お茶会
セシリアが王宮を訪れるのはこれで3度目になる。
1度目は母が亡くなった直後に乳母によって騎士団に連れて行かれた時だから、もちろん記憶には残っていない。
2度目は学園に上がる前、つまり去年の冬。2つ年上のリーナ王女主催のお茶会に呼ばれて多くのご令嬢と共に参加した。
そして今回…。
ジークフリート王太子殿下は同じ学園に通っていてしかも同い年、同じクラスだ。もちろんこの春入学してから今まで、数える程しか言葉を交わしたことはない。学園でのジークフリート殿下の傍にはレジナルド公爵令息が護衛代わりに常に張りついているからというのもあるが、そもそもセシリアは時間さえあれば図書室に通っているので殿下とはあまり顔を合わせる機会がないのだ。
王宮に着くとすぐさま控えていた騎士と侍女によって庭園まで案内される。
王家の庭番によって整えられたのであろう広大な庭園には見事な花が咲き誇り、中程には噴水とその向こうにガゼボが見えた。
今日は天気もいいから屋外での茶会がセッティングされたようだ。
「殿下がお見えになるまでしばらくこちらでお待ちください」
「ええ、ありがとう」
噴水の脇を通り白薔薇の花壇を抜けた先にあるテーブルについて緊張しながら待つことしばらく。薔薇の香りと噴水の水音が耳に心地いい。セシリアは午後のひとときをこんな風に王宮で過ごしている自身に驚いていた。
殿下はやがて王宮の奥から侍女に伴われ現れると、立ち上がろうとするセシリアを制してそのまま向かいの椅子に腰掛けた。
「セシリア嬢…だよね?同じクラスの…」
「はい…本日は妹の代わりで…殿下にはお忙しい所妹の為にお時間を頂きましたのに、大変申し訳…」
「いや、それは構わないよ。ただ、ちょっと驚いたけれど」
「――そうでしたか…」
「侯爵夫人から是非レイラ嬢と時間をと言われていたのでこちらもそのように思っていたのだか…レイラ嬢は?」
「…はい」
「?」
「――学園へ…行っております…」
殿下は遠い目をして噴水の方を見やると静かに呟いた。
「再テスト…だな、きっと…」
「?!」
やはり。学園での妹の様子はあまり知らないけれど、確かに義母も『学園でテスト』と言っていた。
「ステーリア語の教師が最近変わったのを知っているだろう?先月あったテストでは多くの生徒が苦戦したようだよ。レジーも同じく今日は学園だ…セシリア嬢はステーリア語が得意なのだね?」
「…レジナルド様も――でしたか」
確か先日ステーリア語を教える教師が懐妊したとかで急遽新しい教師に代わった。そして授業内容も少し細かく、厳しくなった気もするけれど…。
「あ…、そういえばこちらを侯爵家から預かって参りました…」
侍女の手によりすっかり整えられたテーブルの上には、軽くつまめるものや菓子、お茶が既に揃っていた。
話題を変えるように出しそびれてしまった手土産をテーブルにそっと載せ、そのまま少し殿下の方に差し出す。
「侯爵家から?ありがとう、開けても?」
ジークフリート殿下が箱の蓋を開けると殿下と私の視線はそこで固まった。
「…チョコレート」
「…」
あぁ、なんてことだろう。義母は…妹は…、きっと知らない。ジークフリート殿下は、甘い菓子を一切口にされないということを。






