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攻略キャラって容姿もチートだよね?

 そうこうしている内に集落に着いた。集落と言ってもいかにもRPGのはじまりの村って感じ。穏やかでゆっくりとした時間が流れている良き田舎だ。


 「のどかですね。」


 「ええ、まさか皇女様が1時間半も徒歩で外出されるだなんて思いもしておりませんでしたので、城の者もお伝えしていなかったんでしょう。」

 「また馬鹿にして!」


 「…皇女様。」


 「何です?」

 ルシーズがイヤミを言わんとしている顔になっている。


 「忠誠を誓った以上はある程度のガイドラインをその口に設けているでしょうから、聞きますよ。」


 「陸軍では王都からここまでの行進に1時間もかけたらその団長は実質クビに近い降格処分を受けます。」


 「皇女クビですって?」  「皇女様だから許されることもございますよ。」


 ルシーズは私から目を反らした。むかつく~!


 「私が申し上げたいのは。」

 「トロいって?」

 「普段の運動量からしたら拍手喝采ものでございます。」


 うるさいわ。


 「そんな事より…誓約の儀の時、陛下が皇女様に仰った言葉を覚えておられますか?」

 「お父様が?ええと」

 「私を完全に使いこなせるよう励め、と。」


 そういえばそんな事言われたっけ。


 「私は忠誠を誓った日からこれまで皇女様のご命令に従って生きておりました。しかし、それは皇居であり王都…両陛下や王佐などあなたを導いて支えてくださる方がいらっしゃったから全て上手くいっていただけの事でございます。でも、ここはもう王都じゃない。両陛下の統べる土地ですがもうあの方々があなたを導いてくださって、そんなあなたに私が付き従う事で回るわけではないのです、皇女様。」


 私を導いてくれる人間はいない。ルシーズはハッキリそう言った。


 ルシーズ含め城の人達が私の決意に反対し、心配し、アテにしなかった理由…決して過保護だったわけじゃない、事実だったんだ。私は家出をするにはあまりに拙く、若すぎたんだ。

 誰もハッキリ言わなかったのは、私が強がって無理をしないため。いつでも戻ってきやすくするため。そして今、私が彼らの予想に反して1時間半かけてここまで歩けた。


 今は、ルシーズしか私の本気をすぐに知る事は出来ない。ここで村から使いを王都まで走らせて指示を仰ぐことだってできるだろう。でも彼はそんな事をしなかった。

 ルシーズは私をからかうように見せてもう全部私を受け止めた上で、教えてくれたんだ。自分がそれだけの覚悟をしていると意思表示してくれたように思えた。


 「皇女様…私は皇居での暮らし、そして黄泉の国までお供申し上げるつもりでございました。しかし、もうこの旅のお供についても覚悟いたしました。」

 「ええ。」


 私がしっかりしなきゃね。


 「皇女様、そこで話を戻しますが、私にこれまでの業務に加えて世話役…いえ、そこまではさしでがましいでしょうか、サリバン女史程度に口を出す権利をお許しくださいませ。」

 「…ルシーズが色々教えてくれるって事ですか?」

 「はい、本格的にルートや旅の計画の指南…いえ、助言をさせてください。」


 思いがけない提案だった。ルシーズは…私を責めるのではなく「自分を頼ってほしい」と言っているのだった。


 「良いのですか?」

 「はい、私の忠誠心ゆえに、ここは1歩引くのではなくサポートに加えてエスコートも担う必要があると判断いたしました。」


 確かに私なんかよりずっとルシーズの方が地理的な情報や安全で正確なルート選びには詳しいだろう。それに彼は…北部軍時代に別の大国と接する前線を守っていて、王都に来てからは防衛部にいた人間だ。その手の作業には自信があるのだろう。


 「こちらこそお願いします。」

 「許可いただきありがとうございます。これからよりいっそう皇女様に誠心誠意お仕えしてまいりますね。」

 あざす!


 シャニーア家の令嬢が言っていた、いわゆる万能執事をルシーズがやってくれるのか。


 「バーバラ嬢付きアルノーの事でございますか。」

 「そう!アルノーさん!」

 護衛と教育係を兼ねてるんだったっけ。でもかなり年上だったよね、あの人。童顔だから若く見えるけどもう30近いんじゃなかったっけ。柔和な表情に見える笑いジワには人生経験の深さが刻まれている。


 「…アルノーは西部軍の通信部にいたのですが、前線兵だったので戦闘においては強いですよ。ただ、私は彼の弱点そして得意な攻撃を把握しておりますので万が一彼らが牙をむいても皇女様は私が守りきる事をお約束いたします。」

 「心強いです。」


 えっ、普通にルシーズってチートじゃない?

 RPGで言う所のガチャでアルノーさんがSRだとすると、ルシーズSUR+かSSR級じゃない?


 「ただ、私は彼ほど家事能力には長けておりませんのでその点は申し訳ない限りでございます。お茶や菓子にも詳しくはないですし…」

 「ええっ!良いですよ、そんな…」

 アルノーさんはお菓子作りが得意だ。そして西部地方の料理ならフルコースも作れる。彼は毎朝バーバラのベッドメイキングをして、髪を梳いて結って、社交の場ではお手洗いの際に軽く化粧なんかもしているそうだ。


 要するに、ルシーズの戦闘力を下げてその分のステータスをメイド要素に振り分けたのがアルノーさんである。

 いや…アルノーさんには悪いけど、まだ容姿が恵まれているという点でルシーズの勝ちだ。

 アルノーさんは攻略キャラという選ばれし人間ではないため、ルシーズという攻略キャラのギフトを受け取っている人間と比べてはいけない。


 「アルノーも気の毒に。彼は男前な方でしょう?」

 「それはそうですけど…」


 ルシーズが規格外なんだよ、絶対。


 「ルシーズ…何をニヤニヤしているんですか?」

 「アルノーには何の恨みもございませんが、何となくニヤけてしまいました。」


 腹黒いな、この人。

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