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第92話 御伽の世界2

「お若いの、亀をイジメたらいかんよ」

(いつの間に……)


気取られる事無く、絶妙なタイミングで声を掛けてきた老人。

手には釣竿を持ち、齢100は超えているであろう老体……この老体が曲者だ。

竿を持つ手は筋肉が落ち、皮膚が垂れ下がっている。

しかし、俺の背後を取ったのだ。

恐らく、頼りない体躯は擬態。

一体何の達人(センセイ)だ?


「お若いの……女の前で粋がるのはよいが、その亀をイジめると竜宮城へ行けんぞ」

「……1つ聞いていいか?あんた浦島太郎か?」

「お前が、どうしても亀をイジめると言うなら、女達を日焼けさせるぞ……どうだ、怖いか?」

「…………」

(……ボケてんのか?)


老人あるあるが炸裂した。聞こえていないのか……聞いていないのか……

老人あるあるで完全に冷めてしまった俺だったが、気を取り直して竜宮城について再度聞こうとした。

俺の予想では、この爺さんは”浦島太郎”だろう。

予想通りそうだった場合、今の俺達は亀をイジめる子供達。流れ的には、俺達は竜宮城へは行けない事になる。


だが、俺は竜宮城へ行きたいのだ。


そんな事を考えていると、木の棒で武装した子供達が現れたのだ。


「おい!また浦島が亀に乗ろうとしてるぞ!!やっちまえ!!」

「お前達、儂を殴ると竜宮城へ行……ブフォ!!」


手加減無しの滅多打ちだ。少々惨いが、暫く様子を見ていると、ダメージは蓄積し明らかに弱っていく老人……。

達人?とんでもない。俺が気付かなかったのは、爺さんが殺気のさの字も発せず、魔力も殆ど無い脅威度0の一般人だったのと、俺が欲求不満で我を忘れていたからであった。


亀は暴行を加える子供達の傍に近寄り、足をバタつかせ注意を引いた。

亀は浦島太郎と思しき老人を助けたのだ。

頭を守り、地面に這い蹲る老人……

その様は、亀そのもの。

本来は、亀を助ける側の浦島太郎(仮)が亀に助けられるとは……俺の知っている童話と、リアル童話ワールドの温度差がすごい。


「どさくさに紛れて亀に乗るつもりだろ!!」


終わったと思われたが、オヤジ狩りは終わってはいなかった様だ。

這いずりながら、亀の方へ少し動いた浦島太郎(仮)の頭上には、棒の雨が降り注いだ。

理由は分からないが、子供達は浦島太郎(仮)が亀に乗るのを何としても阻止したいらしい。


「なぁ、お前達は何でお爺さんが亀に乗るのを止めようとするんだ?」

「それは……」

「お若いの……儂を助けるのだゲホゲホ……助ければゲホゴホッ……竜宮城へ行けるかも知れんぞ…ゲホウゲェ……」

「かもだろ?行けない可能性もあるんだ。助けねぇよ」

(グルナ。助けてやったらどうだ?お爺さん、そろそろ死んじゃうぞ?)

(……しょうがないな)


俺は、子供達を落ち着かせると、日陰に移動し空間収納から取り出したプリンを食べさせた。


「何で爺さんが亀に乗るのを阻止するんだ?」

「僕達は、アイツが亀に乗らない様に見張ってくれって言われてるんだよ」

「ん?誰に?」

「「乙姫様!!」」


はて……前世の記憶では、浦島太郎は子供達にイジメられている亀を助け、竜宮城へ案内される。

そして、亀を助けたお礼に豪華な馳走や酒を振る舞われ、美しい乙姫達に接待を受けた。

浜に戻る間際、玉手箱を貰うも”開けてはいけない”と言われるのだが、浦島太郎は開けてしまい老人になるという物語だった筈だ……


子供達は、毎月、乙姫様にお駄賃をもらっているらしく単発の依頼ではないそうだ。


「見張って欲しい理由は?何も聞いてないのか?」

「分かんない!でも……すごく嫌そうな顔だったよ!乙姫様はアイツが嫌いなんだと思う!」


何があったのやら……

子供達と話をしていると、リリアから念話が来た。

(だんな様……お爺さんが私達を舐め回すように見てくるんです……コワイです……)

(……すぐ行く)


浦島太郎(仮)が乙姫様に嫌われていようが正直どうでもいい、竜宮城へ行きたいのだ。


「おい浦島、乙姫様に嫌われてるらしいな」

「そんな筈はない!きっと照れておるだけだ!そもそも、何で儂の名を知っておるのじゃっ!!」

「照れてはいないだろ……俺達が聞いてきてやるから、竜宮城への行き方を教えてくれ。

どうせ、何で出禁になったか分かってないんだろ?」

(やっぱ浦島太郎か……)

「教えてやってもよいぞ……しかし、お前は亀を殺そうとした危険人物じゃ!

どうしても亀の背に乗りたければ、3人の娘の内、誰か1人を置いていけ!!

お前が戻って来て、亀の無事が確認出来たら解放してやる!それが飲めなければ、行き方は教えん!!」


竜宮城へは童話の通り、亀の背に乗って行く様だ。

勿論、妻達は全員連れて行く。

一夫多妻制で円満に過ごしたければ、平等に愛情を注がなくてはならない訳で、誰か1人を置いて行くという選択肢は存在しないのだ。

それに”お前と2人きりにさせるわけないだろ!!”と浦島に言いたいのは、お察し頂けるだろう。


甲羅のサイズは、2m×1.5m程。

4人で丁度だ。

子供達に浦島太郎を見張ってもらい、俺達は亀の背に乗ってみた。

俺達が乗ると、亀は海に向かって移動し始め、竜宮城への旅が始まったのだ。


ゆっくりと泳ぐ亀は、少しづつ海の底へ向かって行く。

気になる呼吸だが、甲羅の上には膜の様な障壁が張られ、海水は侵入して来ない。

とても快適だ。

目に付くのは、色鮮やかな魚達や宝石の様な珊瑚。かなり深い所まで来ている筈だが、周囲は明るく、水族館気分で海底の景色を楽しんだ。


海底を進む事、30分。

目の前に、巨大なテラリウムの様なものが見えてきた。

それは、亀の背に張られたものと同じ障壁に覆われた、直径50㎞は在ろうかという巨大な海底都市。

竜宮城だ。


「グルナ!海の中に街があるぞ!//」

「すごーい!//」


妻達も大喜びだ。

しかし、問題は歓迎されるかどうかだ……

竜宮の使いであろう亀に乗ると、自動的に竜宮城へ行く事が出来るのだと思うが、浦島太郎の様に出禁にされてる者も居るのだ。


街を覆う障壁の内側、そこは地上と同じ様に呼吸が出来る空間だった。

見上げると、魚達が優雅に泳ぎ回る幻想的な景色。

そして、多肉植物の様な……しかし、海藻と言われれば、そう見えなくもないフワフワした不思議な植物が生えた地面。

異世界中の異世界だ。


初めて見る景色を楽しんでいると、街への入口であろう巨大な門が開き、武装した兵士達が出て来た。

今は旅行中なのだ。

不要な争いは是が非でも避けたい俺は、帰れと言われれば大人しく帰るつもりだったが、兵士達は攻撃してくる気配が無い。

暫く此方の様子を伺っていた兵士達の1人が、街の方へ走って行くのが見えたが、他の兵士達は相変わらず動く気配は無い……。


(だんな様、兵士達は何故動かないのでしょうか?)

(うーん、何だろな……このまま対峙したままってのもアレだし、中に入れてもらえるか聞いてくるか)


その時、街の方へ走って行った兵士が戻って来た。

戻って来た兵士は、上司っぽい兵士に何やら報告している様だ。

それが終わると、上司っぽい兵士は此方に歩いて来た。


「ようこそお越しくださいました。

乙姫が街を案内致しますので、今暫くこちらでお待ち下さい」

「街に入ってもいいのか?物々しかったから門前払いされると思ってたんだが……」

「不安な気持ちにさせてしまい申し訳ありませんでした。我々は”とある人物”を警戒しておりまして……

亀が連れて来た者は、基本的には歓迎する事になっております」


兵士の話では、亀は竜宮に害があると判断すれば、暫く海中を彷徨うも、竜宮城ではなく浜に戻ってしまうらしい。

暫くすると、街の方から数名の女性がやって来た。

乙姫様と街の幹部らしい。


「旅の方、竜宮城へようこそ」


とてもにこやかだが、その表情には何故か安堵したという様な感情も混ざっているように見えた。



………………………………………………



その頃、地上世界と魔界では。


(パパ達、異世界に旅行行ったみたいね!)

(そうみたいだな。俺も行きたかったけど、今は修行優先だ。特別講師も呼んでるしな)

(試練をクリアしたら皆んなで行こうね!)


念話でやり取りしながら、子供達は修行に励んでいた。

しかし、特別講師とは……

生半可な者では子供達の相手は務まらないので気になって仕方無いが、旅行から戻った後の楽しみにしておこうと思う。


一方、サタナス国では。


「4日後、魔王様が休暇からお戻りになられます。

それまでは、我等が責任をもって国を守るのです」

「……もし、王の不在を知られれば”あの国”が動く可能性がありますね」

「それもですが、魔王様はよく喧嘩を売られますー。異世界でも喧嘩を売られてるかもですー。そっちも心配ですー」

「旅人風だし大丈夫じゃね?」

「何かあれば、黒ムック様を通じて連絡は取れるし、あの魔王様ですよ?大丈夫でしょう!ハハハッ」


盛大にフラグが立っていた。



………………………………………………



俺達が竜宮城を案内されている頃。


クイーン グリムヒルデは、傀儡の王を自室に呼び付け、第一王女の縁談について話をしていた。


「森の貴族”鉄のハンス”か、隣国の王子”ガッジ”か……日の國の”桃太郎”も良い。カーラには貴方から伝えておくれ」

「うむ、分かった」


王は、王女を呼ぶと縁談の件について話を始めた。

3日後、王女との婚約を賭けた武闘会が行われる予定だという事。これは、オープンでは無く招待状が届いた者のみが参加出来る武闘会であり、優勝者が誰であろうと婚約しなくてはならない事。


「嫌よ!!私はお人形じゃないの!生涯添い遂げる相手は自分で選ぶわ!!」

「カーラ、女に必要なのは”美しさ”だけだ」

「何ですって!!?」

「女に意見は不要と言っているのだ。3日後の武闘会、その優勝者と婚約してもらう」

「…………ッッ!!」


第一王女カーラは、走って自室に戻った。

だが、彼女は分かっていた。

どんなに嫌がろうが、優勝者との婚約は断れない事を。


婚約は……嫌だけど仕方無い。

思考操作され、隣国の王女と結婚した兄の姿を見ているのだ。カーラは、自分も思考操作され結婚までさせられるのは分かっている。

しかし、彼女には自分の運命以上に気掛かりな事が1つあったのだ。

第二王女である。


それは、今年の春の出来事。


第二王女は、今年で15歳となり成人の儀を行う年なのだが……

実の母、クイーン グリムヒルデは第二王女を殺そうとしたのだ。

生まれながらに足の不自由だった第二王女は、間もなくして城の地下に幽閉された。

自分の子供の足に障害がある事を、クイーン グリムヒルデは誰にも知られたくなかったのだろう。

城の中でも、ごく一部の使用人しか知らない存在であり、生かされていた理由は、成長すれば治るかも知れないというクイーン グリムヒルデの気まぐれの様な親心からだ。


カーラが妹の存在を知ったのは、物心ついた頃。

城の地下を冒険していたカーラは”その部屋”に辿り着いた。


扉の向こうから、啜り泣く弱々しい声が聞こえたのだ。

部屋に入ると、そこにはボロ服を着た少女が1人。

髪は床まで伸び、暗闇の中で過ごしてきた日々は、少女の視力を奪っていた。

鉢合わせた使用人は、隠す事は不可能と思い、その部屋の人物は第二王女であり、自分の妹だと教えてくれたのだ。

その日から、カーラはクイーン グリムヒルデや王の目を盗んでは地下室へ行き、妹と過ごすようになった。


そして、ある日の夜。

第二王女の殺害について話をしていた王とクイーン グリムヒルデ。

その話を偶然にも聞いてしまったのだ。

カーラは急いで地下室へ行き、何とか妹を逃がそうとするも、クイーン グリムヒルデがやって来てしまう。


「この子が死んだと分かったら、私も命を断つから!」


短刀を己の喉元に突き付け、必死で妹を守ったカーラ。

もし、自分が優勝者と結婚する事になって、城を出なくてはならなくなったら……

きっと、母は妹を殺すだろう。


カーラは、手鏡を取り出した。

クイーン グリムヒルデの鏡には及ばないものの、ある程度の事は教えてくれる魔法の手鏡だ。


「鏡よ鏡……私と妹が助かる方法を教えて……」

《この男が解決してくれる。

カーラと第二王女の運命は、この男が変えてくれる》


鏡に映ったのは、銀色の髪……碧い瞳の美しい青年。


「鏡よ鏡……この人は何処に居るの?」

《この世界に居る。

この男は、この世界を旅行している》

(それだけじゃ分からないよ……)


その頃、自室に戻っていたクイーン グリムヒルデは日課を行っていた。


「鏡よ鏡……この世界で一番美しいのは誰だい?」

《この世界で一番美しいのは、アリス、リリア、ディーテ。

この3名が等しく最も美しい。1位タイ》

「!!!?」


聞き間違えだと言い聞かせ、再度鏡に問いかけるクイーン グリムヒルデ。

しかし、答えは変わる事はなかった。

怒りに震えながら、クイーン グリムヒルデは鏡に問い掛けた。


「鏡よ鏡……この女達は何処に居る?」

《アリス、リリア、ディーテは竜宮城に居る。

その内、この国に来る。

その内、この国に来るから待ってろ、世界で4番目》

「キィィィィッ!!!殺してやる!!!!!」


こうして、旅行中の魔王夫婦はクイーン グリムヒルデに存在を知られてしまったのだった。

クイーン グリムヒルデに存在を知られてしまった王妃達。

竜宮城から戻った4人は、魔女の放った刺客に囲まれてしまうが……

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