データ、皇女ノア生まれる(オトセン視点/ノア視点)
「今回の企画は『攻略キャラ全員メンタリストになってみた』!!」
いえ~い、パフパフ。
「どういう事かと説明しますと、攻略キャラ全員は主人公の考えている事が読めます!いわゆる選択肢も心中語も全部、全部分かります!
つまり、通常ゲームに用意されている選択肢ですね、1人1人の通常ルートでは合っているものを選んでも正解かどうか分からなくなる…チート設定でこういう規格外な鬼畜モードにしていきます!もちろん…」
ここでいつもの決まり文句だ。
「『メーカーからはOKもらってま~す!運営とアンチ乙~!』」
この台詞、毎回言っているとコメント欄でよくコピペして書かれるんだよなwww
「では早速チート使ってプレイしていきましょう!」
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『あなたの名前を入力してください。 ノア____▼』
「じゃあ、初期設定のノアちゃんにしましょう!」
他の実況者はチャンネル名なんか使っているみたいだが、俺はバレちゃヤラセになってしまうからね。
『ノア で良いですね?』
「はーい。」
『あなたは皇女となります。皇帝であるあなたの父親が治める国の名前を入力してください。
________▼』
「国名は空白なのか…じゃあテキトーに……」
『ヤクハ で良いですね?』
「約束の逆ハーレム、略してヤクハです。」
『データロード中です、しばらくお待ちください。』
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(一方、ヤクハ皇国では……)
「何だ、この既視感…」
「おお、生まれたか!でかした!」
「ええ、女の子ですわ。」
「おお!お前に似て可愛らしいな。」
「ふふ、光栄でございますわ。目鼻立ちは陛下にそっくりできっと聡明に育ちますわ。」
「おう、そうか!」
この厳しそうな父親、凛とした顔立ちの母親……なるほど、乙女ゲーの世界に転生してしまったのか。
なぜこのファンタジーな発想にすぐ至ったかと言うと、私のおそらく前世の最後の記憶は確実に人生終わっているというものだからだ。まあ…あの高さから落ちたら助からないよな。
走馬燈も見た覚えがある。だからこれは走馬燈で私が以前やった乙女ゲーの世界が流れているわけではないという事になる。その証拠にこのゲーム……「約束の逆ハーレム」は主人公である皇女の12歳の誕生日に父親であるこの皇帝から専属の守護騎士を付けられるところから始まる。生まれたときの話は思い出として文章内にのみ出て来る程度だった気がする。
つまり、これはゲームプレイの記憶ではなく、私を取り巻く現実なんだと私は認識している。この状況を作り出した原因として私の薄っぺらい知識の中から出せる答えは、転生の一択でしかない。
絶望だ……。
いや、ね?
確かに乙女ゲーの世界に転生すると言うのは今時ベタな事なのかもしれないけど、その手の話にキュンキュンするのはそれがある程度良い作品であるからなのであって、これに限ってはクソゲー。断言しよう。
別にグラフィックとか絵は綺麗なんだけど、プロットが甘い!だらだらと意味の無い言葉ばっかり並べてストーリー進行が遅い!
極めつけは……ほぼ全てのキャラのストーリーがムナクソ展開過ぎる!
まあ、このゲーム自体が、というよりこのゲームを出しているメーカー「終焉プロジェクト」が名前の通り世界の終わりかというぐらい胸糞なゲームを作っているところだから仕方ない。覚悟しててもスマホぶん投げたくなるほどの胸糞具合である。
「お名前は…」
「もう決めてある!ノアという名前にしよう、女子ならばこの名前で1番運勢が拓けるだろうと大賢者が申しておった。」
ノア……何度見た名前だろう。
「まあ、素敵ですわ!」
私がこの乙女ゲーについて皇帝・皇妃そしてこの部屋を見てピンときた理由は単純だ。嫌という程見慣れているからだ。
私は「終焉プロ」のデバッグのバイトとして渡されたマニュアル通り「ノア」という名前でこのゲームを何度も何度もプレイした。
終焉プロはそこまで大規模な会社ではなかったため数名で攻略キャラ7人分の全てのストーリーのバグを確認しなければならなかった。
そのおかげで膨大な時間を要した(でも社員の人達が親切にしてくれたしバイトの皆とも仲良くなれたし、何より時給が高かったからブラックバイトではないだろう)。