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第88話 海の魔物を討伐せよ!中編

ヘルモス王国


「刹那様!実は…」

「……デアシア、事情はアリスから聞いています」


事前に連絡も無く、突然ディオニスの好物と作り方を教わりに来たデアシアを刹那は何も言わず調理場へ案内した。


「私の事は……刹那ではなく、お母さんと呼びなさい」

「……えっ!?…はい……?」

「料理自体は簡単です。大事なのは……」

「……ゴクリ」


ネモフィラ連邦国


「ディーテ様ー!ラクレス様の好物のレシピを伝授してください!!」

「うん、アリスから聞いてるぞ。

簡単だから直ぐに作れるけど、大事なのは……」


サタナス国


「セレネ、ムックちゃん。簡単だから安心して。

大事なのは……」


「「大事なのは”(魔力)”よ!!」」

(魔力)!?」


そして、従者達が見せられた共通の調理道具、それはフライパンであった。

一見、普通のフライパンに見えなくもない。

しかし、我が子の喜ぶ顔を想像し、己の生命力とも言うべき魔力を注ぎ込まれたフライパン。

それは最早、最上級の魔道具。


「このフライパンを持って行きなさい!!そして、”(魔力)”を込めて作るのです!!」


重い……なんと重いフライパンなのか……

可能態干渉術式(デュナミス)”を使い、手っ取り早く海蛇を始末しようとしていた自分を恥じる従者達。

受け継がれた究極の魔道具(フライパン)を手に、主の元へ戻って行く。


レシピを習得した従者達を送り出した王妃達は、サタナス城に集まっていた。


「アリス、大丈夫なのか?」

「大丈夫、上手くやるわ。絶対許さないんだから!」

「もし、だんな様にバレてしまったら……でも楽しみ//」

「オルフェたんも近いから見に行くって言ってたよ//」


………………………………


翌日。


受け継がれたフライパンで料理を作る従者達。

プティア王国へ戻る道中は勿論、料理を作る直前まで魔力を注ぎ続けていたなど言うまでもない。

出来上がった料理は、オムライス。

大喜びで食べる子供達。

(すごく美味しいけど、何でオムライスなんだろう?)


子供達の好物は、オムライスではない。

しかし、疑問に思いつつもガッつく主の微笑ましい姿は、全員の好物が被っているという違和感を限界まで薄めていたのだ。

食事が終わり、一刻程過ぎた。


「みんな、準備は良いかい?」

「「はーい!!」」

(従者達は動かないね……まぁいいか)


従者達の表情は満足感に溢れていた。

やれる事は全てやった……後は、勝利を祈り、主の戦いを見守るのみ。

奇しくも同じ気持ちを共有していた従者達は、それがアリスとリリアの思考操作であるなど気付く余地は無い。


リヴァイアサンが海に飛び込んだ直後、眩い光が発生し、巨大な海竜が出現する。

人化を解いたリヴァイアサン、真の姿である。


「………!!!?」

「これが幻獣王!!?」


身体能力を制限しても尚、歯向かう気概を無くさせる威容。

神々しい姿から滲み出る、凶暴性と高圧的なオーラは、神も恐れをなすだろう。

しかし、子供達はその懐に飛び込み、必殺の一撃を見舞った。

心地よい手首の痺れ……小手調べなど烏滸がましいとばかりに放った攻撃は、如何に強靭な鱗であろうと耐えられるものでは無い。


筈だった。


”効いてない……”


ドラゴンのブレスを纏わせた、オリオンのメイス。

そして、神の能力で顕現させた”紅き煉獄の鎌”によるディオニスの斬撃は、鱗に僅かな焦げ目を付けたが、ラクレスとクロエの斬撃は擦り傷程度も傷を付ける事が出来なかったのだ。


「言ってなかったね。私の鱗は物理・魔法無効なんだ//」

「えっーー!!?」

「特定のスキル以外じゃ傷1つ付ける事は出来ないよ?どうしたものだろうね//」


物魔無効という反則的な防御。

オリオンとディオニスの攻撃は、ドラゴンと神の固有スキルで無効化されなかったものの、余りにも浅すぎる。

(魔王様の雷霆クラスなら即死だろうけど、この子達は発展途上……30%でもやり過ぎだったかな?)


攻撃を開始したリヴァイアサン。

海の魔獣を中心に、巨大な渦が発生し引き寄せられていく主達。

勿論、ただ引き寄せられている訳では無い。

漂流物やリヴァイアサンが撒き散らした魔力弾が至る所に浮遊しているのだ。

魔力弾単体は威力が弱いが、荒波に揉まれている状態だ。接触してしまえば上下の感覚さえも失い、戦闘どころではなくなるだろう。

攻撃する手段も見付けられず、ただ為す術もなく引き寄せられていく主を見守る従者の手に自然と力が入る。


第一段階(神竜の加護)”発動。


従者達は証言する。

”いつの間にか、フライパンを握っていたのです”


従者の発する、もどかしさと、切なさと、心細さはフライパンに仕組まれていた保護術式の引き金トリガーだったのだ。

フライパンのグリップに仕込まれた神竜バハムートの鱗。ソレから抽出された最上位ドラゴンのエネルギーは対象に驚異的な能力上昇と神竜の能力、その片鱗を纏わせる。


「なんだ!?力が溢れてくる!?」

「これって、もしかしてオムライス効果!?」


流れに逆らう事も出来ず、ただ周囲を取り巻く障害物を破壊するのが精一杯だった4人は、異様な感覚を体験していたと言う。


”……時間が止まってるみたいだ”


先程まで、躱すことも出来ず必死に破壊するしか出来なかった魔力弾や漂流物が止まって見える。

感覚は研ぎ澄まされ、360度全ての脅威が手に取るように分かったのだ。


”負ける気がしない”


まるで鯱の様に、渦の中心へ加速。

4人の攻撃は、再度リヴァイアサンを捉えた。


物理、魔法無効。

そして、反則的な強度を誇るリヴァイアサンの鱗を砕き、切り裂く一撃。

(くっ……傷を付けられるなんて……)


「すごい!ダメージが通った!//」

「クロエ様がんばってー!」


従者達も大喜びだ。

リヴァイアサンの巨体にしがみつき、更なる一撃を見舞う4人。

小回りの効かない巨体は、余りにも不利に見えたが、リヴァイアサンが動じる事は無い。

突如、全方位に対し放たれた鱗は、初速から音速を超える。

(今日はお終いかな?治療は責任を持ってするからね//)


「……全然効かねぇ」

「手加減してくれてるのかしら?」

「!!?馬鹿な!!手足が千切れてもおかしくない威力だったはず!!」


リヴァイアサンは目を見開いた。

手足が千切れるどころか、擦り傷程度の傷しか負っていないのだ。

(先程の攻撃もだが、この防御力も……まるで上位幻獣じゃないか!!……ん?上位?まさかっ!!)


”……絶対にヤバイ!!

早く終わらせて今日はお開きにしないと不味い!!”

(みんな、ごめんっ!!)


一抹の不安が脳裏をよぎったリヴァイアサンは巨体を捻り、4人を巻き込むと海底へと引きずり込んだのだ。

狙いは”窒息”である。

可愛い弟子である子供達には申し訳ないが、リヴァイアサンは確信していた。

4人の驚異的な身体能力上昇は”あの御方”の仕業だと。

(4人の意識が途絶えた瞬間に、地上に転移させる。それで今日は終わり。即退散しよう)


(ダメ……呼吸が……)


第二段階(神竜の逆鱗)”発動。


巨体に挟み込まれ、身動き出来ない子供達の意識は遠のき、遂に途絶えてしまった。


その頃、地上では従者達の身に異変が起こっていた。


”貴様等……さっさと詠唱せよ……”


地下深くから響く、地鳴りの様な恐ろしい声。

そして、自分の意思とは無関係に動く体。

後に、従者達は語る。


「頭の中に魔法文字が浮かんできて……それを一語一句違える事無く詠唱させられたのです。逆らうことなんて出来ませんよ……

え?あー、仰る通りです。

手には、勿論フライパンを持っていました。

いえ……持たされていたのかも知れません」


意識を失った4人が地上に転移して来た時、青い空は、何かによって遮られていた。

数kmに及ぶ翼、山より巨大な体躯。

神竜バハムート本体降臨である。


「転移させるなんて気が利くじゃないか、幻獣王リヴァイアサン……」

「えっ?」

「あの子達が近くに居たら始められないからね……」

「えっ?ちょっ……」

「……お掃除(海蛇狩り)がっ!!」


転移し逃走しようとしたリヴァイアサンの尾を鷲掴みし、海面へ叩き付けるバハムート。

全長数百m有ろうかというリヴァイアサンを、音速を超えるスピードで叩き付けたのだ。


「えぇ、打ち付けられた瞬間、死んだと思いました。

私の動体視力でも把握出来ない程のスピードだったんです。光速に近かったんじゃないですかね?

身体中の血液が頭部に集中して、視界が赤く染まりましたから」


果たして、100mの高さから水面へ落下した人間は、どの程度の確率で生還するだろうか?

恐らく、100人中15人も生還しないだろう。

水の緩衝材としての性能など人間サイズでそれなのだ。

リヴァイアサンのサイズなら、水は緩衝材の役目は果たさないだろう。

しかも、落下速度は音速以上。

リヴァイアサンを叩き付ける殆ど無限とも思える握力と腕力の余波は、水平線の彼方まで海を割っていたという。


「ア、アリス様!お待ちください!!

これは魔王様がご子息に課した試練なのです!!負傷する事はあっても死ぬ事はありません!!」

「……答えろ。貴様は私の許可を取ったのか?泣」

「……え?許可?」


リヴァイアサンの思考は停止していた。

そもそも、自分は頼まれたから引き受けたのであって、志願した訳では無いから当然である。


「クネクネするなっっ!!貴様はぁっ!!あの子達の”人生初”の水中戦!!その相手を務めても良いかと!!先代の王であり!あの子達の親である私に御伺いを立てたのかと聞いているのだぁっ!!!泣」

「き、聞いていませんでした……すいませんホントすいません!!」

「その通りだっ!!私は聞かれていないぞっ!!報連相を徹底しろっ!!」


万能環境保護術式(セレネ)”発動!!”


地形を保護する様に、広範囲に無理矢理展開させられる絶対防御結界(アイギス)




貴様は……私の計画の邪魔をした……


子供達の戦闘訓練と言う名目で、2、3日だが地上世界のビーチでバカンスを楽しむ。


夜の長い魔界のビーチは、バカンスには適さない。

ディーテは、旦那様とビーチ行ったことがあると言っていたが結婚前の話だ。

結婚してからは、忙しく行けていないらしい。


極めつけは、昨年の初夏の出来事。


「アリス、リリア。今度子供達と地上世界の海に行かないか?」

「「……行く。」」

「ん?海は嫌?じゃあ他の所にしよっか?」

「「…………」」



旦那様は、私達の水着姿が見たいに違い無い。

事実、魔界の妻2名は旦那様に水着姿を披露した事がないのだ。


何故って?


何か恥ずかしいからに決まってるだろうが!!


旦那様は、水着姿が見たいに決まってる。

結婚する前から考えると、通算何年間我慢させているだろうか。

優しい旦那様は、私達が嫌がる事を強制させたりはしない。しかし、そろそろ限界……爆発寸前だろう。


でも……恥ずかしいのだっ!!

このままでは旦那様に愛想を尽かされるかも知れないけど…恥ずかしいのだ……


そう、その羞恥心を克服する為の切っ掛けと、旦那様へのサプライズ、そしてみんなで連休を取る為に、子供達に水中戦の訓練をさせると言う口実が必要だった。


だが、リヴァイアサン……貴様がしゃしゃり出て来たおかげで、私の計画と密林で買った皆の水着が海の藻屑と化したのだぞ……


リヴァイアサンと水中戦をした→リヴァイアサン以上の脅威は存在しない→水中戦の経験値は十分→みんなで海に行く口実を失う。となる


分かっているのかっ!!糞蛇がっっ!!!(泣)



有り得ないほどに高密度に圧縮される魔力。

直後、地上世界は眩い光と無音音包まれた。

バハムートによるリヴァイアサン虐殺残酷物語事件が進行する中、魔王はリリアの提案でどうでもいい会合を行っていた。

その会合の最中、魔王の元を幻獣界から竜神族の使者が訪ねて来た事によって、今回の事件が発覚するのだが事態は収拾する事なく、更に悪化の一途を辿っていく事に……

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