時の流れと逆らう君達へ
双子座流星群の夜にしっかりと防寒着を着込んだズッコケ三人組は肝試しをする為に長野県の飯山城跡近くのとある学校に忍び込もうとしていた。学校近くのコンビニに集まり一人500円程のお菓子を買込み、だらだらと宿題の進捗状況や分からない問題を聞いたり教えたりしながら学校へと向かうのであった。
千曲川も近いこの学校には七不思議があり一番有名なのが音楽室に黒い人を見たというものがあり、他には職員室前の鏡に霊が映るだの、トイレの何番目に花子さんがいるとか、音楽室の音楽家達の額縁が喋ったり、ピアノが勝手に鳴ったり、二宮金次郎像が歩き出すとか、階段の段数が変わるとか、テケテケが出たり、ひじ子さんが闊歩したり、紫の老婆が徘徊するだとか、口裂け女、人面犬と好き勝手に噂を流したい放題だった。
こういうデマを自分たちの目で確かめないと気が済まない謎の義理人情で集まった星羅、優花、ひなが集まった。
冬休みの宿題も去ることながら学校七不思議も解明しなくちゃ噂が本当なのか分からないし、これが解明出来ればゆくゆくはUSO!?ジャパンや奇跡体験アンビリーバボー等に投稿出来るし出演したいとも思っていた。事前に星羅は親に星空を撮ってみたいと嘘をつき夜景モード搭載の写ルンですを買って貰い出てきた幽霊をこのカメラでパシャリと撮ろうと思い、お清め用の食塩で呪われない様にして、音も録れるようにウォークマンも持参して来た。一方の優花は幽霊は信じるもののこういう事には現実的では無いと思う派閥の一人であり、仲の良いひなについて来たものの終始気乗りしなかった。ひなは怪談がどうこうというよりかは集まってはいけない時間帯にいけない場所にいるという非日常の今に心の底からワクワクしていた。星羅は他の男子よりも少々大人びた所があり、数人の女の子と付き合った事はあるが今の彼女が一番可愛いし愛くるしいと感じていたが、少しだけ嫉妬深くやきもち焼きだったのがたまに傷であった。
めんどくさがり屋の星羅はその日は叔父さんと星を見ると嘘を付いていた。
時刻は深夜零時いよいよ探索が始まった。勿論、正門の玄関や職員玄関は鍵が掛かっているが星羅は冬休みに入る前に中庭に繋がる一年生の教室の部屋をちゃっかり解錠して外から入れるようにしてあり、そこから忍び込む事にした。自分達しかいない深夜の学校の敷地には僅かに千曲川の川の音が校舎にも響いていた。
星羅はウォークマンの録音スイッチを押し中のカセットテープがゆっくりと回り出し、ポケットの中にしまっていたジップロックから少量の粗塩をつまみ、女子二人にもお清めよだと言い聞かせふりかけた。教室の中の工作物の展示や習字の展示が妙な不気味さを醸し出していたのだった。早速教室を出て噂の出所を潰す事にした。
まず初めに向かったのが音楽室で何年か前に部活の準備をしていた子達が誰もいないのに気配がするというセンセーショナルな話の幕開けになった場所だ。音楽室は二階にあるので階段を上り進んでいると女の子達からお手洗いの提案があり星羅を筆頭に向かい用事を済ませた。
突然、無人の校舎に足音が響き渡った。
タッタッタと今さっき自分達のいた一年生の教室から廊下に向かって走り出す足音がズッコケ三人組の恐怖心を煽り立てた。しかも自分達のいる二階に向かい駆け上がってくる。理解し難い現象が今起きているが、星羅は咄嗟に機転を利かせ男子トイレに女子二人の手を引っ張りそれに出会う前に三人は急いで隠れる事にした。
この時ばかりは一秒がとてもとても長く感じた。荒い息が扉の前を過ぎ去っていき、やがて足音も遠くに消えていった。
互いに目を合わせ居るはずの無いそれを極度の緊張感の中で何なのかを想像するのは難しかった。自然が豊かな場所とは言え獣の様な感じでは無いし、かと言って霊的な感じも一切無かった。
人間だ。
間違い無い。
きっと。
しかしこんな所に来るなんて、自分達ならまだしも一人の様だし怒りの気配すら感じた。
幽霊よりも怖いのは生きた人間だなんてテレビの戯言と思っていたが現に遭遇するとは考えてなかった。
このまま探索を続行するか断腸の思いで帰宅するかの二択が頭を過ぎったが、ここまで準備をしてきたのに帰るのは簡単だし女子二人にも男らしさを見せたかったので、作戦を変更しソイツが誰なのか突き止めようと考えたのだった。
三人は音を立てない様にトイレから出て音が向かって行った方向に歩みを進めた。
この先は図画工作室だ。
後ろの二人の息遣いが聴こえるくらい物音もせず、数十分前の楽しい雰囲気は皆無となり荒々しい足音や息遣いも存在が無くなってしまったかの様に全く聞こえなかった。
廊下の壁側に掲示してある粘土の工作や自画像が妙に不気味だった。
途端に後ろの二人が怯え出した。
図画工作室からぶつぶつ何か聞こえてると。
星羅は恐ろしく感じた。何故なら星羅には何も聞こえなかったからだった。終いには声を殺して二人が泣き出す始末でどうする事も出来なくなってしまったので無理に引き連れる事は諦めて三人で帰る事にした。
恐る恐る息を殺し忍び足で床の板に体重を掛けていく。
服の布が擦れる音、靴底が廊下を引っ掻く音、床の軋む音。
歩くという行為がここまで音が出るのかと改めて認識させられるのであった。
生きた心地は全くしなかったのだが、ようやく最初に忍び込んだ一年生の教室まで行き着くことが出来き、後ろを振り返っても誰もいない事に三人は安堵した。
外に出ると結界が打ち破られた様に空気が軽くなったのを肌で感じ三人は笑顔を見せたのであった。
校門に向かい三人が歩いているとひなが妙な事を口走った。ねぇ、三階の教室の窓から誰かこっち見てない?
星羅が目を凝らして良く眺めると立ち姿が星羅の彼女にとても良く似ていた。
あれ?もしかしてアイツが俺の事探しに息を切らして走ってきたのか?
兎にも角にも知り合いだったと分かった瞬間、緊張の糸はぷつりと切れ三人はその娘に向かって両手で手を振り声を出して呼んだが中々気付いてくれない。
突然、星羅の携帯が鳴った。
なんだよ母さんからだとブツブツ言いながら電話に出た。
母からの言葉に星羅は言葉を失った。
お前の彼女さんついさっき轢き逃げに遭って亡くなったって。
なんで一緒に居なかったの。
母はそれだけ言って電話が切れてしまった。
彼女は星羅の嘘を見抜いていた。
他の女の子といるのが嫌だったから走って星羅の元に行こうとした。
だが会えなかった。
星羅は何かの間違いだと思った。だってさっき迄三人で眺めていたし、あそこの階にいたじゃんと勢い良く顔を上げて眺めた先には誰もいない空虚な教室が羅列してあるだけだった。