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時の流れと逆らう君達へ

息を飲むという言葉があるが僕は今までそんな経験をするとは思っていなかった。

小学生だった僕は痛みすら感じる寒さの中、親戚の叔父さんが暫く前にボーナスで買った望遠鏡を眺めながら吐息が白く凍りつきそうな深夜の静岡県の三ツ星天文台に足を運んでいた。


物好きな叔父さんにはいつものように疲れてしまったがここまで星が綺麗だとは本当に思っていなかった。叔父さんが言うにはここは日本で2番目に星空が綺麗に見えるのだそう。


満点の星々の煌めきは日常を忘れ自分は何者なのかという事を問われていのではないかと思う程に漆黒の中に自分達の存在感を力強く誇示していた。


叔父さんは持ってきた挽きたてのコーヒーを得意げに魔法瓶の水筒から注ぎ僕に一杯くれた。鼻孔からコーヒーのとてもとてもいい香りが星空と良くマッチした。


双子座流星群を見に行ったあの日、僕はまだ知らなかった。美しくも儚く残酷な運命に翻弄されるあの子との出会いを。


....ピピピ....ピピピ....ピピピ....物一つ音のしないの部屋の中を無機質なアラームが鳴り響き、カーテンの隙間から日の光が零れ落ちていた。高校生だった僕は普段と変わりなく朝が来ていた。目を覚まして学校に行かなければならない。その使命感に僕は嫌々ながらも身体が覚醒していった。


2011年東日本大震災を機にテレビが変わった。メディアが変わった。今僕達がいる世界が変わった。

ACのCMが延々と流れニュースが流れれば地震が発生した映像と津波が押し寄せる映像がテレビから止めどなく溢れた。いつもの日常は非日常になった。どのテレビチャンネルも同じ様な映像しか流れなくなった。


相変わらず訪れる朝の忙しさは変わる事なかった。眠い目を擦りながら歩いていくとテーブルの上にはこんがりと狐色に染まったトーストとふんわりと湯気が薄ら出ているスクランブルエッグ、申し訳ない程度に添えられたミニサラダがテーブルの上に置かれていた。僕は箸を使いそれらを豪快にパンの上に持ち上げてケチャップをかけて勢い良く平らげた。


寝ぼけた頭がその違和感に気付くまでにはそう時間は掛からなかった。今日は新学生の面接と入試の為学校が休みだったという事だった。

二つ折り携帯のアラームの設定を変えていなかったので折角の休みの日なのに無駄に早起きしてしまった。

テレビをつけたところで目に入るものは想像つくものしか流れなかった。


地震、津波、おくやみ、原発、ACのCM。


僕は現実から目を背ける為にニコニコ生放送に逃げた。逃げざるおえなかった。ネットの中には以前の様な雰囲気が感じられた。不意に目に入った女の子に僕は目を疑い出逢ってしまった。不登校でニコ生をやっている中学生がいる事を。


彼女の名前はひなと言った。僕には理解出来なかった。不登校というレッテルの中において自らネットの世界に飛び込み匿名の傍観者達に傍若無人に罵られていた。右から流れる白色の感情の篭っていない罵倒の文字はある意味幼稚で道徳を根本的に否定する世界に僕は衝撃を受けそして、新鮮に感じた。この様な世界がある事を。


年下の彼女に対して知り合いでも無い赤の他人に僕はとても不安になり心配になった。この女の子はどうなってしまうのだろうか。高校生になれるのだろうか。縁もゆかりも無く混じる事の無かった秒針は瞬間にして重なり合い一つの出会いはこうして始まったのだった。

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