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すべての終わり











































 ―― 00:00:01 ――



































 風が突き抜ける草原の只中を駆けまわる一人の青年がいた。

 その草原の端では野焼きが行われ、その煙に燻されて森の動物たちがざわめく。


 彼は仲間たちと共に遠くにいる獲物を狙っていた。


 ――フォン。


 鏑矢の合図によって狩りが始まった。


 この草原の周りは森で覆われている。

 だから野焼きをしないとすぐに森に草原が飲み込まれてしまう。

 彼らはこの狩猟生活を守るために野焼きをしていた。


 青年が弓を引き、矢を射る。


 その矢はいつまでも、どこまでも飛び続けた。











 ――場所は阿蘇山のふもと。


 今からおよそ一万年前の出来事である。



 のちに〈島国〉と呼ばれる場所は大陸と地続きの辺境の地になる。


 この時代、一面が氷で閉ざされる氷河期だ。


 その影響で降り積もる雪が大地を覆い、その氷壁の厚みの分だけ海面が低くなる。


 潮の引いた大地は一面、塩の結晶となり、人が住めない死の大地がどこまでも続いていた。

 

 それでも大陸からマンモスなどの大型動物からウサギやネズミといった小動物まで多数が列島に渡って新たな生態系が誕生した。



 草原地帯が現在よりも広大に広がっていた氷河期、人々は動物を追いながらその恵みを享受していた。


 彼らはつねに移動する動物たちを取り尽くさないように狩ることに長けていた。


 それは原初の遊牧民に近い存在であり、死の大地を渡る術を知っていた。


 辺境の山脈に草原はほとんど無かった。

 しかし荒ぶる阿蘇山そのふもとで火災が起きて、翌年に草原が誕生したことを知った。


 彼らはそこから野焼きを学び、狩猟のためにそして草原を移動する動物たちが繁殖するように、野焼きを続けた。



 後にこの部族は〈始まりの民(ジョウモン)〉と呼ばれる。



















 ――三千年後(紀元前五千年)。


 氷河期が終わりを迎えたこの時代に大陸と列島は分離していた。


 それでも大陸側は海沿いに文明を築き、できるだけ列島との間を行き来していた。


 そして〈始まりの民(ジョウモン)〉もまた九州の南部に集っていた。


 彼らがこの地を目指すのは薩摩の南、屋久島の少し北に巨大な神山が天を貫いていたからだ。



 皆がこれを目印に集まった。



 その標高は一万メートルを優に越え、その直径は20キロメートにも及ぶ富士山を越える偉大な神山だった。

 人々はその雄大さに引き寄せられるかのように、そのふもとに巨大な集落を築いていた。


 大地はマグマの熱で常に暖かく、氷河期に蓄えた氷を溶かし、恵の水を与える。

 人々は神山を奉り、その信仰心から結束した社会が出来上がる。



 そして――その文明の走りとも言うべき神山社会は一瞬にして滅亡した。



 後に鬼界カルデラと呼ばれるように七千年前にカルデラ噴火が唐突に起こった。


 〈始まりの民(ジョウモン)〉は死を振りまく火砕流に飲み込まれ、天から降り注ぐ火の雨に押しつぶされた。

 黒い雨が降りそそぎ、灰の雪が草原を消し去った。




 僅かに残った人々は北へ東へと逃げるしかなかった。


 その避難民たちは見た。


 海が、川が、湖が灰の泥に覆われて、まるで(ヒル)のような何かになるのを――。

 淡路島が火山灰に埋もれ、島が大きくなる様子を――。



 彼らは悟った、この世界は神々の世界であり、今まさに神が島を、国を産み落としたのだ。



 その新しい思想の影響は凄まじく、列島の西側一帯に神を信仰し、頑なに産み落とされた国に住み続ける人々が誕生した。


 彼らは〈留まる民(ヤヨイ)〉となり北九州から西日本の僅かな海岸に住まうようになる。


 そして〈始まりの民(ジョウモン)〉としての生き方を守る一派、〈流浪の民(エミシ)〉は土地を去る動物たちと共に東北へと旅立つ。













 ――五千年後(西暦五世紀ごろ)。


 転機が訪れた。


 この時代になると〈留まる民(ヤヨイ)〉は積極的に大陸の文化を取り入れて発展していた。

 そして自らを〈大和(ヤマト)〉と称し、都の建設を始めた。

 彼らは王朝を興すと列島の統一のために動き出した。


 東へ、東へ、北へ、北へ。


 そんな彼らの前に現れたのが東国〈流浪の民(エミシ)〉だった。

 この二つの民族は言語がほぼ同じだが、農耕と狩猟という全く異なる異文化の民になっていた。

 本来なら衝突しそうなものだが、この二つの民族は友好的に交流することができた。


 西国は大陸から馬を輸入することができたが田植えの影響で馬を育てる場所がなかった。

 しかし〈流浪の民(エミシ)〉たちが住まう東国は野焼きを続け、草原が多く馬の産地となった。

 もともと発祥の民族が同じこともあり、東は馬を西は鉄を生産した。


 時に衝突し、時に交流をしながら共に発展していった。












 ――飛鳥の世。


 〈大和(ヤマト)〉の貴族たちは繁栄と安寧を享受していた。しかし王朝の悲願である全土統一は果たせないでいた。

 彼らは自らの統治に抗い続ける者を〈まつろわぬ者(エミシ)〉と蔑んだ。


 しかし彼らは繁殖させた馬に乗り、東北の山々を駆けまわる山岳弓騎兵へと変貌していた。


 山間を巧みに移動して寡兵でもって大軍を追い返す。

 それは大陸で繁栄した王朝すら滅ぼす騎馬民族――それと遜色のない弓騎兵の軍勢になっていた。


 大和の朝廷は〈まつろわぬ者(エミシ)〉を意味する文字として人と弓と矢によって構成された字「夷」を当ててエミシと呼ぶようになった。


 苦々しくも手が出せないでいた時に変化が起きた。


 朝廷が大陸の大国「唐」と戦争を始めたのだ。


 ――そして負けた。


 その「白村江の戦い」に惨敗してから始まった一連の大改革を「律令制」という。


 本来は超大国「唐」に対抗するための制度だったが、彼の国は〈島国〉へ攻め込んでこなかった。


 そこで強大な軍事力を持て余した朝廷はかねてから敵対的だった内憂の対処に乗り出した。

 つまり〈まつろわぬ者(エミシ)〉が住まう東国への進攻である。



 これを「征夷の時代」、「三十八年戦争」と呼ぶ。



 弓騎兵殺しの弓騎兵、重装弓騎兵はこの血みどろの戦争で誕生した。


このエピソードは本小説用の史実や地質学、考古学を交えながらの創作です。

阿蘇草原の地層の野焼きが一万年ほどあるのですが現在その理由は不明です。

鬼界カルデラがどれほど日本文明に影響を及ぼしたのかも不明です。

私が生きてる間に新発見あればいいな~。


ちなみに通説の重装弓騎兵と武士の発祥は律令制が崩壊した後に農民たちが小競り合いを繰り返しながら武装化した結果誕生した、らしいです。

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