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第4話 村長と息子

村長と酒を酌み交わして一夜が明け……

「……ん?」


 目が覚めて視界に入った天井が見慣れた安宿のものと違う。

 そうだ、村長の家に泊まったんだ。


 前日は夜遅くまで村長と酒を酌み交わし、依頼に関する様々な情報をやり取りした。

 概要だけなら依頼書でも分かるが、実際に依頼人と顔を合わせなければ得られない情報も多い。


 家畜の規模や被害の状況、これまでに行った対策やその効果、被害復旧に要する予算や資金、村民たちの心情、etc……。

 一般的な冒険者であれば被害復旧うんぬんまで考えることはあまりはないだろう。


 しかし、事態が大きくなれば領主に援助要請する必要もあるだろうし、要請するにしても領主が動きやすい言い方というものがあるのだ。他貴族の領地(よそ様の庭)とは言え、領主側の考え方が分かっている身としては言い方ひとつで結果が変わるなら有意義な助言をしておきたいというもの。


 こちらの出自を知らない村長は、被害復旧に関する話を振ると「そんな事まで気にして下さるのですか?」と驚き、「親身になってもらえて嬉しい」だの「ありがたい」だの言った上で、滞在中は村長宅の空き部屋を使って欲しいと申し出てくれた。


 また、途中から村長の息子 -ゾイルというらしい- が酒の席に加わった。ティカバ周辺の調査にあたって、村民に不審がられないように顔つなぎをしてくれるとのこと。ここまで依頼主に好意を持たれることはあまりない。なかなか幸先の良い滑り出しと言える。


 身支度を整えて部屋を出ると、リビングに向かった。村長とゾイルがテーブルで茶を飲みながら話をしており、村長夫人はエルムと一緒に食事の支度をしている。


「おはようございます」

「「「おはようございます」」」

「おっはよ~」


「昨日はよく眠れましたか?」

 村長夫人が俺にニッコリと笑顔を向けた。


「おはようございます。おかげさまでぐっすり眠れました。やはりベッドはいいですね」


 いくら野営に慣れたといっても、ベッドのほうが快適なのは変わらない。むしろ、ありがたみが身に染みるようになった。それよりエルムが他人様(ひとさま)の家で当たり前のように配膳しているのは何故だ。


「エルム、準備はありがたいけど……どしたの?」

「この辺りの薬草を摘みたくて早起きしたの。朝しか取れない物もあるしね。で、戻ってきたら奥さんが朝食の支度してて、5人分を一人で準備するのは大変でしょ? だからお手伝い。昨日は恥ずかしいとこ見せちゃったしね」


 そういえば昨夜のエルムは話も佳境という段階に入ってようやく我に返り、逃げるように空き部屋へ去っていったな。彼女なりの罪滅ぼしらしい。


「そっか。エルム、……ティカバ・プリンだっけ? 今日の調査、店が閉まるまでに終わったら買いに行こう」

「う、うん!! そうだね、お仕事頑張ろうね」

「放牧地の外周を調査する時は、探知スキルをずっと発動してもらうことになる。こまめに休憩を挟むけど、辛くなったら遠慮なく言ってほしい。よろしく頼むね」

「ありがと。でも大丈夫! 魔力切れ起こさないようにペース配分するし、魔力回復薬のストックもあるから」


 配膳が終わり、5人でテーブルにつく。

 テーブルには黒パン、野菜がゴロゴロ入ったスープ、焼いた分厚いベーコン、搾りたての牛乳が並ぶ。


 村長宅だから豪華なのかと思ったが、ティカバでは一般的な水準の朝食なのだとか。

 ちなみに俺が拠点代わりに使っている安宿だと朝食は黒パン1つ。運が良ければそれにクズ野菜のスープがつく程度。大商人や貴族でもない限り、朝食なんて大体みんなその程度だ。余所(よそ)からティカバへの移住希望者が多いのにも頷ける。


 朝食を終えると俺たちはゾイルの案内で村長宅そばの集会所へ向かった。家畜に被害を受けた農家を集め、話ができるようにしてくれるらしい。


「これから彼らを集めます。私は狼煙のろしと半鐘の準備がありますので、コバルトさん達は中でお待ちください」

「分かりました、よろしくお願いします」


しばらくすると、外から半鐘の音が聞こえてくる。カーン、カーンとのんびり鳴り響く音にはどこか懐かしさを覚える。王都では魔道具を使って拡声するのが一般的になりつつあるが、狼煙のろしの色と半鐘の鳴らし方を組み合わせた連絡方法はほとんどの地域でまだまだ現役だ。


 エルムと調査の手順について打ち合わせを行っていると、ぽつりぽつり人が集まってきた。20人ほど集まったところでゾイルも戻ってきたので、これで全部だろう。


 さて、調査を始めよう。




次回、調査をいよいよ開始します。

エルムの活躍が見れるかも??

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