あずきのアイスとおねえさん
また、こういう系統です。温かい目でみてくださいまし。
田辺は目を覆った。しばらく肉やマグロが食べれなくなる、そう感じた。原因は今、目の前に広がる潰された死体。頭はもうないに等しいだろう。トマトを壁に投げたようなそんな見た目。普通に生きていたら、絶対に見ることない景色。田辺はこの道に進んだことを、また後悔した。
「被害者は、山本晴人。29歳。職業は小説家。」
そういった話を聞くと眠くなる。刑事でありながらそう感じている田辺に、横から声をかける人物がいた。
「田辺さん。山本晴人ってあの、くしゃみをしたらなんか異世界転生したけど、そこでのくしゃみは世界最強!?を書いた人ですよね。」
ラノベ好きのこの、石川という人物は、そう話した。田辺は、最近のラノベはタイトルが長いな、と感じた。が、割と有名な人が亡くなったという事実も知れた。
日本の警察はすごいもので、怪しい人物を、すぐ見つけてしまう。現に、今、田辺の前にいる。
「あの、お姉さん。少しいいですか?○○署の田辺といいます。」
「はい。なんでしょう。おねえさんです。」
すばらしく、透き通った声を発したこの女性に、多少顔を赤くしながら、田辺は質問をする。
「あの、お名前よろしいですか?」
「はい、おねえさんです。」
沈黙がうまれた。
一方そのころ、石川は犯行に使われたであろう凶器の捜索をしていた。遺体周辺にはなかった。というより、被害者が何で殺されたのか、いまいちわかっていなかった。大きな鈍器を使用して潰したようには思われるが、奇麗に潰されているわけではない。そこが、謎を深めるポイントであった。
「石川さん。鑑識からの話によると、遺体の周りに小豆が落ちていたらしいです。」
「小豆?なんで?」
「さあ?」
石川は表情を曇らせながら、捜索を続けた。ずっと、小豆、小豆と、つぶやきながら。
「えーと。おねえさん?○○月○○日○○時ごろ、どこで何してましたか?」
「その日はたしか、お腹を壊していて、夜はずっとトイレでした。
「照明出来る物や、人は?」
「ないです。ごめんなさい。」
あまりにも、冷静なため、疑うのが難しくなった田辺は一回、石川と合流することにした。
「石川、凶器は?」
「ダメです。さっぱり。」
「田辺さん、ちょっと。」
横から声をかけたのは、鑑識の鈴木。
「遺体の周りに、小豆と甘味料が付着してました。」
田辺は驚く。
「小豆?甘味料?なんで?」
「そして、その成分を調べてみたら、とあるものと一致しまして。」
鈴木が見せたのはアイスの写真だった。
「ああ。小豆棒だ。美味しいですよね。」
「小豆棒とこの事件、何の関係があるんだ?」
「小豆棒で殴ったとか。」
場が凍った。アイスだけに。
小豆棒とは、井林屋というメーカーが販売している小豆のアイスである。その特徴は、その硬さである。釘を打つほどに硬いそのアイスは、多くの人を魅了した。
「アイスで殺人?」
田辺は、少し信じてしまう自分が情けなかった。今までに聞いたことがない。アイスで人を殺すなど、フィクションに近い。
「田辺さん!大変です!×月×日に、例の女性と、山本が会ってます。」
「何?」
その映像に映っていたのは、確かにあの二人だ。山本の方は酔っているのか、フラフラしている。
「あ!!!!!!!!!」
田辺が声を上げる。女性の持っているかごの中に、大量の小豆棒を見つけたのである。
「話聞きに行くぞ。」
いきなり、小豆棒好きか?聞かれても丁寧に
「はい。大好きです。」
と答えた。
「いや、その。」
田辺は反応に困る。
「おねえさん。さし、い、、れ。」
後ろから声。声の主であるその男は田辺を見た瞬間逃げ出した。
秒で捕まった。竹田です。とすぐ名乗った。チョロ。
この男は、知ってることを全部話した。事件の真相が分かった田辺は、皆を集めた。
「事件の真相が分かりました。」
「さすが田辺さん。」
田辺は息を吸うと口を開いた。
「すべての始まりは、×月×日にコンビニで起きた。コンビニで小豆棒を買っていたおねえさんに話しかけた人物がいた。そう山本です。山本は酔っていました。そして、彼女にこういった。小豆棒って15分くらいで柔らかくなるよね。」
場が凍った(二回目)
「おねえさんは、そのセリフに大きく傷ついた。なぜなら、彼女は小豆棒が大好きだったから。彼女は、復讐を決意した。」
「えーと?田辺さん?動機が小豆棒?」
石川の質問に対し、首を縦に振る田辺。
「おねえさんは知り合いの竹田に、このことを話した。竹田は井林屋の商品開発部部長だった。竹田は彼女の話を聞いて、社員全員で彼女を助けることを誓った。そしてできたのが。30㎝を超える巨大な小豆棒。」
「まさか。」
「そう。これこそが凶器だ。おねえさんはクーラーボックス片手に毎晩山本を探し続け、○○月○○日ついに、目的を果たした。さらに、彼女は山本を殺害した後、表面が溶けるのを待ち、血がはがれたところで、アイスを食べてしまった。証拠隠滅の完了だ。」
「じゃあ、お腹を壊したのって。」
「ああ、アイスの食いすぎだ。」
田辺はおねえさんの方を向く。
「これが事件の真相です!」
「あ、小豆棒4を馬鹿にされたのが、許せなかったんです、、、」
おねえさんはそう言って泣き崩れた。
あれから二か月。井林屋は事件の責任を問われ倒産。もう小豆棒を食べることはできなくなった。田辺は、あの硬さを時々懐かしく思うのだった。
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、商品とは関係ありません。