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第89話 海の魔物を討伐せよ! 後編

地上世界でアリスが暴れまわっていた頃、魔王城では幹部を集め、会合が行われていた。


何の会合か簡単に言うと、今後の事だ。

昨日の夜、早目に伝えておいた方がいいとリリアに急かされ、幹部を集めたのだが……


子供達は試練をクリアすべく頑張っている訳だが、目的は自身の成長と次期王として相応しいと認めてもらう為にも、実績があるとスムーズだろうと思ったからなのだ。

俺は、試練が終わり、暫くしたら王位を継承して隠居しようと思っている訳だが、幹部達には伝えていなかった。

俺の引退は相当先か、寿命も無いし永久に魔王として君臨するものと思われているかも知れない。

しかし、自由気ままに過ごしてみたい俺は隠居する気満々なのである。


「近い将来、王位継承を行うつもりだ」

「「!!?」」

「次期魔王を支えていくお前達には、早目に伝えておかなくてはならないと思った次第だ。

王子と王女は、試練の最中であり、今のところ順調にクリアして行ってはいる……

しかし、クリアして行き、見事事を成し遂げたとして、すぐに王座に君臨できる訳ではない」

「更なる試練を課すおつもりですか?」

「以前、邪神と戦った時に言ったことを忘れたか?」


”サタナス国は、魔界において最強でなくてはならない”


「総合力で最強なのは勿論だ。

しかし、それだけでは足りない。

王族だろうが平民だろうが関係ない、最も強き者が王となるべきと考えている」

「!!?……強ければ良いと?」

「ククッ…では、最重要は人格か?それとも人望か?


……バカ、強けりゃいいんだよ。


別に、お前達の中から王が誕生するなんて事も有り得ない話じゃないぞ?

お咎め無しだ……下克上したらいい」


騒めく幹部達。


名乗りを挙げるも良し、異を唱えるも良し、忠誠誓い仕えるも良し。

腕に覚えがあれば、有りと有らゆる選択肢がテーブルに並ぶ。

しかし、そこに至るハードルは高い。

魔界最強を自負するサタナス国の軍事力、それに対し単騎で対等か……若しくは捩じ伏せるだけの圧倒的暴力。


場が静まり返った時、衛兵が部屋に飛び込んで来た。


「幻獣界より、竜神族の使者がお見えです」

「すぐ行く。お前達、話は以上だ」


応接室に行くと、幻獣の若者と竜神族の幹部だろう老人が1人。

何処と無く落ち着かない様子の2人は、俺が部屋に入るなり、床に頭を擦り付けんばかりの土下座をし謝罪したのだ。


「率直に申し上げます!何卒!幻獣界への進軍をお止め頂きたく参上致しました!」

「は?……進軍!!?」



…………………………………………………



遡る事、2時間前。


俺は、リリアの様子に違和感を感じていた。


「だんな様、今日は何故か凄く喫茶店でお茶がしたいのです//」

「ん?う、うん行こうか」


喫茶店に入ると、子供達の試練の話になり……


「だんな様!幹部達に心の準備をさせないといけませんね!!」

「え?う、うん……?」

「だんな様!早速、皆を集めましょう!」

「え?今から?」

「もちろん!だんな様、善は急げですよ!!」

「えーーまた今度で良くない?」

「ダメよーダメダメ!!」


グイグイ来る……

今日のリリアは、押しが強い……

しかし、日頃控え目なリリアだ、地味に新鮮さがあり可愛さが更に増してみえた。


そして、言われるがままに喫茶店へ行き、幹部達を集めて、今しなくても良い話をし、今に至る訳だ。

今日のリリアの行動は、アリスがリヴァイアサンを始末するまでの時間稼ぎだったのだろう。


「我らが王リヴァイアサンが、アリス女王に大変な御無礼を働いた訳ではございますが……何とか平に………………」

「……………」


ダメだ。何か必死で喋っているが全然話が入って来ねぇ……


進軍?


賠償?


「幻獣界には、グルナ陛下の流通させている貨幣はございませんので、純度99.9%以上のの金塊を100t、それに王家の秘宝とリヴァイアサンの鱗、フェニックスの羽を各100枚ずつ……」

「……………」


金塊?


幻獣界の秘宝?


鱗と羽?


「ちょっと待って。リヴァイアサンがアリスに何をしたのか教えてく……いや、ちょっと確認させてくれ!ムーーック!!」

「何なにー?どうしたのー?」

「今日行われた試練の様子がみたい。記録出来てるか?」

「ばっちり撮れてるよー」

「……あっ!夕食の買い物いかなくっちゃ!だんな様、私買い物行ってきまーす」

「リリア、今日は外食にしよう」

「………」


映像には奇妙な光景が映っていた。

フライパンを持ち、海辺に整列している従者達。

砂浜に横たわり、意識を失っているであろう子供達。

沖では、リヴァイアサンとバハムートが超獣大戦を……いや、どうやらバハムートが一方的に暴行を加えている様だ。


逃げようとするも、超規格外の握力に捕らえられ為す術もないリヴァイアサン。

泣きながら怒鳴りつけるバハムート……

そして、バハムートの背後に巨大な障壁が展開した。

恐らく、これから放つであろう破壊の咆哮、その反動を吸収する為だけのモノだ。


”糞蛇!!貴様が本体じゃないのは知っているぞ!!首を洗って待っているがいい!!

幻獣界に宣戦布告じゃぁぁぁ!!泣”


放たれた未知のエネルギー波は、槍の様に硬直し宙を舞っていたリヴァイアサンをいとも簡単に蒸発させ、延長線上の星々を6個程破壊し消失した。


「…………大至急アリスを呼ぶんだ」

「呼んで来ますー」


もう1つの問題は、リヴァイアサンだ。

何故、使者を派遣したのか……間違いなく此方に非がある案件なのに下手に出る理由が分からない。


「リヴァイアサンは?今どんな感じだ?」

「……まるで灰の様に白くなり、話けても反応がありません」

(試合終了後のあ〇たのジョーかよ……心が折れたって感じだろうか?)


「だ、旦那様?何?どうしたの?」

「アリス、話がある。ちょっと座りなさい。リリアもだ」

「…………」


明らかに沈んだ顔のアリスとリリア。

一応、罪の意識はあるのだろう。席に着くも、借りてきた猫の様に大人しくなり、下を向いたまま動かなくなってしまった。


「アリス、何故乱入したんだ?あれは子供達の試練なのは知ってるだろ?」

「旦那様!違うの!!リヴァイアサンはやり過ぎる癖があるの!!だから私は、子供達の安全の為にリヴァイアサンを調教してたの!!」

(リヴァイアサンを調教ってなんだよ……)


「調教ってのは泣きながら行うのが普通なのか?」

「…………」

「子供達の安全の為に行った調教で、リヴァイアサンを跡形もなく消滅させる必要があったのか?」

「…………」


沈黙するアリス。

今後、同じ様な事件を起こさない為にもキツめ言わなくてはならないだろう。


「黙っていても分からないぞ!

もういい!!

話したくなければ黙っていろ!!もう(当分の間)口聞かない!!」

「!!?違うの!旦那様ちがうの!!」

「何が違うんだ!折角、みんなで旅行に行こうと思って連休取ったけど、行くの止める!!(でも、休み取っちゃったから最終的には行く事になるんだが!!)」

「……私は……」


今にも涙が零れそうなアリスは、とても孅い声で話始めた。


「私は……私達は……」

「……?」

「旦那様に水着を披露したかっただけだもん!!

折角のチャンスを潰したのはリヴァイアサンだもん!!私は悪くないもん!!うわーん」

「…………」


号泣するアリスとリリア……

子供の様に声を出して泣く2人を見て、俺は怒る気力を失ってしまった。

と言うか、真実を目の当たりにして頭を抱える使者2名が目の前にいる状況に、俺まで泣きそうだ。


「アリス、リリア幻獣界に行こう」

「!!?何しに行くの!?」

「謝罪だよ!!謝罪!!コッチが悪いから謝りに行くの!オケ!?」

「嫌!絶対に謝りたくない!!私達は悪くないもん!!」

「じゃあいいよ、1人で行ってくるから」

「「…………行く」」

「…………」

(行くのかよ……)


リヴァイアサンの城では、家臣達が総出で灰の様になったリヴァイアサンの蘇生が行われていた。

何とも痛ましい光景だ。


「リヴァイアサン……今回の件はすまなかった。

この責任は俺にある。一時的な感情とは言え王妃の発言だ、謝って済むものでは無い事は良く分か……」

「グルナ様!私は今回の件を不問として頂けるなら他には何も望みません!!」


リヴァイアサンは突然活動をし始めるや、痴漢の冤罪で警察署に連行される直前のサラリーマンの様に訴えてきた。

その必死な様子は、植え付けられたトラウマの大きさを物語っている訳だ。


「いや……そういう訳には……」

「いえ、枕を高くして寝られるなら……それ以上の幸せはありませんから……」


兎に角、リヴァイアサンに安心してもらいたいと思った俺は、後に立つアリスの方を見た。

アリスが一言謝罪するだけで、リヴァイアサンは救われるのだ。

だがそこには、ゴミを見る様な目で、必死で許しを乞うリヴァイアサンを見下ろす妻アリスの姿があったのだ。


「ごめんね、もう怒ってないから安心して……泣き虫リヴァイアサン 」クスッ


また、灰のように白くなり動かなくなったリヴァイアサン。

彼が、以前の様に元気になるまでに数ヶ月の時間を要した。


帰り道、ベレトから子供達が王の間で待っていると連絡があった。

俺は、試練を邪魔されて怒っているだろうと察したが、アリスは子供達に会えると大喜びだ。


「みんな、おかえり//今日は久しぶりに家族水入らずで夕食ね//」

「母さん!おかえり//じゃねぇだろ!!」

「え!?オリオンちゃん反抗期?かわいい//」

「……よくも人の茶碗に手ぇ突っ込んでくれたな!!」

「……う、うわーん!!オリオンちゃんが怒ってるー」

「……そりゃ怒るだろ……」

(オリオン……お前の言う通りだ)


俺から怒られ、子供達からも怒られ……

アリスは泣きながら城を飛び出し、暫く消息不明になったのであった。


海の魔物の討伐……延期。

力不足を自覚した子供達は武者修行へと旅立ち、アリスは消息不明になってしまった。

それだけではなく、アリスが城を飛び出した翌日から、他の王妃の様子がおかしくなったのだ。

魔王は平穏を取り戻すべく、計画していた”旅行”を実行に移すのだが……

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