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花とキャンドル

 王宮北棟にある国王の執務室。国王とスコール団長が二人で楽しむ酒には今日だけ特別に氷が浮かべられていた。国王がかつて王太子であった頃から続くこの習慣はもう何年続いていることだろう。国王はよく冷えた酒を一口飲んだ後公爵の顔を見ながら今朝の王太子の執務室での様子を思い出していた。

「ジークとレジーは上手くやっているようだな…三人の笑い声を聞いて少し安心した。」

「いくら幼馴染とはいえ、あの二人が同じ女性に想いを寄せる日が来るなどとは…想像もしていませんでしたからね。」

「あの部屋に花祭りの花が飾られる日がまた来るとも思わなかったが…。」

「殿下とレジーの胸にも花がありました。我々も年を取るはずですね。」

「あと何回お前と共にこうして花祭りの酒を飲むことが出来るだろうな?」

「それは数え切れないほどに…。」

 ニヤリと笑った国王のグラスの中で氷がはじけてカチリと音を鳴らした。


 広場には色とりどりの炎が煌めいている。通りに面した家の前には大小様々な瓶が並べられ、その横にも次々新しいものが置かれていく。花祭りの昼の主役は花だが、日没前後から今度はその座をキャンドルが占めるようになる。ガラスの瓶に収められたキャンドルは火が消える前に次の者によって新しい物に入れ替えられ、その数は減ることはなくむしろ増える一方だ。キャンドルを売る専門の露店も数多く出ている。リーナはかつて服の裾に火がつかないものかとキャンドルを避けるように恐る恐る歩いていたが、今ではもうそんな心配をすることもなかった。花祭りに降りるようになってもう何年経つか。きっと今年が自分にとって最後の花祭りになるのだろう。ついに自分はレジナルドと共に祭りに来ることはできなかった。もちろん将来の伴侶とも未だ巡り合っていない。

 目の前の緑の瓶をじっと見つめる。短くなったキャンドルの火を手元の物に移してから重ねるようにその上に新しいキャンドルを置く。リーナの手には新しいキャンドルがまだいくつも残っていた。キャンドルの炎は未来を明るく照らすと先程の露店の亭主が売り文句に言っていた。──これを全て灯したら王宮に戻ろう…。

 花祭りの夜に将来の伴侶と巡り会えるなどという迷信を信じて毎年わざわざ祭りに足を運んでいる訳ではなかった。夜通し続く踊りの輪に加わったことだって一度もない。ただこうして暇つぶしにキャンドルを付けて回っているだけだ。

 自分の中にあるこの思いが恋心なのだと認識するようになってからは、花祭りの夜だけはレジナルドの顔を見るのが辛かった。明るい将来など望めないと分かっている相手と笑いあって過ごすのが辛かった…。レジナルドはどうなのだろうか?レジナルドも叶わぬ恋に悩んでいると、ついこの前までリーナはそう思っていた。しかしあの日、レジナルドは既にセシリアに思いを告げ、そして断られたのだと言っていた。あんな風にはっきりと物を言うレジナルドを久しぶりに見たような気がした。いつでも調子のいい事ばかりを言って、そのくせ肝心なことは決して言おうとしない幼馴染。それはリーナの前でだけの姿だったのだろうか?

 見上げると夜空の星を背景にそびえ立つ王宮の南の塔が目に入る。バルコニーがぼんやりと明るいのはレジナルドたちがそこにいるからだろう。自分はあの輪の中に入ってはいけない…。キャンドルに視線を戻すと炎がぼんやりと滲んで見えた。リーナは寒くもないのに思わず我が身を両手で抱き締めた。その拍子に襟元に飾っていた生花がキャンドルの上に落ち、一つの炎が音を立てて消える。リーナはそれを拾うこともせずただ黙って長い間見つめていた。

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