表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/132

第95話 御伽の世界5

「私達は、旦那様との旅行を楽しんでるの!!邪魔しないでよ!!」


怒る竜王アリス。

出発する前に、攻撃魔法は勿論、暴力全般厳禁だと言い聞かせたのだが、怒りながらも、ちゃんと言い付けを守っている。

殺しに掛かる気配の無い怒ったアリスは、とても可愛らしいのだ。

しかし、そんな可愛いアリス達に対し、騎士達は剣を抜き、更に威嚇し始めたのだ。


「お前達……俺の妻に刃を向けるという事が……どういう事か分かっているのであろうな?」

(だ、旦那様がキレちゃう!私には暴力全般厳禁って言ってたのに!)


煙草を吸う女はちょっと……とか言う奴に限って、自分は煙草を吸っていたりする。

世の中そんなものだ。


漸く、俺の方を向いた騎士達。

俺の見た目は、二十歳前後で丸腰。魔力も限界まで抑えていたので、何の脅威にも感じなかった事だろう。

数名の騎士は、俺を取り囲み喉元に剣をチラつかせた。


「童が……自分の命が風前の灯だという事ぐらい、この状況を見れば馬鹿でも分かるだろうに」

「いや……俺は大馬鹿野郎だからよく分からねぇ」


親指の指節間関節を使った、良く握り込まれた神速の回し打ち。

斜め後ろへの衝撃波の様な足刀。

当たった事さえも気付かない、飛燕の飛び回し蹴り。


顬に打ち込まれた回し打ちは、兜はおろか頭蓋をも破壊し眉間の位置までめり込む。

背後へ放たれた足刀は、鎧など意に介さず心臓を押し潰し、飛び回し蹴りは騎士の頭部と胴体を分断した。


様に見えた。


顬への打撃を受けた騎士団長は、数年後、癒えない恐怖に震えながら証言した。


「えぇ、間違いなく死にましたよ。

目の前に、兜の破片が舞っているのが見えました。その後は、視界がブラックアウトし冥府を彷徨ったのです。

深淵の縁を漂う私は……何かこう……巨大な手の様なものに無理矢理引き揚げられたと感じました。次の瞬間、私の意識は戻り……無傷で現場に立っていたのです。

まぁ、兜は砕け散っていましたけどね」


打撃の直撃と同時に、上位の回復魔法も叩き込む。

命を絶つ間も無く、修復し回復させる。

だが恐らく、騎士達は”死”を体験しただろう。


「緊急事態が発生しているぞ?対処しなくていいのか?」


無数に居る騎士達は理解出来なかった。

団長と2人の同僚は、確かに惨殺された様に見えたのだ。

しかし、人形の様に立ち尽くしてはいるものの、潰された頭部と胸部は勿論、引きちぎられた首も無傷であり、鎧のみが無惨にも破壊されていたのだから。


呆気に取られる騎士達だったが、まだ戦意喪失とまでは至っていない様だ。

見せしめに、もう1人始末しよう。


少し離れた所に居た騎士の人中に、ややスピードを落とした一本拳を打ち込む。

またしても、兜は砕け散り、その勢いは減衰する事なく、拳は後頭部を突き破った。


「ヒィィ!!」


腰を抜かす騎士達。

始末しようとは言ったが、先程と同じ様に回復魔法も発動しているのだ。

死んではいない。


蚊帳の外状態でイライラしている所に、妻達に刃を向ける暴挙で更にムカついたのもあるが、俺は旅行を楽しみたいのだ。


コイツらを生かして城に戻し、俺の事を報告してもらう。

そして、それなりの規模の部隊が編成されて、捜索が始まるまでに数日掛かるだろうと予想している。

その数日の間に旅行を楽しみ、捕まる事無くおさらばするのだ。


しかし……


「あんた達!こっちよ!!」

「え?カーラちゃん!ちょっと!」


カーラは、逃げるチャンスと思った様だ。

アリスの手を引き、駆け出してしまった……


その数分後。

リリアから念話が来た。


”だんな様?林を抜けて少し行った所で、カーラちゃんが穴に落ちてしまいました。少し深い穴みたい……”

(ったく、あの子は何してんだ……)

”カーラを任せていいか?俺はコイツらに説教してから行くよ”

”はーい//”


「さてと……貴様等、よくも旅行の邪魔をしてくれたな……」


1列に整列させ、全員を正座させる俺。

斬首されると思い、怯える騎士達。

中には、覚悟を決めて静かに目を閉じる者も居た。


「殺しはしない。が……

城に戻り、主に報告するのだ。

100や200じゃ死体の山が出来るだけだろうとな!!」


そして、俺は全員のみぞおちに軽めのトーキックを見舞ってやったのだ。


「グフッ!!……。」

「……ッッッッ!!」


「お、お前は……一体何者だ……ハァハァ」


悶えながらも、問い掛ける騎士。


「越後の縮緬問屋だ」

「「……?」」


何それ?みたいな顔をしていたので、もう1発づつ喰らわしてやろうかと思ったが、妻達が心配だ。

俺は、カーラと妻達が走って行った方へ歩き出した。


林を抜け、暫く進んだがカーラが落ちたという穴は一向に見付からない。


”みんな無事か?穴が見当たらないんだが……”

”……………”


念話は通じなかった。

俺は、黒ムック通話を試みた。

黒ムックは、過去だろうが未来だろうが、別次元だろうがお構い無しなのだ。


”みんな、聞こえるか?”

”あ!旦那様だ!良かった、念話がつかえなくて困ってたの!”

”黒ムック回線なら大丈夫みたいだな。今、穴を探してるんだが見当たらないんだ”

”グルナ、穴は塞がってるらしいぞ!”

”何だって!!?”


妻達の話では、カーラを助ける為に穴に入ったところ、足を滑らせて自分達も落ちてしまったそうだ。

穴の底はクッションの様に柔らかく、怪我は無いらしい。


カーラを背負い穴を登ろうとしていた妻達の元に、人語を話す服を着た兎が現れ、穴は塞がっている事を告げたそうだ。

出口が有るか聞いたところ、有るらしい。

その出口とは……


クイーン グリムヒルデの城に隣接した森だそうだ。


”すぐに出れそうなのか?”

”うーん、すぐには無理みたい……”

”じゃあ、何時でも合流出来る様に、魔女の城で待たせてもらうよ。気をつけてな”

”はーい//”


妻達は、魔王である俺の心配などしていない。

しかし、俺は妻達が心配で心配で仕方無かった。


折角の旅行を台無しにした挙句、こんなにも不安な気持ちにさせやがって……

俺は3人妻が居るから不安も心配も3倍なんだぞ!!

絶対に許さん……

せめて、地上に出て来た妻達が危険に晒されない様に、魔女の国の軍事力を無力化しておこうと思う。


俺は、先程解放した騎士達の元へ戻った。


一方、林の中で治療を行っていた騎士達は困り果てていた。

女達を見失い、丸腰の男に壊滅させられたなど、一体何と報告したらいいのか……

虚偽の報告等以ての外、しかし、銀髪の男に言われた通り報告すれば首が飛ぶだろう……

いや、事実をありのまま報告するしかあるまい……

団長が覚悟を決め、城へ移動しようとした時、1人の騎士が叫んだ。


「ヒィィ!縮緬問屋が帰って来た!!」

「何だと!!?」


見逃してくれたのではないのか?上げて落とす作戦だったのか!?

どういう意図だったかは分からないが、2度目は無いだろう。

そうだ。アイツは古文書で語り継がれている”悪魔”とやらに違いない。

神と敵対する存在。

その悪魔と交渉出来るかは分からないが、せめて、私の首1つで……せめて部下の命だけは……


思考を巡らせる団長の目の前には、銀髪の悪魔が迫っていた。


「お前等……1列に整列して正座しろ……」

「!!?」


はじまる……

また、あの地獄が始まる……

青褪める騎士達。

しかし、目の前に立つ銀髪の悪魔は、思いもよらない言葉を口にした。


「お前達、手ぶらじゃ帰れないだろ?

俺を拘束して、城に連れて行け」

「え?」

「女達は逃走するも、深い穴に落ちて死亡。

妻達が死に、発狂してしまった夫を証拠として拘束した。

俺は、演技で少し暴れるかも知れんが……

まぁ、お前達の首は飛ばないだろう」

「はぁ……」


こうして、俺は道に迷うことなく魔女の城へ行く事が出来た。



………………………………………



その頃、魔界では。


魔王様達の身に何かあったら、連絡をお願いしまーす!とベレトから言われていた黒ムックは、ベレトにありのままを報告していた。


「王妃様達が行方不明になりましたー」

(※黒ムックは嘘は言っていません)

「えっ!!?」

「魔王様は魔女の城で拘束されてますー」

(※黒ムックは嘘は言っていません)

「なんと!!」

「このままだと大変な事になるかもですー(魔女の城が)」


この緊急事態に、すぐさま幹部達が招集された。

勿論、修行中だった子供達もだ。


「状況を報告します。

黒ムック様からの情報によると、王妃様3名は旅行2日目、突如発生した大穴に滑落し現在まで行方不明、魔王様は魔女に捕らえられ非常に危険な状況にあるそうです」

「そんな……パパ、ママ無事でいて……お願い」


静まり返る会議室。

重い空気の中、ベレトが口を開いた。


「王が不在の今、魔王軍の指揮権はオリオン様、クロエ様……お2人に有ります」

「…………クロエ。ラクレスとディオニスを連れて異世界へ行け」

「オリオンはどうするの!?」

「俺は、城に残る。万が一の時、セレネの防御は国を守るのに不可欠だ。それに俺達に使える転移魔法じゃ、野菜の大量輸送も出来ないんだ。異世界に軍を送るのは無理だ」


オリオンは、異世界での捜索には赤ムックの力が必要だとも考えていた。

本当は行きたいが、我儘を言っている時ではない。強く握り締められた拳は、オリオンの心境を物語っていた。


「何やら面白そうな話をしておるな」


邪神アンラ・マンユである。

近々、王位継承を行うと小耳に挟んでいたアンラ・マンユは魔界の新たな支配者として、誰が相応しいか見極める良い機会だと思っていた。


「軍を送りたいなら、少し時間が掛かるが巨大な転移門を創ってやれん事も無いぞ?」

「………。アンラ・マンユ様!お願いします!!」


幹部の1人、ベレトが発した言葉……

”魔王軍の指揮権は2人に有る”

恐らく、一度に転移出来るのは数名づつだと分かっての発言だろう。

しかし、その言葉からは、主の危機に居残りなんて御免だ!という想いが滲み出ていた。

クロエは、その想いを汲み取る様に、真っ直ぐに邪神を見つめ、そして、深く…深く頭を下げた。


「良かろう。

子供達よ、装備を整えて御伽の世界へ行くがいい。此方の準備が整い次第、お前達の元へ軍を転移させてやろう」


魔界で、こんなに大事になっているなど知る由もない俺は、魔女の城……その地下牢獄で暴れに暴れていた。

動き出した魔王軍。

救出作戦は、やがて御伽の世界との全面戦争へ突入していく……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ