思惑
騒々しく回廊を巡り北棟まで歩く3人に、すれ違う者たちが温かい視線を送ってくる。セシリアが王宮での生活に馴染むまでそれほど時間がかからなかったのはその傍らにいつもジークフリートとレジナルドの姿がこうしてあったお陰だ。
回廊の端からその様子を遠目に眺めていたフェルナンドは思わずその足を早めた。
「やぁジークフリート!それにビューロー侯爵令嬢も。」
にこやかで完璧な王太子の笑みをその顔に浮かべその輪に割り込んでいく。
「フェルナンド…」
ジークフリートがあからさまに嫌そうな表情をし、レジナルドはセシリアを護るように1歩前に進み出る。
「──私は随分歓迎されているようだね」
フェルナンドがセシリアにむけて大袈裟に肩を竦めて見せると、その強ばった表情が少しだけ和らいだ。
「少しだけ彼女と話をさせて貰いたいんだが…」
「では私も同席しよう。こちらへ──」
有無を言わさずジークフリートが進みでると、セシリアの手を取り庭園のガゼボにエスコートして行く。レジナルドは少し離れて控えているようだ。
肩越しに交わされる二人の王太子の刺すような視線がいたたまれない。この状況はどうしたものか…。
頼みのレジナルドに助けを求めようと目を向けるも、憐れむような目を向けられるばかりだ。
「学園から帰ったばかりの所を捕まえて申し訳なかった…」
「…いえ、私の事はお気になさらず…。」
ジークフリートは隣で完全に聞きの体制に入っている。同席はするが口を出すのは今のところは控えているようだ。
「そうか。ところで…貴方はここから学園に通っているのか?」
「…フェルナンド殿下は、何処までご存じなのでしょうか?」
「侯爵夫人とその娘が問題を起こしたから貴方は此方に保護されていると──。しかしそれも既に解決したと聞いている。」
「えぇ…。そして…本来ならば侯爵家に戻る所を、王女殿下の語学の勉強相手としてこちらに部屋を賜っております。」
「あぁ、そういえばそんな事もあったな。私はてっきりジークフリートに離して貰えないのかと…」
フェルナンドはジークフリートを見やるとニヤリと笑ってみせた。
「…フェルナンド殿下、お話になりたいこととはそのことでしたか?」
「まさか──」
フェルナンドは改めて向かいに座るセシリアを眺めた。学園の地味な制服が彼女に一層清楚な印象を与えている。
「ステーリアに貴方を迎えるにあたり、マリーを侍女として王宮に上がらせることにした。まぁ元からマリーもそう申し出ていたからな。」
ジークフリートは黙ったままフェルナンドを睨みつけている。セシリアは顔を伏せたまま微動だにしない。
「他にも希望があればと思ったのだが…。あぁ、侯爵家に残っていた貴方の荷物は既に運ぶよう手配している。それから──」
フェルナンドはセシリアの制服を見やると残念そうな顔をした。
「入学したばかりで惜しいだろうが、こちらの学園は途中で辞めることになるな。それにステーリアではその制服も必要ないだろう…。」
「フェルナンド殿下…私はステーリアへ行くと言った覚えはありません!」
「あぁ勿論──だが私も貴方を諦めたと言った覚えはない。」




