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第91話 御伽の世界1

久しぶりにアリスとリリアが作った夕食を掻き込む俺。


何故、俺が謝らなくてはならなかったのか……


何故、逆ギレしていたのだろうか……


疑問は尽きないが、忘れた方がいいだろう。

この幸せを壊してはならない。


夕食を終えると、自室に戻りニコニコしながら荷造りを始める王妃達の様子は、とても微笑ましく思えた。


「旦那様だんな様!御伽の世界とは、どの様な所なのですか?」

「んー、どんな所だろうな。有名な童話の内容は知ってるけど、その世界に行くのは初めてだからな」

「だんな様……//互いに”初めて一緒に御伽の世界へ行った人”になっちゃいましたね//」

「お、おう……」


かなりご機嫌だ。


荷物は空間収納に全部仕舞わず、少しだけ持って移動し、現地で馬車がチャーター出来たら使おうと思う。

アンラ・マンユのいう厄介な連中に目を付けられたくないので、商人か旅をしている一般人という設定が望ましいのだ。


「旦那様!私達買い物行くね!!」

「ん?何買うの?」

「旦那様の旅行用の服見てくるの!!//」


ご覧の通り、かなりご機嫌だ。

2人は、普通に皮のローブや丈夫そうなブーツを買って帰って来た。

見るからに旅人風だが、今回の設定を聞いている筈の幹部達には不評だったのだ。


「漆黒のマントと鎧以外は、やはりしっくり来ませんね……」

「俺って、そんなにダークなイメージなのかよ」


常日頃The魔王の様な格好をしている俺も悪いのだが。

まぁ、魔王なので仕方無い。


連休の前日、ディーテも荷物を持って魔界に到着した。

その翌日、俺達は早起きし”御伽の世界”へ旅立ったのであった。



………………………………………………



「鏡よ鏡……この世界で一番美しいのは誰じゃ?」

《この世界で一番美しいのは、女王様。

クイーン グリムヒルデが一番美しい》

「その通り……この世界で最も美しいのは妾なのじゃ!!」


何でも教えてくれる魔法の鏡に問いかけ続ける日々。

その答えが変わることはない。だが、それで良いのだ。

嘗て、何時ものように問い掛けたグリムヒルデに、鏡が隣国の貴族の娘の名を告げた事があった。


その娘は、とても美しかったそうだ。

あまりの美しさに、すれ違う人々は立ち尽くし、魔法に掛けられた様に魅入ってしまったらしい。まるで娘の周りだけ時間が止まってしまったかの様に。

鏡が娘の名前を告げてから数日後、貴族の屋敷は火事で全焼した。

焼け跡からは、屋敷の主や使用人の焼死体が発見されたのだ。

全員が死亡したかと思われたが、娘の遺体だけが見つからなかった。

美しい娘だ、連れ去られたのだろう……いや娘が放火したに違いない……様々な憶測が飛び交ったが、娘は発見される事となる。

森の奥深くで、木に吊るされ臓物を引きずり出された状態でだ。


住民達の間では、女王の仕業だと噂になったが、やがて忘れ去られた。


この世界で最高の美。全てが満たされる何と甘美な響なのか……

優生学的思想とも違うドス黒い欲求は、自分を超えんとする者に対し、血を求める妖刀の如く無差別に牙を剥く。

そう。例え、それが実の娘であろうと。


そんなグリムヒルデには、3人の子供がいた。

息子が1人と娘が2人。


王子は、隣国の王女と婚約している。

政略結婚と言うやつだ。


昨年、美しく成長した第一王女も15の誕生日を迎え、成人の儀を済ませた。

より華やかに、贅の限りを尽くした生活を楽しむ為に、クイーン グリムヒルデは第一王女を名家に嫁がせるべく画策を始めるのだった。


…………………………………………



御伽の世界へ転移した俺達。

到着した先は、海岸だった。


「「海だーーー!!//」」


早速の海、何とも幸先がいい。

しかも、人気の無い砂浜が広がり、プライベートビーチの様なのだ。


「キレイな海だな!ちょっと海水浴でもするか!!」

「……だんな様、着替え用のテントが欲しいです//」


恥ずかしがってやがる……。

そう、俺は10数年の月日の中で、王妃達の着替えシーンを数回しか見ていない。

しかも、ノックをせずに部屋に入ってしまった数回だけだ。

いつまでも恥じらいを持つ妻達は、いつまでも俺に女を感じさせるのだ。


簡易のテントを設置すると、着替えに行く王妃達。

テントの中からは、キャーキャー楽しそうな声が聞こえて来る……のぞきたい……

だが、俺は紳士だ。のぞきたいと思うだけで実行に移すことはない。


「「「おまたせ♡」」」


期待を裏切らない……それどころか、予想の遥か上を行くナイスバデー。

白く透き通った肌、出るべき所は理想的な曲線を描き、絞られるべき所はしっかり絞られている。

完全なる”美”の概念そのものが、水着を着てウロウロしている様だ。


「グルナ!大丈夫か?!鼻血出てるぞ!!」

「あぁ、少々けしからんがベリーグッドだ」

(……だんな様、答えになってない)


俺は紳士だ。

しかしだ、いくら紳士と言えども、止むを得ない状況に遭遇する事だってあるだろう。

今回は、それを意図的に再現しようと思う。


「よーし!誰が一番上手に波を受け止められるか勝負しよう!!」

「「「負けないわ!!」」」


奇しくも3人の水着は、紐を結んで固定する脆弱なタイプ。

俺の予想では、少し強めの波の力と彼女達の弾力溢れる2つの果実の押し出し力に、脆弱な紐の結び目は耐えられる筈もなく、文字通り一瞬にして崩壊するだろう。

そう予想したのだ!!


4人1列に並び、最高のビッグウェーブを待つ。


よし来い……


よし来い!


よし来いっっ!!


俺はビッグウェーブ来い!!と祈り続けた。

しかし、祈り虚しく、波よりも先に邪魔者が現れてしまう。


亀だ。


「グルナ!でっかい亀が流されてるぞ!」

「旦那様!これ魔物じゃないわ!普通の亀だよ!」

「…………」


亀の登場で、勝負は流れてしまったのだ。


さようなら……崩壊する結び目。

さようなら……ポロリ。


この結末は、俺の歪んだ心のせいだろうか……

仮に、そうだったとしても……


赦すまじ……


コイツだけは、断じて赦すまじ!!


「おい……亀てめぇ……スッポン鍋にしてやるよっ!!」

「!!?だんな様!亀嫌いだったの!!?」


迸る闘気を纏い、大人気なく亀に襲い掛かる俺。

神の金属さえも大破(クラッシュ)する必殺の一撃。最早、亀に待っているのはスッポン鍋の具材になる運命かと思われた刹那、背後から老人の声が響いた。


「お若いの、亀をイジメたらいかんよ」


暴力の化身と化した俺を止めに入る老人……

射貫く様に此方を見据える眼光、脱力が効いた重心を読ませない立ち姿。

どうやら、ただの年寄りでは無い様だ。


欲求不満の鬼と化した魔王を静止させる1人の老人。

その正体は果たして……。

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