学園
休日明けの学園は、妙に浮き足立っているものだが、今朝はそれに加えある噂が駆け巡っていた。
『レジナルド様は王女殿下の婚約者が決まった事で落ち込んでいらしたらしいわ!』
『以前から好意をもたれていると噂がありましたものね。』
『そこでご相談になったのが王女殿下のご友人のセシリア嬢だったのでしょう?とてもお優しい方だと聞いていますわ』
『それがなんでも侯爵家では肩身の狭い思いをされていたとか…』
『あら、私は体罰を受けて居られたと聞きましたわ?』
『体罰を?なんてお可哀想に…』
『侯爵夫人はセシリア嬢の育ての親なのでしょう?』
『レジナルド様はセシリア嬢を侯爵家から救いたいとジークフリート王太子殿下に直訴されたらしいわ』
『まぁ、婚約者でもない方をレジナルド様の御屋敷に匿う訳にもまいりませんものね』
『あら、それではセシリア嬢は今王宮におられるの?』
『でも今朝はレジナルド様と同じ馬車で学園に来られたらしいわよ?』
『あ、ほら、レジナルド様よ!きっとセシリア嬢を迎えにいらしたのよ』
ランチのための休み時間になると食堂に行く者、持参した弁当を手に中庭に出る者などで廊下はそれなりにざわついていた。いつもであれば図書室に入り浸る時間だが、今日はそういう訳に行きそうになく、セシリアは小さくため息をついた。
そんな時、隣の席で他のご令嬢たちと談笑していた伯爵令嬢がセシリアにレジナルドの来訪を教えてくれた。
「セシリア嬢、よろしければお昼をご一緒にどうでしょう?」
学園でのレジナルドの言葉遣いはどこか余所行きだ。当然王太子殿下に対しても、セシリアに対しても。
にこやかな笑みを浮かべ、レジナルドは周りのざわめきを気にも止めずセシリアに手を差し伸べてくる。
「えぇ、喜んで」
差し出された手に手を重ねながら、セシリアは『どうか上手く笑えていますように』と心の中で祈った。
教室から出て2人が歩き出しても好奇の目は留まることを知らず、セシリアはレジナルドと談笑しながらやり過ごした。
「セシリア嬢は図書室によく通っていたとか?」
「…はい。どうしてそれを?」
「あぁ、あいつ――ジークフリート殿下がそう言っていましたからね。その近くに殿下の使っている部屋があるの、ご存知でしたか?執務をするのに学園で用意されている部屋があるんですよ。」
図書室の周辺には学園への来訪客をもてなすための応接室がいくつかあった。確か、王家の者が在学する際はその内の一つを執務室として使用するのが通例であったはずだ。ジークフリートの姉であるリーナ王女はジークフリートの3つ年上にあたり、王女もまた在学中は現在ジークフリートが使っている部屋を執務室として使っていたのだという。
「これからは毎日私が迎えに上がりますから。昼は執務室でお過ごし下さい。」
「…私、ご迷惑なのでは?」
レジナルドは辺りを見渡すと、声を少し低くしてセシリアに囁いた。
「セシリア嬢が来てくれないと、俺、アイツに何されるか…!?」
セシリアは目を見開くと了解したというように何度か首を縦に振った。