葛藤
レジナルドは朝早くから王宮に向かう羽目になり、馬車の中で盛大に欠伸をした。
ジークフリートは上手くセシリアに気持ちを伝えられたのだろうか?
「──セシリア・ビューロー」
あのジークフリートが目の前で恋に落ち、溺れていった侯爵令嬢。今のレジナルドには、その理由がはっきりと分かる。儚く微笑むばかりの地味な令嬢、当初の彼女の印象はここに来て大きく変わっていた。そして、これからはそれすらもジークフリートの手によって、更に変わっていくのかもしれない。
──これで、良かったのか?
彼女をあのまま侯爵家に置いておく訳にはいかなかった。しかしあっという間に王家に取り込まれて行く様を一番近くで見ていた身として、レジナルドは責任を感じていた。もし、ジークフリートの代わりに自分が彼女を保護していたら…。
「…有り得ない。別の未来を夢見るなんて──」
馬車が静かに門を潜り、そのまま王宮の北側まで回り込んで行く。
「早朝から、悪かったな…。」
レジナルドが執務室に入ると、そこには既にジークフリートの姿があった。ソファーにもたれたまま目を閉じているようだ。レジナルドは小さく肩を竦めるとその前に無言で座る。ジークフリートも目を閉じたままでいるため、部屋には暫く沈黙が続いた。
もしかして眠っているのだろうかとレジナルドが疑い始めた頃、ようやくジークフリートは目を開けた。
「何も──聞かないのか?」
ハッとレジナルドは瞬時に鼻で笑う。
「何を聞けと?お前のその顔を見たらすぐに分かる!」
「…」
「指輪は…受け取ってもらったんだろう?」
ジークフリートは緩む口元を隠すように手で覆い頷いた。
妙に自分が空回りをしているのに気が付き、レジナルドの背中に変な汗が流れる。もぞもぞとソファーから身を起こしていると、今度はジークフリートが真剣な眼差しでレジナルドに告げた。
「──いいか、レジー。もう一度だけ言っておく。セシリア・ビューローを守るのは俺だ。誰にも譲らない。」
レジナルドはジークフリートの蒼い目に射すくめられ、心臓が止まったような気がした。しかしそれもほんの瞬間的なこと。
「はいはい、そんな事百も承知です。上手くことが運んだようで何より──。」
「あぁ…」
ジークフリートもそれ以上は何も言おうとしなかった。
レジナルドがセシリアに淡い想いを抱くようになったのはつい最近の事だ。勿論だからといってどうこうできる立場でないこともよく分かっている。だから敢えて牽制だけしてみせたのだろう。流石はジークフリートとでも言うべきか──。しかし何処で気付かれたのか?それは永遠に謎のままだ。
「──で?なんでこんな朝早くから俺を呼び出したんだ?」
「…父上から第一騎士団に行くよう言われた、そのうち迎えが来るだろう。」
2人はようやくしっかりとお互いの目を見ると頷き合い、お呼びがかかるまでしばし執務室のソファーに身を沈め、目を閉じる事を選んだ。




