第2話 農村からの依頼
冒険者ギルドで幼馴染と再開!?
俺は冒険者ギルドで手頃な依頼を探していた。
普段から依頼は単独でこなすことが多い。しかし内容によっては、顔見知りと臨時でパーティーを組むこともある。
いま眺めているのは、王都から馬車で2日ほどかかる農村からのもの。家畜に被害が出たので近辺を調査して欲しいとのことだった。
原因が野生の狼程度ならまだ良いが、魔物の仕業であれば手頃な食料庫として目をつけられている可能性が高い。家畜どころか村民にまで被害が及ぶだろう。
自身の強みは剣術。居場所がはっきりした対象の討伐や商人の護衛ならともかく、土地勘の薄い辺境では探知スキルに長けた人物の同行が必要だ。掲示板に張り出された依頼書を前に腕を組んで頭を悩ませていたところ、後ろから声をかけられた。
「ぉ、コバルト?」
「ん?」
振り返ると、蜂蜜色のお下げを揺らしながら微笑む幼馴染がいた。お互いの母親がもともと友人で仲が良く、物心つく前から俺達ふたりを一緒に遊ばせていたそうだ。
「エルム、久しぶり。何かいいことでもあったの?」
「うん、今年入ってから新薬の開発やってるじゃん? ようやく一段落ついてね。ここんとこ、ずっと研究室こもりっぱなしだったから」
「珍しいね。エルムはフィールドワーク要員だと思ってたけど」
彼女は普段、王都魔法研究所の職員として働いている。風と土、ふたつの魔法に適性があり、この2属性を複合させることで草木に干渉することができる。調査や研究に必要な植物系の素材を集める時は彼女の独壇場である。
「私もそのつもりで研究所入ったんだけど現実は甘くないかなぁ」
「そうなの?」
「机の上に山ほど鉱物並べて片っ端からすり潰しちゃあ薬剤と混ぜて、魔力反応みて……。やりたい仕事に就けたからって、好きなことばっかできるわけじゃないんだね」
彼女はげんなりとした表情を見せる。
「大変そうだね。でも凄いよ。そういう話を聞くと何だかんだでプロフェッショナルって感じがする」
彼らが地道に積み上げた研究の結果が人々の生活を支え、豊かにしている。その成果は魔法学をはじめ、薬学、医学、生物学、物理学、化学、その他にも様々なところで見られ、枚挙に暇がない。
「そ、そうかな?」
「そうだよ」
「ところでコバルト、何してんの? 依頼探し?」
「うん、ちょっと気になるのを見つけてね」
そう答えると、俺は壁に貼られた依頼書を指さす。
「どれどれ? ぁー、家畜被害の調査ね。受けるの?」
「依頼元の農村は割と裕福なところだから条件はいい。ただ……」
「探索スキルがないから踏ん切りがつかないってわけね」
エルムの一言に俺は無言でうなずく。
彼女は続けて、こんな提案をしてきた。
「それだったら一緒に行こうか? 私なら探索スキルもあるし、農村周りに出るモンスターぐらいだったら自分の身も守れる」
「いいのか? ようやく落ち着いたんだろ?」
「いいのいいの。気分転換がてら王都から少し離れたかったし、ちょうど試験薬の素材も集めたかったもの」
彼女は俺にそう返すと、屈託のない笑顔を見せた。
次回、エルムと被害調査に向かいます。