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既知な未知との遭遇Ⅱ(皇女ノア視点)

 「!」


 目が覚めると、ベッドの上だった。


 「ノア様、お目覚めですか?」


 優しい声でメイドさん達が聞く。


 「あ~……」


 不機嫌そうに言うと、メイドさん達はクスクスとほほ笑んだ。


 「ああ、パーティーはもう終わってしまいました。ノア様ったら、ウノ様のお名前を何度もお呼びになった後、疲れてすぐお眠りになられたんですから。」

 「可愛らしいですわ。」


 「あのユタ様からご聡明だとお褒めいただきましたしね。」

 「ふふ、ノア様とウノ様…もしご結婚なさったら聡明な美男美女カップルですわね。」


 メイドさん達が手際よくオムツを交換しながら盛り上がる。

 待て、断じて私はウノ様ルートには進むつもりはないぞ。

 今日のアレはそのための救済措置であって、手を出すつもりで優しくしたわけじゃない。


 ん、待てよ…。パーティーが終わったという事は…。


 「!!!」


 レイン領の長男の顔見ずに終わった!!


 「の、ノア様っ?!」

 「いかがなさいました?おっぱいですか?」

 「オムツの付け方は…合っているしまだ綺麗だから苦しくはないのでしょうけど。」


 メイドさん達が慌て始める。だがそんな事はどうでも良い。


 レイン領はよく分かんないけど王都からそうやすやすと来れるような距離じゃなかったはず。レイン領の次男…ヨナ君ルートではレイン領にある王家の別荘のシーンがあるぐらいだもの。いくら大国の皇族とはいえ、わざわざ近くに別荘建てる事はないだろうし、絶対距離ある!

 じゃあさ…詰んでない?なかなか行けない場所でしかも私が赤ん坊だし、動けない。

 向こうから来てくれるのは今日ぐらいだよね…そんな貴重なチャンスを逃した!


 「う~お!」

 ※メンヘラかまって男(ウノ)のせいだ!


 私の命より…いや、命の方が大事!

 私はそう思う事で心を静めた。

 このマインドコントロールは絶対に赤ん坊の所業じゃない。


 「皇女様ったら…そんなにウノ様の事が」  「や~っ!」

 好きなわけないでしょ!あんな貴重な機会を!


 「はいはいww」

 「皇妃様には秘密にしますよ。」


 絶対報告する気じゃん!



♡~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡



 時は(データロード時間に間に合わせるかのように)すごい勢いで流れ…私も5才になった。


 最近始まったレッスンですごい勢いでこの国の知識を吸収していく私に、チューターと呼ばれる専属家庭教師の先生も舌を巻いている。

 父は先生方の報告を受けて「ユタの言葉通りだ」と満足そうだ。


 そしてそんな父が私に褒美をくれると言うので私は思い切ってこう言った。

 「ザリア領のシリル様、レイン領のユリウス様とヨナーク様にお会いしてみたいです!」


 パーティーで見逃したレイン領のヨナ君のお兄さん(ユリウスって名前らしい)とやらに会ってみたいし、あともう1人確認しておきたいのは…ザリア領・クラバ家の一人息子であるシリル様だ。

 シリル様も攻略キャラの1人で、最初は単純にどこの乙女ゲーにも1人はいそうな良い方の陽キャのボンボンって感じだ。だけど、そこは逃さない終焉プロ、シリル様ルートにもばっちりムナクソ展開が用意されている。


 そういうのもかねて、私はお願いした。


 「ふむ、遠出か…初めてだな。でも視察・辺境伯と親睦を深めるという意味では良いかもしれんな。」

 正しくはレイン家長男の顔を見るのと、クラバ家長男の矯正だよ。


 「ではせっかくですし、御三家を見て周ってはいかがですか?」

 「そうだな、2家回ってアイデルだけ無視するのも角が立つだろう。」

 そっか、その3家は仲が良いんだよね。だったら仲間外しはしちゃダメだよね。

 「はい!」




 というわけで、私は初めて王都から外に出た。

 馬や馬車ではなくて、アイデル領が開発したトロッコでまっすぐアイデル領まで速く移動できるんだとか。

 トロッコの駅まで馬車で向かい、トロッコに乗る。


 トロッコは一般市民でも手を出せる価格の席から皇族御用達のロイヤルシートまであるらしい。

 どこからどこまでっていうのは地図が頭に入っていないから有名な地名しか分からないけど、金額の大小で近いのか遠いのか大体を予測できた。


 「私達はどれに乗るのですか?」

 「こちらでございます。エンペラーゲートからパルティス、下り、です。」

 私が看板を指さして聞くと、近衛兵の1人が丁寧に教えてくれた。

 「こら、せっかくの皇女様の学習機会ですのに、全て読んで差し上げてはダメでしょう!」

 「あっ…申し訳ございません!」

 近衛兵のお兄さんが、この旅行に付いてくる家庭教師のサリバン先生に叱られた。


 「…でも、アイデルではないでしょう?」


 アイデル領のどこかの地名だろうけど、近衛兵のお兄さんの名誉挽回のためもう一度尋ねた。


 「ああ、今日は一旦ザリアの手前まで乗るんです。そこからレイン領に戻り、皇室の別荘にて1泊いたします。」

 あっ、今日会えるわけじゃないんだ。それぐらい遠いのか。


 「皇女様、今日のランチの後のデザートはアイデル領の特産であるヤギの乳とサツマイモで作ったアイスクリームでございますよ!途中でアイデルには泊まりますので。」

 残念そうな顔が露骨に出てしまったのだろう、慌ててサリバン先生が言った。

 何それ…めっちゃ美味しそうじゃん。

 サリバン先生と近衛兵のお兄さんがほっと安心したような表情を浮かべた。


 そうこうしていると、向こうで何かを話していた両親が戻って来た。

 「ノア、お利口さんでいたようですね。」

 「はい!」


 母に手を差し出され、握ると抱っこされた。

 「では、トロッコに乗りましょうか。」

 「うむ。」


 連れて行かれたトロッコは見た目こそ木製のアンティークな装いで屋根付きの機関車みたいな感じだったけど、中はグリーン車をしのぐ内装だった。

 それを1号車まるまる貸し出している状態だなんて、この父親の権力というものが知れる。


 「ノアを窓際へ座らせても良いですか?」


 母が近衛兵のお兄さんに聞くと、お兄さん達は私が外を見たがっているのを察してうなずいてくれた。皇妃の権限はあっても物理的な限界があるから聞いたはずなのに、私のためにそうするなら意味無い気がする。ただ、全く渋らない所を見ると、護衛には問題無いのだろう。

 近衛兵の人達って中央騎士団の中でもかなり腕が立つ人達の集まりらしいから、これ以上遠慮したらそれはそれで失礼だろう。


 やがて、トロッコが走り出す。

 びゅん、と景色が走っていった。



 *しばらくして*



 王都からアイデル・レイン・ザリアと遠いのは事実のようで、目的地であるザリアとレイン領の境目の都市「パルティス」に着いた時にはもう日が傾きかけていた。


 パルティス駅から別荘まではそう遠くはなかったように感じたけど、別荘では夕食・お風呂を済ませるとすぐ眠くなるような時間だった。


 翌朝、私達一行はトロッコでザリア領主邸最寄り駅まで向かった。

 ザリア領へ進むにつれ、周りの景色は緑が少なくなっていき、やがて砂漠となった。少し暑い。

 しばらくすると水が豊かな場所になり、大河川を中心に田園地帯が広がってゆく。そこが終点「クラバ」駅だ。


 駅の内装は王都の「エンペラーゲート」駅よりずっときらびやかな内装だった。


 「お金持ちなんですね。」

 「ええ、クラバ家は国内でもお金がある辺境伯の1つです。そして公共事業にはふんだんにお金を使っているのですよ。」

 「へえ~!」


 前世いた国の政治家にもぜひ見習ってほしいものだ。


 これまた王宮の半分はあろうかという豪華な領主邸に着くと、金銀そしてミスリルや宝石で飾られた内装に圧倒されてしまった。


 「こちらでございます。」


 案内された応接間は廊下より落ち着いているものの、キラキラした砂を吹き付けた絵や像が違和感ないぐらいの派手な空間だった。

 水晶のテーブルが2重構造になっていて、その空洞に色の付けられた砂が入っている。オシャレだ。

 そのテーブルをはさむようにして座る。


 「では、呼んでまいりますので。」

 使用人の人達が部屋を出て行った。


 「きらきら~!」

 「ええ、そうね。」


 テーブルにはしゃいでいると、部屋に3人、入って来た。

 背の高い夫婦と童顔の男の子。


 「お待たせいたしました、陛下、皇后陛下、そして皇女様。ようこそお越しくださいました、領主のクラバ・トーヤです。こちらは妻のジュノ、子息のシリルです。」


 3人が恭しく頭を下げる。

 いかにも家族3人でチャラい陽キャです、って感じの格好からは想像も出来ないほど上品だ。

 ただ、ジュノ様の見た目のインパクトがすごい…胸も腰も脚も惜しみなく出てるんだよね。シリル様が成長してもその格好だと色々とよろしくないと思う。幸いな事に、シリル様は攻略対象である以上、つるぺたな主人公を愛してくれるんだけどね。


 「おお、急な頼みですまなかったな。ノアがレッスンを頑張った褒美に旧三国へ行きたいと申すのでな。」

 「ええ、皇女様はユタ卿も認められたほどご聡明であるとこの地まで届いておりますよ。商人たちもよく噂をしております。」


 ジュノ様がにこやかに答える。そして今度は私に優しくほほ笑んだ。

 「それで皇女様、シリルとお話されたいんですってね?」

 「はい!」

 「ふふ、それは2人きりが良いでしょうか?それとも、ここで一緒に?」

 何か変な事考えてませんか、ジュノ様?


 「ジュノ、あまりからかうな。お相手は皇女様だよ。」

 「あら、良いのですよ。ノアから言い出した事ですもの。」

 トーヤ様に対して母が笑って返した。


 「ノア…お兄さんと2人、恥ずかしいんだったらここで良いですよ?」

 あっ、2人で対談する事前提なんですね?

 まあ…指名しておきながら皆と一緒にっていうのも変な話か。向こうだって身構えるよな。


 「2人が良い!シリル様は…」  「はい、僕も2人でお話するのが好きですよ。」

 よっしゃキタ!チャラ兄系、最高!


 「じゃあ決まりですね。陛下、それでよろしいですか?」

 「……フン、勝手にしろ。ノア、もしも戻ってきたかったら戻ってきなさい。」

 「あらあら、嫉妬でございますか、陛下?」

 「うふふ、シリルもそうねぇ…男の子だから皇女様の可愛らしさについ口説いてしまいますかもねぇ?」

 ジュノ様と母に言われて父が平気そうなフリをしている。


 「それじゃ、付いて来て。」

 「はい!」


 シリル様に付いて行くと、少し落ち着いた部屋に連れて行かれた。

 書庫にある読書スペースみたいな場所だ。

 メイドさん達が早速ジュースやお菓子を出してくれた。どれも王都ではあまり見かけない物ばかりで美味しそうだ。


 「改めまして、僕はシリル。」

 「ノアです。」

 「あっ、敬語じゃない方が気楽かな。僕、土地が離れているせいでよく話すのがウノ君とヨナークぐらいなんだ。ユリウスとトピアス君は…あまり会わないや。」


 やっぱり親同士が仲良いからつながりも強いんだろうな。

 というより、ユリウス様と会わないって事は、トピアス様と同じで部屋にこもっている事が多いのかな、ユリウス様って。


 「分かりました…分かった。ユリウス様とあまり会わない理由は…」

 「ああ、トピアス君とはまた違う理由なんだ。ユリウスはめちゃくちゃ頭が良い子で努力家だから色んな所に留学している事が多いんだよね。だから時間合わなくてさ。トピアス君は…僕からは言いにくいんだけど、合わない。」


 トピアス様、既に浮いてるんだな。

 それにしてもユリウス様、留学してるのか…ユリウス様にも会いたかったのに。じゃあ本当にあのパーティーってSSR級のチャンスだったんじゃない?!ウノのせいじゃん!


 「ふふ、ヨナークが言うには、ユリウス、皇女様にご指名いただいたから今はダーチから帰っているみたいだよ。あの人、頼まれると断れない人だから。」

 「そうなんだ…」

 あっ、じゃあ割と良い人?


 「身構える事はないよ。ユリウスとヨナークだったらどっちかっていうとヨナークの方がとっつきにくい感じ?ヨナークも不愛想なだけで良い奴なんだけどね。ユリウスはその点、人当たりも良いからむしろヨナークと皇女様が上手く話せるようフォローしてくれるんじゃないかな。」

 そうなんだ…あまり良いイメージじゃなかったから意外。


 「ところで僕に会いたいっていう理由を聞いても良いかな?」

 シリル様が椅子に座り直した。


 「シリル様には失礼かもしれないけど、単純にこうやってお話したかったから。」

 「あははっ、そんなの気にしないよ!そっか、単純に興味があったからなんだね。そっか、そっか…何か説教でもされるのかなって身構えてた。」

 シリル様の安心したような顔を見ると、ガチで叱られると思っていたらしい。


 「…ウノ君が変な事教えてないかなとか気にしてたけど、それなら良かった。」

 「ウノ様が?」

 「うん、だってスクールから手紙送ってるんでしょ?」

 「えっ?」

 何それ。手紙とかもらった事無い。


 「……あ~、そういう事か。」

 シリル様がニヤニヤしながらはーっとため息をついた。


 「ウノ君のヘタレ。」

 「えっ、どういう事?」


 「ウノ君さ~、お兄さんあんな感じで、お父さんや周りの大人がウノ君の話あまり聞かないんだよね。それは皇女様も大体分かるでしょ?」

 「…トピアス様に皆の集中がいっているから?」

 「そう!だから、ウノ君さ、スクールで特殊言語の練習していてそのレッスンの課題でスクールの先生や生徒以外の誰かに手紙書けっていうのが出たら僕かヨナークぐらいしか送る相手いないじゃん?外国にいるユリウスに送ると手続きが面倒だしさ。」


 バカにするでもなく、単純に幼馴染を心配するような声だった。


 「でもウノ君、そういうの申し訳なく思っちゃう人だからさ、気がねしないでほしいの。だからウノ君に言ったんだよ、僕も少しだったら特殊言語分かるから勉強のためだって思って僕宛てに手紙書いてよ、って。そしたら書いてきてくれるんだけどさ、1回だけ間違ったのか封筒に別の便せんも入っててさ、そこに特殊言語と通常言語の訳をした交換日記みたいな事が書かれてあったんだよね。」


 「それで、なぜ私だって?」

 「まず、僕宛ての手紙に使われないはずの敬語。そして1番最後に皇女様の名前が書いてあった。」

 シリル様は「ほら」と私に優しい桜色の便せんを見せた。


 「これ、週1でくるお手紙じゃ…」

 「あっ、来てるんだ!ウノ君、頑張ったね!」

 「でも差出人のお名前が違うから……」

 「ああ、これね、ウノ君の魔名だよ。何ていうかな…特殊言語で使う時の名前って言えば良い?」


 そうだったんだ…。今まで知らない人だったけど、サリバン先生が「すぐに分かりますよ」って教えてくれなかったから知らなかった。


 「愛だね~。」

 「ウノ様だって恋人の2人や3人、いるでしょう?」

 「どうかな~?もしウノ君に彼女いたら僕が皇女様を口説いてもOK?」

 「お父様に叱られるからダメ。」  「だよね~!」

 本当にチャラいな、この人。


 そして、その後も私とシリル様の不毛でもあり楽しい会話は続いた……。

 会話中にはシリル様ルートのあの不穏な空気は全く感じとられなかった。

 おそらくこの後、どこかでシリル様の闇が芽吹いて皇女を襲っていくのだろう。だからまだ措置はとれなかった。


 いや、彼が長時間の会話の中であまり彼自身についての話をしなかった事に気付かなかった事が、闇の息吹を無視した事になるのかもしれなかった。

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