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07 洗礼者ヨハネ。あれって『俺がNo.1』じゃなくて『キリストが来るぞ』らしい。

 ドスドスドスドス


(なんだありゃ……ティラノサウルスか?いや、ゴリラあたりかも……)


 鼻息も荒く、いや実際に鼻息を聞いたワケじゃないからあくまで比喩だが、怒り狂ったマンモスみたいな感じで、見慣れたツインテールが廊下を闊歩(かっぽ)している。


(関わらないようにしよ……)


 そんなことを思って、クルリと背を向ける。



 ドスドスドスドス!



 ……なんか、足音荒くなってね?そろそろと振り返ると、般若(はんにゃ)の形相をした八神が目の前に立っていた。


「ひぃぃいいっ、ごめんなさい、殺さないでまだ俺は生きてたいです。悪い子じゃないし、いい子だし……あ、冷蔵庫の中に入ってたプリンを食べちゃったのは俺だけど、灯には言わないでくださいお願いします」

「……アンタ、なに小学生みたいなアホなことやってんのよ。そもそも灯センパイと二人暮らしなんだから、そんなの冷蔵庫にない時点で犯人はアンタで確定じゃん」


 それもそうである。雰囲気に流されて、ついうっかり罪を告白してしまった。


「って、そんなことを言いに来たワケじゃないからっ」


 少し変化球ではあるものの、きちんとノリツッコミを果たしてくれた八神に心の中で合掌する。八神、お前意外といいヤツだな。顔は怖いけど。


「アンタの仕業(しわざ)でしょ」


 びしっ、と怒りの形相で指を突きつけられて、俺は三秒くらい考えるフリをした。


「……済まんが、心当たりがありすぎる。具体的にどうぞ?」


 俺の言葉に、プツリと何かがキレたような音が聞こえた。


「あぁぁのねぇっ?ほんっとうにクズ教師なのねっ?入学式の日に一目見た時から夢がガラガラ崩れた気分だったけど、そんなの比にならないくらいのクズだったわ!やることなすことテキトーだし、授業には遅刻してくるし、それどころか学校に遅刻してくるし、珍しく真面目に仕事してるなって思ったら、(まぶた)にマジックで目描いて寝こけてたり!」


「あれは寝てたら生徒にイタズラされたんであって、自分で描いたわけじゃないけどな」

「寝てたことに変わりはないでしょうがっ」


 そう怒鳴られて、ごもっともだと思ったのでコクコク頷いておく。


「でもね、さすがの私も今回の件は黙ってられないわ。アンタ、神代に何吹き込んだの」

「……別に、親睦は深めてるが、特に何も吹き込んじゃいないぞ」


 まあ、神代のプライベートにも関わる話ではあるので、あの出来事を八神にペラペラ話すわけにもいかないし、そんな必要もない。ただ、神代と話をしてから、ただでさえ俺を盲信してる感じだった神代が、今まで以上に忠犬っぷりが凄まじくなったのは気のせいじゃない。そりゃ、八神が何かあったと勘ぐっても、おかしくないくらいに。


「嘘よ。昨日、アイツが私の所に来て何て言ったと思う?……『これまでの非礼をお詫びします。私はあなたと仲良くしたい。やり直せませんか』とか言いやがったのよっ?こんなこと、あのクソプライドの高い偏屈女が、何故か崇拝し続けてるアンタが何か言いでもしなきゃ、地割れが起きて第六天魔王が復活して戦国時代が再来したって有り得ないわ」


 俺はお前のその、謎の発想力の方が心配だよ八神。


「カルシウム、足りてないのか?」

「むっきーっ!誰がいま、身長の話しろって言ったのよっ!だいたいね、牛乳のんでも身長なんて伸びないんですからねっ?」


 いや、別に誰も身長の話なんてしてないし、カリカリしてるみたいだから聞いてみただけなんだが。そもそも怒った時に『むっきー』なんて言うヤツ初めて見た。こいつといると、ツッコミが追いつかない。


(にしても、本当に謝ったのか神代……)


 正直、悪いけどにわかには信じがたい。八神ほどじゃないけど、ぶっちゃけ天変地異レベルで驚いてる。確かに『八神とだって分かり合える』的なことは言いもしたけど、まさか本当にこんなにもアッサリと、それもド直球で関係修復に走るなんて思いもしなかった。


「とにかくっ、あのバカはアンタの言ったことなら何でも頭から鵜呑(うの)みにすんのよ!いい?神代梓にとって、穂高燿は神様にも等しい存在なわけ。そこんとこ、ちゃんと分かってるのっ?」


 呆然と言葉を受け止める他にない俺を前にして、フーッフーッと毛を逆立てた猫みたいに(うな)ってた八神は、ふと何かに気付いたような表情でピタリと動きを止めた。

 視線が、俺達に突き刺さっている。俺達が以前にひと悶着起こしていることを、今や知らない生徒や先生の方が珍しいくらいだ。八神は居心地が悪そうに眉をしかめると、背を向けて歩き出した。


()いてるんでしょ、準備室」


 ボソリと呟かれた言葉に、俺も彼女の後を付いていくことで応える。今日は早めに帰って、昼寝ならぬ夕寝でもしてノンビリ過ごそうという、俺の優雅な午後のプランが抹殺されたことは確定である。むしろ不穏さしかない。ただ、さすがの俺も今回のことに関しては、少なからず責任を感じていたりもするのでスタコラ逃げたりはしないで、こうして大人しく付いていってるワケなのであり。


 ガラリと我がもの顔でドアを開けて、ノシノシと準備室に入った八神は、俺に勧められるよりも先に隅に置いてある椅子をガラガラと引いてきて座る。俺も自分の椅子に座って(クルクル回るやつだ)うっかりいつものようにクルクルと回りそうになるのを必死に堪えた。俺だって、最低限のTPOくらいは守る。本当に最低限だけど。




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