護衛は冒険者にお任せあれ!
しばらく歩くと、坂を下った所に大きな川が見えた。浅瀬から顔を出した砂利道の上を人々が渡っている。
ノア:「確かにあれは満潮時浸かりますね。」
ルシーズ:「ええ、今はタイミングばっちりでございます。」
ノア:「ほら、向こう側の岸、あの人達の頭の上まで貝殻が付いていますよ。」
ルシーズ:「さすが皇女様、鋭いですね。」
さすがにその目の付け所は鋭いと言うしかない。俺も改めて気づいた。
ルシーズ:「この下から回った所にちょっとした集落がございまして、そこで川の足止めを食らった場合に泊まれる宿屋がいくつかあるのですよ、商人や冒険者が泊まるような雑魚寝の木賃宿ですが。」
ノア:「そうなのですね。」
坂を下りきると、改めて色んな人達の動きが分かった。
ノア:「小屋でお金を支払っていますね。」
ルシーズ:「ええ、渡り代ですね。私とバフ公が銅貨2枚、皇女様が1枚、でしょうか。」
ノア:「年齢と種族で分かれるのですか?」
ルシーズ:「ええ、満15歳以上と、人族・亜人族および大型のその他の種族ですね。15歳未満の人族・亜人族と小型の動物またはその他の使役生物は1枚です。」
ルシーズが指す方向には看板があった。
ノア:「隠している人もいるでしょう?」
ルシーズ:「それはそうかもしれませんが、こういうのは気持ちの問題なのですよ。そう経済的に困窮している人が仕方なくする分には彼らも無理には取りません。」
なるほどね~。
川岸に簡易的な小屋があり、ジジイがいた。
「あいよ、メゾンドッグだから銅貨2枚だね。あとお兄さんはもう15過ぎてるかな。」
ルシーズ:「はい、人族の大人1、子供1、大型の他種族1で5枚です。」
「あいよ~、気を付けてな。この辺はスケルトンや亡霊武者が出るらしいからね。」
ルシーズ:「分かりました。」
スケルトンって、今朝シズが倒してたやつの事?
ルシーズ:「皇女様、お気を付けて。」
先に砂利道に降りたシズが皇女の手を握る。
ノア:「ちょっとぬかるんでる所がありますね。」
ルシーズ:「ええ、お気を付けくださいませ。バフ公もゆっくりで良いから、はまらないように。」
犬が吠えた。
無事に渡り終えると、3つに道が分かれていた。ほとんどの人は右か左の平坦な道に行っている。
上に昇る道は山道なのかな。
ルシーズ:「…おかしい。」
ノア:「?」
ルシーズ:「皇女様、少しお待ちくださいませね。」
シズが料金所で2人制の暇そうな方のおじさんに声をかける。
ルシーズ:「もし、あの道についてお尋ねしたいのですが。」
「ああ…オデールまでの直通ルートか。」
ルシーズ:「はい、あの道をよく使う方が多いと思われるのですが、今日だけ少ないのですか?」
人通りの少ない傾斜のある道を通るつもりだったようだ。
「出るんだよ。」
ルシーズ:「イノシシかオオカミですか?」
「いや、スケルトンだ。どうやらこの辺で骨董商が曰く付きの武器を落としちまったのか亡霊騎士が出やがるようでな。」
誰だよ、そいつ。
意図的に不法投棄したんじゃね?
ルシーズ:「なるほど…向こうの料金所でも気を付けるように言われた元凶がそれですか。」
「そうだ。俺達の方でも回収したいんだがな、何せかなり強いらしくてな。ギルドに今依頼をしているんだ。ほら、さっき出て行った冒険者パーティーもそのクチだろ。」
おじさんがいかにも冒険者ですって感じの4人組を顎で示した。
ルシーズ:「…分かりました、ありがとうございます。」
「おう、気を付けてな。」
シズがおじさんに丁寧に会釈して、皇女と犬のところへ戻る。
ルシーズ:「皇女様…申し訳ございません、最短ルートを考えていたのですがそれが危険という事で遠回りをしなければならなくなってしまいました。」
ノア:「そしたら遠回りの中で1番近い道でどのぐらいかかるのですか?」
ルシーズ:「この先は危険で野宿は出来ないそうなので、昼頃に着く集落で1泊でございます。」
ノア:「…背に腹は代えられませんね。分かりました。」
仕方ないよな。
ルシーズ:「本当に、本当に申し訳ございません!野宿までさせてしまったのに、私の情報不足でございました!」
シズが皇女に向かって深々と頭を下げる。周りの人達が何事かとチラ見して行く。
ノア:「ルシーズが謝る事ではないですよ、あなたは一生懸命頑張っていますよ。」
ルシーズ:「しかし…」
剣士:「そうだぜ、気にする事はない!」
その時、さっきの冒険者パーティーのリーダー格の男がシズの肩に手を置いた。
ルシーズ:「いえ、本当にこれは私の過失でございますので…」
魔女:「な~によ、シケちゃうわね。」
神官:「あの…よろしければ私達が護衛をいたしましょうか?」
野伏:「ん…」
ノア:「…ルシーズ、どうしましょう?」
ノアさんも困るよな。俺だって冒険者とかほぼ初見よ?
今まで勇者と恋するゲームはやった事あるけど、こいつらの場合は全部役職だもん。救世パーティーじゃないのは確か。
ルシーズ:「そうですね…何かあった場合、私はお嬢様とこの犬を守ります。あなた方は戦闘をお願いします。これでよろしいですか?」
剣士:「おう、任せな!俺達、Aランクパーティーの『プロミス』って言うんだ。」
リーダー格の男が何やらプレートを見せる。シズがあの骸骨から集めていたペンダントとよく似ている。
ルシーズ:「…Aランクパーティーですか。」
魔女:「ええ、偽物のプレートじゃないわ。」
シズが気乗りしなさそうな声で言ったので他のメンバーはシズが疑っているように思ったらしく、それぞれプレートを見せた。リーダー格の男の物と同じだ。
ルシーズ:「…ここからオデールの関所までの護衛料金ですが。」
剣士:「そうだな、メゾンドッグがでかいから…」
ルシーズ:「金貨2枚と銀貨10枚。」
4人:「え?」
ルシーズ:「その範囲内でお願いします。」
高いのか安いのか分からんが、パーティーは「ちょっと」と言い、離れたところで相談を始めた。
ルシーズ:「皇女様、こういうギルドや正式な事務所を通さない誘いなら基本は断るのですよ。」
シズが4人を冷めた目で見て言う。
ノア:「えっ、ええ…でも今回は特別ですか?」
ルシーズ:「ええ、ふっかけられないよう、お金だけ貰って逃げられないよう、あえて高めに予算を言いました。あと、彼らの前では身分を隠しましょう。お嬢様と護衛でございます。」
ノア:「分かりました。」
シズも慎重になっているようだ。
ルシーズ:「お嬢様は商人の娘、私は傭兵出身という事にしておきましょう。」
ノア:「はい。」
しばらくして、4人は戻って来た。
シズの言った金額はよっぽどのものだったんだろう、笑顔だ。
剣士:「な、なあ…なぜそんなに高い値段設定なんだ?」
ルシーズ:「急いでいるからです。」
シズが言うと、4人は顔を見合わせた。
神官:「あの…ちなみに関所にはどのぐらいに着いておく予定です?」
ルシーズ:「日暮れ前です。」
魔女:「すごい金持ちね。しかも護衛対象は2人と1匹。受けない手はないわ。」
野伏:「幸いにも賊は魔物のせいで消えている。」
聞こえてますよ~?
ルシーズ:「あの、念のために2回払いでよろしいでしょうか?」
剣士:「と、言うと?」
ルシーズ:「前金として金貨1枚、日暮れまでに関所に辿り着く…つまり成功報酬が金貨1枚と銀貨10枚です。」
剣士:「おう、良いぜ!」
シズ、冴えてるじゃん。
ルシーズ:「では、前金の金貨1枚です。」
シズが金貨を差し出すと、男がありがたくいただいた。
【次回予告】 お察しの通り、チートの騎士様が斧で戦います。