王の血
執務室には、異様な沈黙が落ちていた。
二人の王太子がソファーについてからもうどれくらい時間がたっただろうか?窓の外では初夏の風に木々の葉が揺らめき、どこからか小鳥が騒ぐ声が聞こえてくる。
扉近くに控えていたレジナルドが小さく咳ばらいをする。ジークフリートは機嫌よさそうに窓の外を眺めている。突然執務室に現れたフェルナンドの方は、どっかりと腰を据え、目を閉じたままだ。
「リアの事で、話があるんだろう?なぜ黙ったまま何も言わない?」
フェルナンドがゆっくりと目を開けると、ジークフリートはまだ窓の外を見ていた。いや、むしろこちらを見る気はないのだろう。
「何から話すべきか考えていた…」
「──今更何を」
呆れたようにジークフリートが笑うと、フェルナンドもまた鼻で小さく笑い窓の外を見た。
「ヴィルヘルムにはビューロー侯爵家以外にもお前にふさわしい家格の令嬢が沢山いる…。なのに何故よりによって彼女なんだ?」
思ったよりも冷静なフェルナンドの話し方にレジナルドは肩の力を緩めた。
「あぁ…。まさか二人でこんな風に一人の女性を取り合うことになるとは思ってもみなかった。」
「そうだな。…まさかだ。」
「…なぜ彼女なのか、それは難しいな…自分でもなぜなのか分からない。気が付いた時にはもう既に彼女のことを愛していた──。」
フェルナンドはジークフリートに怪訝な顔を向けてくる。
「愛?…まさかヴィルヘルムの王太子の口からその様な言葉が出る日が来るとは!」
「意外か?」
ジークフリートは蒼い目を細めると、蕩けるように笑った。
「──リアも、私のことを愛していると言ってくれた。」
「何だと!」
「フェルナンド殿下、お座りください!」
ソファーから立ち上がり、ジークフリートに向っていこうとしたフェルナンドの肩をレジナルドが掴んで制止する。王太子に向って手荒な真似はできないが、相手がフェルナンドであれば少々暴れられても難なく抑えられるだろう。
「ビューロー侯爵令嬢がお前のことを愛しているなど、そのような言葉を口にするわけがない!」
「──なぜそう思う?」
「それは…」
「フェルナンド、教えてやる。昨日の夜この腕の中で、リアは私に愛を囁いてくれた──一晩中ね。おかげで今日は学園を休ませることになってしまった…。」
ジークフリートが妖艶に笑ってみせると、レジナルドが掴んだままだったフェルナンドの肩から力が抜けていくのが分かった。
「──嘘だ、そんな事。信じない…」
「フェルナンド、セシリアを聖女かなにかと勘違いしていないか?──確かに彼女の存在は尊い。だが、彼女もただの一人の女性だ。」
「私は…ステーリア王家の正統な『血』を守らねばならない!そのためには彼女が必要なんだ!彼女の中には私と同じステーリアの『血』が流れて…」
「それがなんだ?これ以上私たち王家の者は『血』に縛られて生きていかねばならないのか?この身体の中にその『血』は存在している、その事実だけでもう十分だろう?」
「ジークフリート──」
「目を覚ませフェルナンド。私たちは『自らの血』で王になるのだ、そうだろう?縛られるのは王だけでいいんだ、妃にまでそれは必要ない。」
「──血に縛られるのは王だけ…。」
フェルナンドは項垂れて自らの両手を見つめた。白いその手首にははっきりと血管が見える──。




