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第96話 御伽の世界6

まさか、こんな形で異世界へ行く事になろうとは……

装備を整える3名の表情は、緊張で強ばっていた。


クロエは思うのだ。


魔界を支配する、現魔王である父。

圧倒的な暴力と魔力で、立ちはだかる全てを破壊し葬り去る最強の存在。


母も大概だ。

勇者 大澤ケンジの世界に、神の子と崇められ”聖女”と呼ばれる、特殊な力を持った者が居ると聞いた。

その力は、傷を癒し、病を治すそうだ。

そんな神の子が霞んで見える程の超回復魔法を操り、寿命以外なら反魂の秘術で蘇生まで可能な規格外の女神。


私の実の母は、父の魔力に晒され変異した特殊な美しい悪魔。

味方に対しては意識に働きかけポテンシャルを引き出すが、敵に対しては精神を弄び崩壊させる残酷性を秘めている。


もう1人の母は、竜の頂点に君臨する絶対的強者。

その破壊力は、星をも消し去る……


自分の知る限り、支援も攻撃力も最強。そんな父と母が、行方不明となり、囚われの身となっているのだ。

この救出作戦……下手をすれば、命を落としかねない。


目を閉じ……気持ちを落ち着かせるクロエ。


「クロエちゃん?」


僅かに開いた部屋の扉から、幼い少女の声が聞こえた。

フェニックスである。

特別講師として、子供達の修行に付き合っていたのだが、緊急事態と聞き、一緒に魔界に来ていたのだ。


「ちょっといい?」

「……? うん」


フェニックスは、月明かりに照らされたバルコニーへとクロエを連れ出した。


「……愛の告白//」

「……え!?//」

「じゃないよ。実は、これを渡そうと思って……」


フェニックスは、自身の羽毛で作った白い外套を手渡した。

宇宙空間で見る太陽の様に、白く美しい外套。


「クロエちゃんが無事に帰れる様に、祈りを込めて作ったの……禿げちゃうから3人分用意出来なくて……」

「!?……ありがとう」


年上だが、見た目はとても幼いフェニックス。

クロエは、フェニックスを抱き寄せ頭を撫でた。


(しっかり金貨ぐらいの範囲が禿げてる……だから部屋に入って来なかったのね……)


出発の時は近い。



…………………………………………



遡る事15時間前。


俺はクイーン グリムヒルデの城に到着していた。

魔女は、妻達が御伽の世界に現れるまで、世界ランク1位だった訳だ。是非見てみたい。


しかし、城に入ると、連れて行かれたのは地下牢獄……

どうやら、魔女は外出中らしい。

ガッカリしていると、足枷と手錠をかけられ取調べが始まった。


「お前の名は何だ?」

「グルナ」


「住所は?」

「住所不定だ」


「お前は悪魔なのか?」

「いや、分かりにくいかも知れないが悪魔寄りの神だ」

「…………」

(頭イカれてやがるぜ…)


「職業は?」

「越後の縮緬問屋だ」

「縮緬問屋って何だ?」

「水戸黄門?いや、簡単に言えば商人だな」

「最初から商人だと言えっ!!」


鉄の棒で殴り掛かる兵士。

その後、俺は2時間に渡って集団暴行を受けた。


「なんて頑丈な奴だ!ハァハァ!」

「…………った」

「あ!?まだ喋る元気が残ってたのか!?」

「……腹が減った」

「おい、今何て言った?」

「…………。腹が減ったって言ったんだよっ!!さっさとメシ持ってこいっ!!ウスノロ共ッッ!!」


拘束具を引き千切る悪魔寄りの神。


「さっさと用意しないと……城下町に買い物に行くぞ!ゴラァッ!!」


取り囲み、集団暴行を加えてきた兵士の1人を蹴り飛ばした。

殺さない様に、優しく蹴ったつもりだったが、その兵士は壁を突き破り、隣の部屋へ行ってしまった。

肋骨が粉砕骨折していたらしく、医務室に運ばれて行ったが、弱いにも程があるだろう。

まぁ、取調べを担当する末端の兵士等そんなものと思う事にしたのだった。


牢屋の扉を蹴り壊し、中で待つ事30分程。

俺の元に、御伽の世界版”臭い飯”が運ばれてきた。


「…………」

(残飯じゃねぇか……)


酷かった……とても酷かったのだ。

パンや米がふやけて膨張した半固形物に、色の変色した野菜と、ほぼ生の細かい謎肉……それがビビンバの様にごちゃ混ぜに入っているのだ。


炭水化物有り!食物繊維ビタミン有り!動物性タンパク質有り!完璧だ。

腐敗が始まっている様で、匂いも酸っぱい!


良く言えば丼物だが、俺は食べなかった。

食べてはいないので確かな事は言えないが、相当不味いだろうし、お腹も下るだろう。

(此処に比べたら、サタナス国の牢屋はホテルの様だ……)

そこで、俺は城下町の飲食店へ行く事にしたのだ。


「待て!!コラッ!!………ウゲッ」

(……異世界の肉料理は食べときたいな。妻達と合流した時に行く店も発見しなくては)

「おい!銀髪が逃げたぞ!!…グハッ!」

(……露店がいっぱいあったら食べ歩きもいいかも)

「もういい!!殺せっ!!……んふぉ!!」

(ついでにお土産も見とくか……)


背後が騒がしいが、此処は異世界だ。

騒がしいのが普通なのかも知れないので、気にしないようにしよう。

城下町に出ると、異世界を実感した。


大男が営む、大きな豆を使った料理を出す店。

蝶々とあおむしが、虫食い穴だらけの食料品を販売している店。

その横では、カラスがパン屋をやっていたりと、そこは、とても不思議な世界だったのだ。


大男の店に入ると、メニューは無かった。

席に着き、暫く待つと、天井に頭が着きそうな程大柄な女性ウエイトレスが、俺の顔よりも大きな豆が乗った皿を運んで来た。

(でけぇ……こんな豆が有るのか……)

パンとスープもセットの様だ。


「!!?」


一口頬張った俺は、あまりの味の濃さに驚いた。

味付けが濃いのではない。豆の味が濃いのだ。これは何としても輸入しなくてはなるまい。


「なぁ、この豆は八百屋とかで販売してるのか?」

「ん?生の豆が欲しいのか?

販売はしてないぞ。どうしても欲しけりゃ、仕入れを担当してるジャックって奴が居る。そいつに相談したらいい」


強面な大男だが、とても親切だ。

巨大な豆料理を堪能し、すっかり満腹になった俺は、翌朝の朝食としてカラスのパン屋で人気No.1と書いてあったパンを買ってから牢屋に戻った。


翌朝、俺は早起きして城下町を散策した後、牢屋でカラス達が心を込めて作った美味しいパンを食べていた。

兵士達が用意した朝食は、案の定残飯だったので、買ってきて正解だった様だ。

まぁ、残飯を見て頭に来た俺は、懲りずにソレを持って来た兵士を……と言うか、俺の牢屋があるフロアに居た兵士全員、ボッコボコにしてやったなど言うまでもない。


暫く待っていたが、一向に帰ってこない魔女。

待ちくたびれた俺は、魔女狩りならぬ魔女探しをしようと、鉄格子を破壊し外に出た。


「待ってくれ!女王様がお前を連れて来いと仰っているのだ!頼むから一緒に来てくれ!じゃないと俺達は殺されちまう!!

それと、女王様の前では暴れないでくれ!!頼む!!お願いします!!」

(俺は罪人なんだろ?お願いしてんじゃねぇよ……)

「しょうがねぇな……その代わり、晩メシは美味しい肉料理を用意しろよ?」

「最高の肉料理をご用意します!!」


どうやら、魔女は帰って来た様だ。


俺は、拘束具でガチガチに固められ、王の間へと連行された。

そこで、待っていたのは魔女クイーン グリムヒルデのみ。

黒いドレスを纏い、大胆に開いた胸元は、盛りに盛られた胸がこぼれ落ちんばかりだ。エロい!

少々ケバいが、端正な顔立ちで、妻達がこの世界に居なければ世界ランク1位なのも納得だ。


まるで、獲物を見つめる猫科の猛獣の様に俺を眺める魔女。


「なかなか可愛い顔をしているではないか。

妻を失い、途方に暮れているのであろう?」

「……?」

「お前は、兵士達の職務を妨害したそうだな?本来ならば、厳罰に処すところだが……放免してやってもよいぞ?」

「噂では、残酷極まりない魔女だと聞いている……その魔女が、自国の兵士を虚仮にされているにも関わらず、この生温い対応は何だ?

目的を言え」

「私は、お前を情夫にしたい」

「……何とも色気のある答えだな」


寒気がした。

魔女は、俺の苦手なタイプの女性だ。

そもそも、王が居ないとはいえ、家臣や大勢の兵士が居る前で”愛人になれ”と、サラッと言い放つ異常性だ。

お前のお陰で、妻達と死別した(はぐれた)とか

娘が居なくなってるのに心配しないのか?とか

色々言いたい事は有るが、さっきの僅かなやり取りで分かった。

コイツと会話をするのは精神衛生上良くない。


「俺は、妻を失った傷が癒えていない。

明日の朝まで考えさせてくれ」


ヒモになる気等更々無い俺は、逃げる様に地下牢獄へ戻った。

魔法の鏡に問い掛けた魔女。

俺は、素性と王妃達の生存を知られてしまう。

発狂し殺しに来るかと思われたが、魔女は”ある計画”を思い付き、静かに微笑んだ……

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