうですか。それではアタカイ将軍は留守番ですね」

「当たり前だろう」


 彼らは泉州と杭州の港からオケアノスに乗り出した。


 そして長い航海の末に島へと至った。


 上陸して、すぐに平野と村々を占領した。


 だが、城や都市は奪えなかった。


「島の平野を奪えたが、博多には攻め入れない」

「大軍をもって包囲するんだ」


 そして不幸なことが彼らを襲う。


 その原因というのもこの二人は互いに憎みあい、足を引っ張りあっていた。


「おい、また将軍たちがいがみ合ってるようだぞ」

「ああ、洪茶丘将軍と金方慶将軍だろ」

「違う違う。范文虎将軍とアタカイ――じゃなかったアラカン将軍だ」

「どっちにせよ。上官たち何とかならないのかな……」

「はぁ……」

「はぁ……」



 さて、そんな状態のある日のこと嵐が襲ってきた。


 風があまりに強かったので、大船団はひとたまりもなかった。


 嵐を逃れようと海に出たが、この船団は小島にぶつかり大破してしまった。


 軍の大部分は壊滅して、わずかに3万の兵が小島に上陸した。


 二人の将軍は残った船を島に近づけ、万人隊長、千人隊長、百人隊長を救出したら帰ってしまった。


 本当なら全員乗せられたらしいんだけど、二人の将軍が非常に仲が悪かったのでこうなってしまった。


「クドゥン将軍は?」

「すでに撤退してしまった!」

「范文虎将軍はどこに行った!? この命令書はなんだ!」

「わからん。すでに将軍たちだけ集めて船に乗せている」

「ダメだ。置いて行かれる!」

「待ってくれーー!!」



 それでは残された三万の兵たちの話をしよう。


 ジーペングオの王は〈帝国〉の船団がちりぢりに逃げ去ったと聞き大いに喜んだ。


 そして残党が残っている小島へと兵を差し向けたのだ。


 ただこの兵たちは戦いになれていなかったため、船に警備兵を残さずに皆で上陸してしまった。


「若者はすでにほとんど死んだ……」

「これが初陣という三十、四十の兵しかもういない……」

「皆の者、弓箭の道は先懸をもって常とする、ただ駆けよ!」

「う、うおおおおおお!!」


 これに対して思慮に富んだタタール人たちは一気に動き出した。


 逃げると見せかけて逆に敵の船に乗り込んだんだ。


「煙幕を張れ!」

「ハッ!」


「な、なんだこれは! 目が見えぬ!?」

「て、敵はどこだ!!」


「がはははは、一気に突撃だぜ!!」

「オオォォ!!」


 タタール人たちは船に乗り込んだ。


 そして、すかさず本島に向けて出発してしまった。


 本当に着いた彼らは船に備え付けられたジーペングオの旗をなびかせて首都へと行進を始めた。


「王国軍の凱旋~~!」

「門を開けよ~!」


「おっしゃ! 一気になだれ込め!!」

「ウオオォォォッ!!」


「!!?」


 こうしてたちどころに首都を占拠してしまった。


 そのことに気が付いたジーペングオの王は軍を使って、自分の首都を包囲してしまった。


「攻め込まず包囲せよ! よいな先駆け夜襲は禁じる!」

「応ッ!」


 この軍勢は皇帝に救援の知らせを送ろうとしたが、完全に包囲されてそうすることができなかった。


 それから約7ヵ月も籠城して持ちこたえたが、もはや軍を維持することができなくなった。


 そこで軍を率いる長が命を助けるかわりに一生ジーペングオの島から出ないという条件で降伏した。


『俺らは……これ以上戦うことを望まない。俺の身はどうなっても構わんが、――どうか、どうか部下たちを助けていただきたい』


「私はこの者の願いを聞き入れて停戦と事後協議に移りたいと思う。皆の者は如何か!」

「すべては我らが王の御心のままに!」


「キング・ジーペングオ、万歳! キング・ジーペングオ、万歳!」

「キング・ジーペングオ、万歳! キング・ジーペングオ、万歳!」

「キング・ジーペングオ、万歳! キング・ジーペングオ、万歳!」


『………………ゆる……された……』

「ゆる……されたのか?」

「……ゆる、されたな」

「「「ふぅ~~……」」」


 これが1268年に起こったことになる。



 次に逃げ帰った将軍の一人を皇帝は斬首刑に処した。


「待ってください! この戦の総大将はアタカイであってワシではない!」

「処刑せよ」

「ハッ!」


 そしてもう一人の将軍は無人島に流された。


 そこで生の牛皮を両手に巻いて、縫い付けたのだ。

 この皮は乾燥すると動かせないほど固く締め付ける。

 こうしてもう一人の将軍は無人島で飢えて死に至った。


「お願いだ……弁明の機会を……アタカイに騙され……ぐふっ」


 二人の将軍が処刑されたのは、二人がこの戦いで本分を全うしなかったからだ。


 以上で、ジーペングオの戦い、「コウアン」の話はお終いに――




 ――おっといけない。


 はなし忘れていたことがあった!


 もう一つ驚愕な、そして不思議な出来事を教えてもらったんだ。



 それは「奇跡の石」についてだ。

ツッコみどころ満載ですが、まあ東方見聞録だからしょうがない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ