案件と新企画の説明(オトセン視点)
俺は「オトセン」というチャンネル名で実況をしている、チーターゲーマー。人に胸張って言えた事じゃないが、俺はこれまでの人生で色々とあって視力と倫理観を代償にゲームのハッキング技術をマスターしてしまった。まあ、その技術を遺憾なく発揮してチートで好き勝手やりまくると裁判所行きなので、俺はある交渉に出た・・・アプリ開発に携わるメーカーに対し「あえてチートを使った実況を行う事で宣伝を行う」というバカみたいな案件を俺に任せてくれないか、と声をかけて回った。
普通なら利用規約とかで「チートや改ざんを行う行為は禁止」しているはずなのに、この頭のネジが数本外れてしまっていると思われる俺の提案を面白半分で聞き入れた会社があったんだよ、これが!そこそこでかく、いくつかジャンルに分かれてアプリ開発やグッズ開発までやってるその会社が最初に頼んだ案件は乙女ゲー部門のチートプレイだった。
そして驚く事に、この実況動画……再生数がやたら伸びてバズった。そう……バズったんだ、炎上じゃない、高評価がえげつなくついたんだ!そしてアプリのダウンロード数自体も爆発的に伸びた。日本語音声・日本語字幕のみで英字幕すら無かったのに、海外の実況者まで始めるという伸びっぷり……。
動画の影響はそれだけじゃなかった。会社が言うには、たまにゲームの攻略キャラにガチで恋した気の毒な客(重課金勢ばかりなので一応客扱い)で危ない電話をコールセンターにかける人数がぱたりと減った事だ。もし自分が恋してるキャラが俺のようなモラル崩壊人間が操っているんだと思ったら一万年の恋も冷めるよなぁ?
ただ……俺にはコメント欄やSNSで信者と名乗り正義によってアンチコメをバッシングする危ない(おそらく)女が大量に付いたんだが……きっとそのコールセンター勢から移ったんだろうな。あとは……女叩きでカースト上の男に媚びようと虚勢を張るのに必死な男どもと、俺を免罪符に「ヲタクきも~い」とか言う自称カースト上位層の女子が主な視聴者層だ。
そんな世間的に敬遠される奴らに求められるような動画投稿を続ける俺の仕事は、大きく分けて3段階だ。まず、メーカーとの打ち合わせでハッキングのガイドラインやおおまかな原作ストーリーの流れを確認する。次に、ストーリーの細部を精読しながらどのキャラをハッキングするか動画の構成を立てる。最後に、チートプレイしてそれを動画として編集する。意外と真面目でしょ?
まあ、好きな事には誰だって真面目に取り組むでしょ?俺がチャンネル名でもある「乙女ゲー女子専」という新たな性癖を最初の案件で開拓して以来、俺は乙女ゲーの案件を中心に受けていくようになった。それに、俺へ仕事を頼む側も横のつながりで乙女ゲー開発者が多いわけだ。つまり、俺は乙女ゲーという収入源を手にした!
「織田がつき 羽柴がこねし天下餅 座りしままに食うは徳川」って言葉通り、
「開発の金 信者発狂チートプレイ 広告収入・案件おいしい」って、もう手放すわけないでしょ。
繰り返すけど、俺は「倫理観」と視力を代償にこの技術を身に付けた。良心なんてものは存在しない。
そんな俺が今回受けた乙女ゲーは正社員数名のベンチャー企業ではあるものの、1番最初に案件をくれたメーカーが開発元で、大手の案件よりはギャラが減るものの感謝の意味で懇意にしている。ある意味どちらも無名同士から野望を抱いてきた仲間だからな。
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俺はマイクに向かっていつもよりトーンを上げて話し出した。
「はいどうも、皆さん腐ってますか~?乙女ゲーに群がる女が大好物、チーター実況者の乙女ゲー女子専、略してオトセンで~す。」
最近、この決まり文句である挨拶にも慣れてきた。
「さて、本日からやっていきます、新しいゲーム!毎度キャラの後味とストーリーのムナクソ度がヤバイ『終焉プロジェクト』さんの新作乙女ゲー、『約束の逆ハーレム』でございます!」
ここでメーカーが用意したCMをかる~く流しながらツッコミというか実況をしていく。
~特殊性癖及びマニア向け乙女ゲー・「約束の逆ハーレム」!~
「いやwどんだけ特殊性癖ゲー出してんだよ!今に始まった事じゃないやん!」
~我々の前作までの作品ではまだご満足いただけなかった方、朗報です!~
「もう良いって!満足してない人、もう強がってるだけだって!暇だからレビューに『もっとやれ』って書いてるだけでしょ!」
逆に本気で書いてたらそいつは人間じゃない。廃人だ。
俺のガチの本音を言わせてもらうと、グロ描写が良いならバイ〇ハザードとかパニック系のホラーゲームをやれ。ムナクソ話が好きならスカっと系の漫画動画を見ろ。乙女ゲーに求める意味が分からん。
~「もっと足りない」「プロットの手を抜きすぎていて話が甘すぎる」などお叱りの声、ありがたく励ましとして受け取らせていただきました!~
「クレーマーも社員もメンタル耐性競争せんで良いから!お前らのムナクソ我慢が特殊性癖ゲーなんだよ。これ以上変に犠牲増やすんじゃねぇ!あっ…でも俺には仕事振ってください!ww」
ここまでイジるとさすがに仕事先からクレーム来るんじゃないかと思われがちだが、そんな俺のスタイルを良しとするメーカーも多い。特にここ「終焉」は俺もある意味社員の扱いでおなじみ「もっと過激な反応してみてください」って担当に言わせてるぐらいだ。ある意味で炎上商法に大賛成しているというわけだ。
~(略)というわけで、今回の作品は従来より力を入れております。今回の逆ハーレムは、皆さまのご期待に添える事を社員一同ここにお約束します。~
CMを見ながらの紹介が一通り終わると、俺はいよいよ企画を発表する。
「今回の企画は『攻略キャラ全員メンタリストになってみた』!!」
初投稿です。誤字・脱字等多いかと思われますが、よろしくお願いします。
旧プランクトン改めベントス