サキュバスなってん…。
連載版で書いてみようかと思った内容の原案的な短編です!
「貴方は死んでしまいました」
貴方は死にました―――突然そんな言葉を突きつけられた青年は途方に暮れた様子で座り込む。
突然白いこの空間で目を覚ました青年は辺りを見渡しながら状況を整理しようするが到底理解が追いつかない。
ここが何処か、今がいつかなのか、目の前の女性が誰なのか、青年はそんなことを頭の中で考えながらも口から出たのは違う言葉だった。
「死因はなんですか?」
目の前の女性はその質問に何処か困ったように逡巡しながらも、ハッキリと青年に告げる。
「なんやかんやあって、死にました」
「なんやかんやて何ですか⁈」
「さて、私は貴方のような歳若くして非業の死を遂げた方を異世界へと案内する女神です」
「無視ですか⁈」
先程までの戸惑いも何処かへ。青年は叫び声をあげる。
しかし、女神様は青年のそんな叫びを聞きながらも華麗にスルーしながら話を続ける。
「これより貴方を異世界へと転生させます。転生する異世界は王道ファンタジー的な世界へと転生予定です。それにあたり貴方の要望を聞きたいと思います」
「要望とは?つまりチート「チートはダメです!」」
女神様は食い気味に否定する。
「皆さん転生させようとするとすぐチートチートって言い出すんですよ!もう!なんですか、記憶持ったまま転生させてもらえるだけでもありがたいとか思わないんですか⁈」
女神様、オコである。毎回言われているのかご立腹のようだが今初めて経験している青年にはただの理不尽である。
「では……どんなことなら大丈夫な感じですか?」
青年は気を取り直しながら質問を続ける。怒らせるのは得策じゃない……そんなことを考えながら。
女神様は少し考える素振りを見せるもすぐハッとした顔で注意する。
「そうですねぇ、例えばなんでも切れるし凄い膂力を与えてくれるような魔剣とかは渡せません。他にも私の対応が気に入らないからと言って私を連れていくことも出来ません!」
どっかで聞いたことのある例えである。
「私に出来るとすればせいぜい性別を変えたり人種以外の種族に転生させる位のものです!」
そんな説明を聞きながら青年はふと思ったことを口にする。
「なら、僕自身の身体をそのまま異世界に持って行くことは出来ますか?」
説明には要望云々のことばかりで転生方法はなかった。なら、自分の慣れ親しんだ肉体を持っていきたく思うのはおかしなことではないだろう。
「貴方の肉体ですか?それは構いませんけど……私、多少の損傷は治せますけど、既に火葬されてますから今からだと人種とかじゃなくてスケルト「是非さっきの要望でお願いします!」」
今度は青年が食い気味である。極一部を除いてモンスターに転生を願う者は居ないだろう。
「わかりました、では、要望を言ってみて下さい。どんな能力のある種族がいいとか……。流石に無理なら言いますので。どんなのが良いのか聞いてみないと判断つきませんから」
女神様の言葉青年は意を決したように要望を次々口にする。
「要望詰め込んできましたね……。まぁ、その程度なら構わないんですが……あくまで要望に近い種族を選ぶだけですし」
女神様はしばらく何かを探すように視線を空中に彷徨わせると何かに見当をつけた顔をする。
「なら、魔族がいいかもしれません」
「…魔族ですか?」
提示された種族に嫌そうな顔をする青年に女神様は慌てたように弁明する。
「いえいえ!魔族と言っても世界を滅ぼす魔王の手下とかじゃないですからね⁈あくまで魔法に長けた一族で、魔族ですから!あくまでも人種より優れてて多少嫉妬の対象になることがあるってだけですから⁈」
「なんか魔族推しますね?さっきの要望だとダークエルフ辺りとか推してきそうと思ったんですが?」
「いえ!別に魔族の少子高齢化が進んでるから少しは増やして改善出来るといいなぁ!とか考えてのことではなく、あくまで要望を聞いて前向きに検討して慎重に精査した結果です!」
色々ダダ漏れである。そして言い方が為政者臭い。
「それに容姿もそれなりに優れた種族でもあるので頑張ればハーレム作れるかもしれませんよ、ハーレム!」
女神様は気を逸らそうと誤魔化すように叫ぶ。
「あ、でもハーレムは惹かれますね」
「そうでしょう、そうでしょう!それに貴方には私から加護も与えます!そんなに凄い力はありませんが無いより遥かにマシですよ!容姿端麗、能力優秀、現代知識持ちの加護持ち!これは引っ張りだこになりますね!」
女神様、必死のあまりセールストーク気味である。
「それと転生場所は比較的治安の良い街の近くの森に送り込みます!急に街中に現れると騒動になったりしますからね!あ、お約束みたいに他の場所になんて飛ばしませんし裸一貫でも放り出したりもしません」
女神様はまくし立てるように説明を続ける。
「それに世界が違うので言語理解や一般常識辺りも頭に突っ込んでおきますので後ほど常識の違いで生活に困ることとかも特にないと思いますよ!」
女神様はドヤ顔でどうだ!と言わんばかりである。
「それは……何から何までご面倒おかけします」
青年はそう言ってぺこりと頭を下げた。
「そうですよ!私だって別に意地悪してるわけじゃないんですから、そうやってありがとう、て言ってくれればいいんです!」
女神様、ご満悦である。あまり褒められたり感謝されることが少ないのかもしれない。
「ちなみに持ち物にはしばらく生活できるだけの物も入れておくので役立てて下さいね!行ってその日にお金ないから宿にも泊まれない、なんてハードモードにはなりませんので!」
チートは無いわりに意外と至れり尽くせりである。
とりあえずの転生内容を話し終えると女神様は最終確認を取り始める。
「それでは最終確認です。これより貴方、誠さん改めてマコトさんを異世界へと送ります。要望として寿命が長く頑丈で痛みに強く病気にも耐性のある魔力適正の高い魔族へと転生させます。赤ちゃんプレイは御免だと思いますので歳は10代半ば頃の肉体となります。
送る場所は比較的治安の良い街の近くの森へと送り込みしばらくは人払いもしておきます。荷物にしばらくの生活物資、及び旅の装備も一式持って行ってもらいます。初日から金なしで野宿なんてみていられませんからね。
あっちの知識も転生時に頭にインプットしておきますので魔法の扱い等もわからない、なんてことにはならないと思います。
これで間違いありませんね?」
女神様の最終報告を聞き特に問題がないと判断した誠…マコトだが最後に一つ気になることがあった。
「女神様、要望についてはそれで大丈夫です。ですが、僕は向こうに行って何をすればいいんでしょうか?モンスター退治ですか?それとも世界の危機でも救えばいいんでしょうか?」
転生するにしても何もマコトは何も啓示を受けていなかった。
非業の死を遂げた者を送り出すにしても目的があるはずだ。昔から読んだ作品では多々そういうことがあるし、そうでもなければわざわざやる意味もないと考えたからだ。
だが、女神様はキョトンとした顔をするだけだった。
「いえ、特にありませんよ?魔王なんてあくまで魔族の王であって世界を狙ってなんてませんし、戦争なんてここ百年以上起きてません。モンスターは居ますけど別に世界を破滅させるようなものでもありませんし、職業に冒険者はありますけど、なることを強制する気はありません」
「な、なら一体僕は何をすれば……」
マコトは戸惑いを隠せない様子だった。だが、次の女神様の一言に転生の真意を知る。
「私はあくまで、未練のある魂を私達の管理する世界へと送るだけです。そこで何をしようと私から何を言うわけでもありません。
冒険者になろうが商人になろうが構わないんです。町民になってただ一般人として過ごすもよしです。ただ……」
「ただ?」
「貴方が幸せである来世を送っていただければそれでいいんです。願わくば他の人も幸せにしてあげられれば尚良しです」
女神様はそう言って、はにかむように微笑む。それは全ての命を愛する慈愛の女神として本当に望む想いなんだろう。
マコトは一も二もなく頷く。
そしてその足元に魔法陣のような物が展開される。
「それではこれにて転生に必要な説明当然全て終了いたしました、お気をつけて。どうか、良き人生を」
女神様はそう言って微笑みながら手を振る。
「ありがとうございました!」
そう言いながらマコトの意識は徐々に霧散していく。
「出来るなら何か達成したら願い叶えてくれてもよかったのに……」
「もう!例えで言ったのに引っ張らないで下さいよ!」
なんとなく発してみた言葉に敏感に反応する女神様。マコトは苦笑いしながら異世界へと転生した。
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森に囲まれた草原、そこに一人の人物が立ち尽くしている。
しばらく周りの様子を伺っていた人物は自分の手を何度か眼前で握ったり開いたりしながら身体の調子を確かめるように動かす。
ちゃんと転生出来たみたいだ…。そう思いながら大きく息を吐く人物。
それは転生したマコトだった。
マコトはそのまま自分の服装を確認するように視線を下ろす。
なんの皮で作られているかはわならないが随分と頑丈そうに作られた全身を覆うローブ。
腰には一本の大振りのナイフ。
そして肩にはショルダーバックが一つ。
それが装備の全てだった。
それにマコトは首を傾げる。女神様は装備と共に生活物資も用意すると言っていた以上はリュック位の荷物はあると考えていたからだ。
だが荷物が入りそうな物はショルダーバック一つだけ。生活物資を入れるにしても小さ過ぎるだろう。勿論、アイテムボックスやインベントリ等の収納系の魔法は習得していない。
疑問に思いながらもバックの中身を確認しようと中に手を入れると頭の中にいくつもの項目が表示され、驚く。
・テント・寝袋・調理用具一式・二日分の着替え・食料21食分・地図・医療品・硬貨
それは普通のバックではなく、マジックアイテムだった。それも登録した本人にしか使用出来ず魔力量に応じて収納量の増える代物だ。
女神様から与えられた知識の中にあったマジックアイテムの価値にマコトは苦笑いする。それだけ価値の高い物なのだ。
硬貨もだ。金貨1枚、銀貨5枚、銅貨10枚。それに大銅貨10枚、大銀貨5枚だ。
簡単に金貨は100万円、大銀貨は10万円、銀貨は1万円、大銅貨は1000円、銅貨は100円程の価値となる。ちなみに今の所持金程度ではマジックバックは買えない。
多少高めの宿でも朝晩食事付きで銀貨2〜3枚。普通の宿でも同じ内容で銀貨1枚かそれよりやや低い位である。大銀貨だけでも節約すれば2ヶ月程は生きていけるレベルだ。
他の物の価値も考えればチートではないにしても充分過ぎる内容だった。
「女神様も随分奮発してくれたもんだ……」
呆れ半分感謝半分、そんな感情を抱きながら呟くマコト。それと共にマコトの耳には聞き覚えのない少女のような声が確かに聞こえ、周囲を見渡す。
周りは草と木ばかり。マコトの視界には少なくとも少女のような声を出す人物は確認出来なかった。だが、それと同時にジワリと嫌な予感と共に額と背中に汗が吹き出るのを感じる。
そんなこと、あるはずがない…マコトはそう言い聞かせるように自分を鼓舞しながら周りをよく見ようと被っていたローブに付いたフードを脱ぐ。
それと同時にマコトの視界にフワリと舞うピンクゴールドの髪。それを見てしまったマコトは自分の嫌な予想を否定することができなくなる。
何か、自分を見ることの出来るものを探そうと躍起になり、川の音を耳にしたマコトはそちらに向けて走り出す。
なんとなく前世よりも低い視界。森を疾走し身体が揺れる度に揺れ動くローブ内の胸部の何か。思い出せば白く細かった小さな掌。
ついに辿り着いた緩やかな川から水の流れ込む泉に跪いて水面を覗き込んだマコトが見たのは―――
「マジか……」
腰近くまであるピンクゴールドの髪に、鮮やかで艶のあのるピンク色の唇。大きな瞳は赤く映え長いまつ毛が縁取られている。透き通るような白い肌にはシミ一つなく、無垢な少女から大人の女性へと移り変わりつつあるその顔は独特の色気を放っている。
それはおよそ15〜6歳頃の少女だった。わかり辛いが頭には小さなツノも生えていた。
マコトはそっとローブの中へと手を入れるとすぐ弾力のある双丘に触れる。それなり、いや少なくともこの頃の平均よりも大きいであろうそれは確かに存在感を示している。
もう少し下は……と、そこでマコトは確認することをやめた。少なくとも何もないのは感覚でわかっていた。少し前まではあったであろう場所にはもう、何もないのだ。
マコトはそんな確かめた容姿からとある種族を連想した。そう、この種族の名前は
「これ、サキュバスじゃんか……」
淫魔族だった。
「僕、サキュバスになってん……」
マコトは幽鬼のようにのそりと立ち上がるがその場からすぐには動かずに立ち尽くす。
マコトは確かに魔族に転生すると聞いていた。その種族についてマコトは深くは知らなかったが、自分の要望に合う者を見繕ってもらった以上、そう悪い者ではないとたかを括っていた。
だが、蓋を開けてみればサキュバス。性別の設定していなかったがまさか性転換させられるとは思っていなかったマコトにはこの状況はすぐに受け止めきれなかった。
だが、女神様からすれば真剣に要望を聞いた結果だった。
寿命が長く頑丈で痛みに強い。それでいて病気に耐性のある魔法に長けた種族。
そう、確かにサキュバスが打って付けだった。
魔族であるサキュバスは魔法適正が高く、それでいてとても長寿だった。それこそ、長く生きた者だと1000年を超える時を生きた者すらいた程だ。
それでいて、サキュバスは精気を吸うため様々な者と色々と関係を持つ。そのため、物理的にはそれ程頑丈ではないにしてもその生命力は非常に高く、それでいて痛みにも強く痛覚を感じ辛い身体だった。
更に、病気にかかる例は全く報告されていない。それだけ耐性が強いのだ。その上、容姿にも優れているため、女神様からすればこれほど要望に沿う種族は思い浮かばなかった。
それを女神様から与えられた知識から引っ張り出してきたマコトは女神様に恨み言を言うでもなく、だからと言って普通性転換はしないだろう、と呆れ、それでいて、要望を聞かれたとき、
『既に火葬されてますから今からだと人種とかじゃなくてスケルト「是非さっきの要望でお願いします!」』
と言ってしまっていることに頭を抱える。そう、マコトの言い方にも問題があったのだ。
そのままどれくらいの間そうしていたか、少なくない時間立ち尽くしていたマコトはふらふら街へ向かい歩き始める。
転生してしまったものは仕方ないのだ。立ち尽くしていては何も始まらない。少なくとも立ち尽くすより一度街へと向かうべきだと、そう感情に整理をつけた。もちろん、まだ何も割り切れているわけではないが…。
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マコトが転生してから一月。マコトの姿は夜の酒場で見つけられた。朝は冒険者、夜は酒場でバイト、それがマコトの生活パターンだった。
「マコっちゃん!こっちエール2杯!」
「こっちはつまみ追加で!」
「マコっちゃん酒の酌してくれ!」
「今夜銀貨5枚でどうだ⁈」
そんな飲んだくれ達の相手もそこそこに給仕に徹しながら時おり伸びてくる手をお盆の端で叩き落とし、時には脳天へも落としながら歩き回っていた。
「マコっちゃん!そろそろあがっていいぞ!」
「はーい!お疲れ様です」
そんな声を店の店主から聞いたマコトは手早く身支度を整えると酒場を後にする。残業はしない主義なのだ。
そのまま賄いでもらったサンドイッチを頬張り、知り合いの孤児にもお裾分けしながら拠点の宿へと足早に戻るマコト。
そのまま自分の泊まっている部屋へと戻りそのドアを開けると。
「マコトおかえり!」
そう言って少女が部屋の中から飛び出しマコトへと抱きつく。
「うん、ただいま」
マコトは微笑みながらその頭を撫でる。
飛び出してきた少女以外にも部屋の中には数名の気配がしている。全員女性のようだ。
転生したマコトはサキュバスになりはしたがそれなりに今を満喫しているようである。
ここまで読んでくれた方々ありがとうございました!




