父親がくれたおシズさんに剣あげてみた!(前)
「それではこれより、皇女様による守護騎士の誓約の儀に移ります。」
あっ、そんな急にあるんだ。原作では誓約の儀から始まってたから知らなかった。終業式からの離任式にすぐいくやつか。
「皇女様。」
ルシーズが私に跪いた。
「私を守護騎士としてお傍に仕えさせていただけると仰るのなら、剣をお取りくださいませ。」
えっ、私に拒否権無いやつじゃないの?
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『剣を取ると彼はあなただけに忠誠を誓う守護騎士となります。
あなたのタイミングで箱の中の剣をタッチしてください。』
「こういうのはオートで進んでくれても良いんですけどね、別に。はい、ノアさんが触りました~。」
ズギュゥゥゥン…。
「何この音wwちょっと、ノアさん?」
『左のゲージをご覧ください。これはラブゲージ、つまり好感度です。この値が大きくなればなるほど彼はあなたに好意を持っています。先ほどのように、彼があなたに心を開けば値が大きくなります。』
「乙女ゲーにはよくあるやつですね。」
『しかし、ご注意ください。稀にあなたを愛するあまり彼が危ない方向に走ってしまう事があります。でもそれはあなたと彼の前に立ちはだかる試練です。』
「いや、皇女の一方的な試練だろw少なくともシズは常に危ない方向に走ろうとすると思う。」
『試練は不定期に起こります。試練中はラブゲージの隣にこのようなピンク、紫、黒のグラデーションのゲージが表示されます。これは純粋度ゲージでこの色をピュアカラーと言い、最初は紫からスタートし、試練を突破出来ればピンクの方向へ、突破できなければ黒の方向へ傾いてしまいます。そして試練の期間が終わるか結果が出ると、そのゲージの色は好感度ゲージに反映され、次の試練はその色の位置からスタートします。』
「つまり、最初が肝心って事ですね。」
『もし好感度が100%になった時、ピュアカラーが綺麗なピンク色をしていれば彼はあなたを優しく包んでくれるでしょう。ピュアカラーが漆黒に染まっていれば彼はあなたを愛する故に大切なものを壊してしまうでしょう。』
「ちなみにおシズが真っ黒に染まると、暗黒騎士となって原作では世界を終わらせます。ピンクだと健全なままの関係で聖騎士としていてくれます。」
『あなたの選択次第で彼との恋はどんな色にも染まります。さあ、彼の好感度100%目指して愛をはぐくんでください。』
「はーい。では好感度初っ端から20と高いおシズさんに剣を渡していきたいと思いまーす!」
あれ…これ、やたら画になるぞ。今日のサムネこれで決まりだな。
タイトルは「守護騎士に剣渡してみた!」、よし、ちゃっちいタイトルだけど良いか。
いや、釣りじゃないけど「守護騎士」つってもありきたりだから「父親からプレゼントされたお兄さんに剣渡してみた」にしようか。
『剣をタッチしてください。』
向こうの「ノアさん」がやってくれた。
司会:「それでは皇女様、これより守護騎士となる者の左肩に剣を置いてくださいませ。」
大臣みたいなじいさんの声が言う。
よし、置くと見せかけて斬りつけてみようか。動画映えするもんな。
ノアさん、頼むよ。
ノア:「こう…ですか?」
ノアさんが剣を水平にして肩に置くと、歓声が起こった。
え~、つまんない。そういうの、良くないと思うよ。やっぱりさ、自分を好きでいてくれる上で仕えてくれるんだからさ、忠誠心を測るためには刃を受け止めないとダメだと思うの。
俺、おシズと体は同期してても痛覚同期してないから全然平気だよ~?(クズ確)
ノア:「(てか、よく怖くないよな、ルシーズ。微動だにしてない。)」
あっ、この皇女の心中語はアレです、ええと…乙女ゲーの原作シナリオの文章です。自分、まだチートは一切かけていません。ノアさんの画面をハックしてるだけです。(良い子は真似しないでね)
でも今からルシーズにチートかけます。
シズ:「皇女様、何も恐れる事はございません。何なら斬りつけてくださっても構いませんのに。」
さあ…こう言ったらどうする?
ノア:「っ!!」
「(ルシーズ、この頃から忠誠心異常じゃない?まあ、「綺麗な皇女様」で大量虐殺するぐらいだもんな。)」
あれ?
何かネタバレみたいなのが…あるんだけど。いや俺、一応新規ダウンロードのデータを乗っ取ったはずなんだけどな。
いやいやそれにしてもこれ、原作のやつだよね。えっ、何で?
いつの間にか更新があって、隠しキャラまで遊んでくれるように宣伝してんのかな。
「いや、待てよ…」
俺はノアさんに悪いと思いながら、ちょっと向こうの端末にバグを起こさせていわゆる「ラグい」状態にさせた。そしてマイクを俺の方だけミュートにしてヘッドホンを外した。
担当の田中から連絡が来ていないか見る。もし、そういう更新があるなら連絡をよこすはずだ。
「来てない、だと…?」
忘れてるのかな、あいつちょっとボーっとしてる所あるし。
今ならまだ会社にいるだろう。俺は終焉プロに電話をかけた。