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時の流れと逆らう君達へ

2020年東京オリンピックイヤーで最高潮に日本が盛り上がるはずがコロナウイルスという未知なる脅威により人類を震え上がらせていた。

政府は公にする事が出来ない事実を突き止めていたもののそれを公表する事なく極一部の者たちにしかその情報を漏らさなかった。


草木も眠る丑満時の長野県飯山市。

政府からの要請を請け実家のある故郷まで遠路遥々戻ってきた1人の女性がいた。

彼女の名前...いやここではハンドルネームだけを紹介しておこう。マシューだ。彼女の一族は代々由緒ある神社の末裔で数千年の大往生した御神木を曽祖父の時代に木刀に変えそれを家宝としているのだが同じ種族でも血を選び馴染めないものは命までは取られ無いものの大怪我をさせられたりと中々人を選ぶ木刀だった。

木刀の銘は布都御魂剣ふつのみたまのつるぎと言った。手に馴染んでいた曽祖父はお祓いをしなくてもこの木刀には清い心が保たれており邪鬼や地縛霊、浮遊霊などを切る事が出来ると語っていたがその後に手に馴染むものが出てくる事は無かった。


木刀を持った事がない彼女だけには曽祖父が刀を持てるのはお前しかいないのだと夢枕に出ては頭を撫でてくれた。曽祖父はこうも言った。剣を持つ者は真剣であり、礼節を重んじる者だぞ。彼女は認められた事が嬉しかったという。

木刀に関しては人目に触れない様に厳重に保管していた為、一族であろうと簡単に触れるものではなかった。


話は1週間程前まで遡る。

コロナウイルスのニュースが連日流れていたある日黒服を着た男達が数人押し寄せマシューの父親にこう言ったのだそうだ。

コロナウイルスの原因はもののけつまり妖怪の仕業なのです。貴方の力を是非お借りして妖怪をお祓いして頂きたい。貴方の力は絶大ですのでよろしくお願いしますと懇願されたのだそうだ。


マシューの父は妖怪が多く集まる丑満時に政府関係者と共に祠の周りに蝋燭を立て盃の中に酒を満たし祝詞を唱えていた。しかし突然父が苦しそうに悶え吐血し顔面蒼白になり救急車に担ぎ込まれてしまった。家族は妖怪の力の強さを思い知ることになった。御祓いには絶大な力のあるマシューの父ですら妖怪の仕業には為す術が無かった。


不要不急の外出自粛要請発令中ではあるが政府からの要請を受け彼女は正月振りに故郷の土を踏むことになった。

政府の話では長野県飯山市には鬼道があり強い邪鬼が集まる丑満時に邪鬼を祓う事が出来れば根こそぎ妖怪が消えるのだそうだ。


マシューの父は命こそは取られなかったものの仇を撃つ為、前日に東国三社巡りを決行し三社の神の力を借り木刀の力を最大限に引き出す為に紙吹雪も持ち合わせた。


そして現在丑満時から少し時が過ぎた。

巫女の姿になったマシューはござの上に正座し息を整え横には木刀が置かれていた。

それからどれ位の時間が流れていたのだろう強い気配が目を瞑っていても感じる。

今一度襷掛けを強く結び直し意を決して目を開けるのであった。

そこにいたのは半透明で水色の刀を持った人間だが額の上に小さな角の生えた鬼だった。マシューはその時まで何故妖怪古写本絵巻を見せられていたのか分からなかったがようやく理解できた。私が妖怪を討つ為の勉強だったのだと。


マシューは蹲踞の姿勢から木刀を持ち上げ構え、剣先は鬼を捉えながらも間合いを取り睨みつけ言い放った。お前はひい爺ちゃんが斬ったはずなのに何故出てきた!


鬼は言った。ふん?知らないねぇ。おらぁ大人しく寝ていたのだがちょっと前の地震で封印石が割れたみたくてよぉ前よりも力が漲ってくるぜ。

マシューは強く短く言った。お前を斬る!


マシューの家は剣道一族だった。小さい頃から剣道は心の支えであり強さと美しさの源だった。曽祖父はいつも幼いマシューの前では笑顔の印象しか無いままに故人になってしまった。マシューの剣術の指導は祖父と父親が厳しくも仕込み上げたのだった。


マシューは木刀を持ち紙吹雪を纏わせ落としながら祝詞を唱えた。すると木刀が熱の無い紫の炎に包まれた。先祖代々伝わる怨霊や鬼、妖怪に攻撃力を倍増させ喰らわす呪詛の一つだ。

突如として鬼が切りかかって来た。なんとか弾けたが強い力と速さに負けそうになりながらも祖父と父仕込みの体幹の強さでなんとかカバーした。

すかさず鬼が大きく振りかぶって兜割の如く刀を振り落として来た。時止まり流れる水の如く敵の攻撃を交わし風の如く剣先が鬼の腹を突き刺した。

鬼は紫の炎に包まれ一瞬にして無となった。

なんとか勝てた。急に恐怖が込み上げ涙が溢れてしまった。怖かった。怖くてたまらなかった。木刀を手放しその場に座り込んで涙を拭っていたら電話が鳴り母からだった。父の容態が回復したという電話だった。


そして1週間後の新聞には鬼を倒してから長野県ではコロナウイルス感染者が徐々に減少しているという記事が書かれていたのだった。


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