第86話 魔王にキノコを献上せよ!
子供達は各々の従者を従え、魔王パーシスの国、ドワーフ達の暮らすカタフィギス国に向かっていた。
ぞろぞろと一個分隊程の人数で移動しているというのも有るが、森の国の幹部……そして、魔王軍の兵士が一緒に行動しているのだ、目立って仕方無い。
ムック以外は、アリスが”従者と言ったらコレ!!”と用意したメイド服を装備しているが、此方の世界では馴染みがないのが唯一の救いだ。
城に着くと、家臣達に出迎えられ王の間へ案内された。
「「こんにちは!!」」
「みんな、よく来たな!」
パーシスは、眉をひそめた。
……これ、良いのか?
魔王グルナから、何かお題をくれと言われ、何気無しにキノコの盗掘調査を依頼したのだが、来た面子に驚いた。
人間の国相手なら、5分以内に首都を占領……否、跡形もなく破壊出来る程の戦力ではないか……
若干申し訳なさを感じるが、早速内容の説明に入る。
カタフィギス国の森には、希少な固有種”カタ茸”が自生している。森の宝石と呼ばれる程に高価なキノコは、当たり前の様に盗掘の被害に会い続けていた訳だが、過去10年ほどは収穫量そのものが減少し続け、遂に専門家チームでさえも1シーズンで10数本採れるかどうかの状態らしい。
その”カタ茸”を採取し、城に輸送中だった部隊が消息を断つという事件が、遂に起こってしまった。
「まぁ、そんな訳で違法に採取している者が居ると思われる。しかも、輸送部隊は一般の兵士とはいえ10数人だ、それを壊滅させる程の戦力は持っている。気を付けてほしい」
「今年は、後2週間ぐらいでシーズン終わっちゃう。何としても手に入れて来て欲しいんだ。入手出来たら、みんなにも美味しいキノコ料理を振る舞うよ♪」
報酬は、幻獣ニーズヘッグの手料理……
是非、食べてみたい。
しかも、後2週間程でシーズンオフ。もし発見出来なければ来年まで待つ羽目になる。
最早見つけるしかないのだ。
キノコは、森の奥深くに天然記念物に指定されている木が有り、その木の幹で稀に生育していているらしい。
まさに”木の子”な訳だ。
森を進む事1日、漸くお目当ての木が生えているエリアに到着した。
しかし、流石は幻のキノコ。見渡す限りソレらしい物は無い。
「手分けして探すか。集合時間は18時、問題が発生したら念話で連絡を取ろう」
その後、1週間近く森の中を彷徨ったが収穫は無かった。
…………………………………………
一方、魔界では。
「旦那様?子供達は何時帰って来るの?」
「早ければ来年には帰って来ると思うが……何で?」
「暇?……」
「…………」
(何で疑問形なんだ?)
俺は、お忍びで各地を巡る旅行を計画する事にした。
魔界を留守にするのを知られると、また馬鹿が攻めて来るかも知れないし、訪問する国々は滞在中、最高レベルの警備を敷き大騒ぎになるのだ。
なので、今回は旅人風に自由気ままな旅を楽しみたい。
子供達が旅立ち、俺が計画を立てている事など知らず、暇を持て余していた妻達は通販にハマっていた。
パズズが始めた”密林”というサービスだ。
会員になると魔法の紙が送られて来て、その魔法の紙に念じると欲しい商品が検索され、在れば画像と値段が表示され、無ければ類似品が表示される。
新商品はトップに表示され、日々更新されている。
便利だ。
パズズの会社なのでブラックになる可能性がある。
最低賃金と配送料金の上限、割引率について注文を付けた。
魔界の王として、無法地帯を認める訳にはいかないのだ。
地上世界の商品はサタナス国しか輸入出来ないのでパズズは言う事を聞かざるを得ない。
それもあって、今のところは大きな問題も無く運営している様だ。
「だんな様!見て!アルトミア様の国の新作お菓子がもう買えますよ!」
「マジか!?……3日前に販売始まったばかりだよな?」
週に1度、ファムが商談に来るのだが、商品化が決まっただけで、世に出ていない商品の情報も大量に持って来る。
なので、異世界だがタイムラグは殆ど無いのだ。
「旦那様!赤ムック貯金箱売ってるよ!?財産権侵害されてない!?」
「……王家関連の意匠その他は押えてあるけど、ムックの意匠権は一部の企業にはオープンにしてるんだ」
まぁ、こんな感じで監視をしつつ、最新のスイーツ等を取り寄せ楽しんでいる。
そんなある日、送られてきた商品にクーポン券が付いていたのだ。
「旦那様!地上世界のネイルサロン50%offクーポン付いてる!リリアと行ってもいい?」
「う、うん。行っておいで」
早速、広告を添付する企業が現れた様だ。
世の中の変化の速さを実感した訳だが、同時にパズズの懐に幾ら金が流れたのかも気になったが、暫く泳がそうと思う。
どうでもいい話だが、ドラゴンは貯金が好きなのだ。竜王アリスの影響を受けてリリアも貯金をしている。
2人は、自分の運営する会社の報酬のみで遣り繰りしていて、公務以外で公金は一切使っていない。
素晴らしい妻達なのだ。
………………………………………
キノコ探し9日目。
「やべぇな……マジで見当たらない」
「シーズン終わってしまったのでしょうか」
「諦めるには早すぎるよ。探そう!」
出発しようとした一行を、デアシアが制止した。
遠くに邪悪な魔力反応を探知したのだ。
かなり抑えているが、デアシアの見立てでは、それは神に匹敵する質感だった。
「皆様、私とムック様が偵察して参ります。対象の魔力は普通ではありませんので」
「デアシア、交戦してはいけませんよ?」
「……誓って//」
極小の分裂体ムックと、気配を断ったデアシアは、反応のあった地点を目指した。
到着したデアシアは目を疑った。
(世界を渡れるとは聞いていたが……)
森の中を徘徊するドラゴン……そこに居たのは、邪龍アジ・ダハーカだったのだ。
邪神が攻めてきた時、魔王グルナに天界に送られて半殺しにされて帰って来たドラゴンだが、デアシアの手に負える相手では無い。
暫く様子を伺っていると、アジ・ダハーカが手に何か持っているのに気が付いた。
捜索中のキノコである。
(ディオニス様、アジ・ダハーカを発見しました。我々の探しているキノコを持っています。しかも、1kgはありそうな上物です)
((監視を続けてください))
暫く徘徊したアジ・ダハーカは、キノコを手に何処かへ飛び立ってしまう。
(アジ・ダハーカが移動します。
ムック様が接触に成功しましたので追跡可能です)
(デアシア、後を追おう!)
アジ・ダハーカの向かった先は、北の連邦国。
首都ではなく、南部の小さな村だ。
「あ!アラン君……//」
「ルーナちゃん久しぶり//」
人化したアジ・ダハーカは、アランと名乗り人間の女の子と良い雰囲気だ。
そんな、仲睦まじい2人を彼らが放っておく訳がなかった。
「よぉ……アラン君。探したぜ」
「お前達は!!!!??」
アジ・ダハーカを取り囲むオリオン、ラクレス、ディオニス。
その表情は”カタギ”のソレでは無かった。
アジ・ダハーカの肩に手を回し、オリオンが語りかける。
(分かってると思うが、俺達はメリットの無い奴には容赦しねぇ。
お前の行動次第で、俺達は神にも鬼畜にもなる)
((くっ……クズ共がっ!!))
(今の俺達にとって、最大のメリットはテメェのくすねたキノコだ。
意味は分かるな?拒めば、有り得ねぇ事が起こるぜ?)
見ると、ルーナという少女の横には、ニンマリと微笑むクロエ。
((お前達……あの子に手を出したら最後……後悔する事になるぞ……))
(後悔?どうだろうな……。
あの子に引かれるだけで済んだらいいけどなぁ
魔界でも、邪神界でも晒し者にされちゃうかもなぁ……
まさか、天下のアジ・ダハーカ様が人間の小娘に……クックッ)
((!!?))
(良いのか?どの面下げて歩くつもりだ?まぁ、テメェの事なんてどうでもいいけど……あの子が可哀想だなーーー!!)
((あの子には手を出すな!!))
(それはテメェ次第だ。俺達にとって、今、最大のメリットはキノコだ。
俺達は、お前の行動次第で神にも鬼畜にもなる。何度も言わせんなよ)
((……頼む、キノコは譲る。だから穏便に済ませてくれ))
(なかなか物分りが良いじゃねぇか)
そして、大天使オリオンが北の連邦国に降臨した。
「君がルーナちゃんかい?アランから聞いてるよ。俺達はアランとパーティ組んでる冒険者なんだけど、アランが君に会いた過ぎて依頼を途中で投げ出す事があるんだ。今回みたいにね」
「えっ、私に会いた過ぎて?そんな事、一言も……//」
「アランは、”超”が付く程のシャイボーイだからね。君を前にすると伝えたい事の半分も伝えられないって嘆いてたよ。でも、彼なりにかなり頑張ってると思う」
遠くで赤面するアジ・ダハーカ。
その心は、色んな意味で穏やかではない、何時オリオンが余計な事を吹き込むか分からない上に、遠くに巨大な魔力反応が複数有る事にも気付いていた。
神に匹敵する魔力が3つ……
あえて殺気を放っている者が2名……神には及ばないものの、かなりの手練だ。
更に周囲には上位精霊の反応が数百……
あの犬型だろう。
そして、目の前にいるガキ共……並の人間程度に魔力を抑えてはいるが……潜在能力は未知数、突然変異か何かか?
「私も冒険者になれるかな?
実は、少し憧れてて……外の世界も見てみたいの」
「それは、オススメ出来ないな。冒険者や騎士達が治安維持しているから村は平和だけど、外に出れば凶暴なドラゴンや知性の無い魔物が沢山居るんだ」
((おい!オリオン!ドラゴンの印象を悪くするなっ!!))
(……っせぇな。大丈夫だ。黙ってろ)
「……凶暴なドラゴン。確かに少し怖いかも」
((大丈夫じゃなかっただろうが!言わんこっちゃない!!))
「でも、それは下位のドラゴンなんでしょ?
魔界の王妃様は最上位のドラゴンだって聞いたわ。とても美しい人間の姿で生活してるんでしょ?ドラゴンの姿も神秘的で、とても美しいって聞いたわ」
(おい、上位ドラ。どうよ?上位ドラは好印象だぞ)
((……だが、俺は邪龍なのだ。お前の母、アリス様とは違うのだ))
「上位のドラゴンは、人語も話すしね。会ってみたい?」
「えっ?」
((おい、まさか俺に龍化しろと言うのではなかろうな?))
(この場に、お前以外のドラが居るか?俺は竜神族だけど竜化出来ねぇぞ?)
「会えるの!?会いたい!//」
「よし!ドラゴンの住処に行ってみよう!」
((…………))
アジ・ダハーカは震えていた。
確かに、想いを伝える手段とタイミングを探ってはいたが、それは飽くまでも人間の姿である事が大前提だった。
邪龍であるアジ・ダハーカが目の前に現れて恐怖しない人間など存在しないのだ。
彼女の目の前で、ドラの姿を晒せば今まで積み上げて来たもの全てが無に帰すだろう。
(こういうのは早い方が良いんだ。隠し事は良くないと思うぜ?)
((お前は大馬鹿者か!?隠し事の1つや2つ誰にでも有るだろうがっ!!))
恐らく、龍化しろと迫られるだろう……しなければルーナが何をされるか分かったものでは無い……
拒むアジ・ダハーカだったが、ルーナはドラゴンに会えると聞き大喜びだ。
一瞬、立ち去ろうかと思ったが、包囲している何者かの魔力が爆発的に上昇していた。
逃げるにしても交戦するにしても龍化するしか無い。
最早詰んでいるのだ。
一行は、近くの森にある洞窟へ移動した。
周囲には、魔物の反応しか無く人の気配は無い。
「この洞窟に上位のドラゴンが居るんですか?」
「いや、洞窟には魔物しか居ない。今から会うドラゴンってのはアラン君の事だ」
「えっ?アラン君がドラゴン?意味分からないよ」
龍化を迫られるのではなかった。
自発的に龍化せざるを得ない状況を作り出されてしまったのだ。
押し黙るアジ・ダハーカだったが、数瞬の刻が過ぎ、頭の中で何かが弾けた。
極度のストレスと、何時かは伝えなくてはならない紛れも無い事実。
確かに、人間の寿命を考えると早く伝えるべきなのだ。
関係が終わってしまう恐怖と打ち明けたい事実……その葛藤の狭間でアジ・ダハーカの精神は崩壊し、ある結論に辿り着いた。
”もう、どっちに転んでもいい”
ルーナとの関係が終わったとしても、クソガキ共の支配も同時に終わる。
そして、受け入れてもらえたなら、キノコは失うがルーナとの関係は維持され、クソガキ共の支配は終わる。
どちらにしても解放されるのだ……
それで良いのか?と思う余裕は無かった。
ただ、冷たい汗が流れていた。
「ルーナちゃん、黙っててごめん」
覚悟を決め、人化を解くアジ・ダハーカ。
森の中に漆黒の邪龍が降臨し、周囲には膨大な魔力が溢れた。
「……!!?」
「ルーナちゃん、これがシャイボーイアラン君の真の姿だ」
驚きのあまり声が出ないルーナ。
小型化しているが、翼を広げれば30mはゆうに超える巨体だ。無理もない。
((オリオンよ、何かスッキリしたわ。
人間と龍の恋など所詮成立しないのだ。
お前の言う通り、遅かれ早かれ言うべきであった。それなら早くに言うべきだったのだ))
(泣くなよ、みっともねぇ)
「……綺麗な鱗」
「「……ん?」」
まるで夢を見るように、ぼーっと瞬きもせず見つめるルーナ。
その手は、アジ・ダハーカの鱗に触れていた。
「ルーナちゃん、怖くないのか?」
「……うん//」
(この子、龍フェチ?)
(だな……若しくは、アジ・ダハーカが変な魔法使ったかもだが……)
(オリオンよ、俺どうしたらいい!?)
指に抱きつき離れないルーナに、アジ・ダハーカは身動き取れないでいた。
(キノコをよこせ。そしたら次のステージに進めてやる)
(……頼む)
キノコを受け取り、アジ・ダハーカを人化させ村へ戻るオリオン。
しかし、実は困っていた。
アジ・ダハーカは意外と有名なドラゴンなのだ。
神話で語り継がれるドラゴンだが、内容が悪過ぎた。
苦痛、苦悩、死を撒き散らす意思を持つ天災、人類にとって災い以外の何者でもない。
(はて、どうしたものやら……)
((オリオンよ、どうするつもりだ?))
(ん?先ずは親御さんに挨拶だろ)
((マジか!!?))
(マジだ。今後の為にも、お前がドラだという事も言っといた方がいいだろう。途中でバレてエライ事になるのは目に見えてる。
だが、人化したままでは狂言だと思われて信じてもらえない……そもそも精神異常者扱いになる。
だからと言って、龍化したら心臓発作を起こしかねないだろう)
(では無理ではないか!人間で通すべきであろうが!!)
(大丈夫だ。奥の手を使おう)
ルーナの家に着いた一行は、アラン君をご両親に紹介する事になった。
「パパ、ママ。紹介したい人?が居るの!」
職業冒険者のアラン君を紹介されたルーナの両親。その表情は冴えない。
冒険者と結婚すると、何時未亡人になるか分からないからだ。
人化したアジ・ダハーカは駆け出しの冒険者にしか見えないので仕方無いのだが
「ルーナ、冒険者というのは危険な職業だ。アラン君が何時命を落とすか分からない。
ルーナの人生に、常に万が一の不安が付き纏うのはパパとママはとても辛いんだ」
「アラン君は大丈夫!すごく強いから!」
「ルーナ……」
俯く両親、その表情は暗い。
((オリオンよ!全然ダメではないかっ!!))
(ダメだな…ハハハ)
コンコン……
ノックする音が聴こえ、ルーナの母親は玄関へ向かった。
耐え難い沈黙に部屋は包まれ、最早これまでと思われた時、玄関から悲鳴が聞こえた。
「こんにちは、お邪魔するぞ?」
「貴方様はっ!!?」
玄関に立っていたのは、魔界の王の妻であり森の国の女王ディーテ。
そして、守護神セレネとネモフィラ連邦国軍総司令官カラ、そして幹部の1人エキドナであった。
平伏するルーナと両親。
「畏まらなくていいぞ?お墨付きだと言いに来ただけだからな」
「……と申しますと?」
「アラン君とか言ってるけど、コイツは人間に化けた邪龍アジ・ダハーカだ。娘が未亡人になる事は無いぞ?私が保証する」
その場に居た関係者は、未亡人どうのこうのじゃねぇだろ!!そう思った。
「邪龍アジ・ダハーカ!!?」
「そうそう、コイツは邪龍アジ・ダハーカ。アラン君、龍化しないと信じてもらえないな!家が吹き飛ぶから表に行くぞ!」
無理矢理アジ・ダハーカを表に連れ出し、龍化させるディーテ。
南部の小さな村の広場に、邪龍アジ・ダハーカが降臨する事となる。
放心状態の両親と村民達、神話のドラゴンを目の当たりにして動ける者は居ないのだ。
「……何度見ても綺麗な鱗」
うっとり眺めるルーナ。
「な?娘は未亡人にはならないぞ?」
「「…………」」
声を発するどころか、腰が抜けて立つことも出来ない両親に更なる悲劇が襲い掛かる。
最初に龍化した時の反応を探知していた北の連邦国軍本隊が到着した。
南部の小さな村に1万人近い兵士……
だけでは無く、皇帝オルガまで現場に現れたのだ。
「これはこれは。ディーテ女王お久しぶりです。何事かと思いましたよ」
「おー!オルガ!久しぶりだな!アジ・ダハーカが、この村の娘の両親に挨拶するって聞いて同席させてもらってたんだ」
皇帝の登場に、最早開いた口が塞がらない村民達。
「アジ・ダハーカよ。親である私に紹介しないつもりではなかろうな?
人間に邪神界滞在は負担が大きいので来てやったぞ」
「!!!?」
邪神アンラ・マンユの登場である。
村民達に伸し掛る重い魔力は”邪神”そのもの。疑う余地は無い。
「アンラ・マンユ、魔力抑えないとみんな怖がるぞ?」
「すまん。今か今かと待ち侘びていた日なので興奮してしまった」
「アンラ・マンユ様……いつからご存知だったのですか?」
「ん?最初からぞ。それはどうでも良い。お前は気持ちをご両親に伝えたのか?」
「……いえ、これからです」
”娘さんを私にください!必ず幸せにします!!”
その言葉に、子供達は違和感を感じていた。
(おい、アジ・ダハーカ。ちょっと早くないか?お前達付き合ってたのかよ。恋人未満友達以上だろ?バカじゃねぇの?)
((!!?))
「パパ、ママ!お願い!!」
ルーナの両親は頷き、意識を失ってしまったが、一同は晴れて認めてもらえたと解釈したのだった。
「アンラ・マンユ様、ディーテ様、これは国を挙げて祝わなくてなりませんな!」
「よし!ルーナ!アジ・ダハーカ!式の準備だ!」
「ふむ。では、引出物のカタログをもらいに魔界へ行ってくるとするか」
何故か張り切る3名。
その後、式の準備は滞りなく進んでいくのだった。
一方、キノコを手に入れた子供達は、面倒な事になりそうだと判断し、足早に魔王パーシスの元へ向かっていた。
「こんにちは!パーシス様、キノコ手に入れたよ!」
「おー!コレだ!間違いない!
……そういえば、盗掘している連中には遭遇しなかったか?」
「あ~……遭遇はしなかったです!」
「そうか!盗賊共も運がいいな!お前達と対峙したら”死”有るのみだもんな!ハッハッハッ!!」
「みんな、ありがとうね。
旬の味覚を一緒に楽しもう♡」
「あっ!私も一緒に作る!//」
メリアとクロエは食事の準備に向かった。
色々有ったが、何とか手に入れたキノコ。それを調理するのは、幻獣ニーズヘッグ。
待ち遠しい……
時間とは悪戯好きだ。
嫌な時や、待っている時は遅く流れ、楽しい時や焦って急いでいる時には早く流れてしまう。
2人が部屋を出てから1時間程が過ぎた。
しかし、体感はその数倍だ。
「お待たせ〜//」
「出来たよー!//」
初めての匂い……
しかし、良い香りだ。
グラタン。
メリア曰く、パーシス様の故郷の料理の1つらしい。
熱々のソースの中には、魔鳥のモモ肉とたっぷりのキノコ。
シャキシャキとした歯応えと独特の風味が癖になる。こんなにも美味しいキノコがこの世に有った事に衝撃を受けた。
そして、メリア特性のホワイトソースとの相性は抜群に良く、まさに足し算……いや、掛け算の如く互いを高め合っていた。
「……パーシス様、メリア様」
「「ん?」」
「来年も食べに来ていいですか?」
「勿論だとも!収穫する所から頼むぞ!!ハッハッハ」
見事、試練クリアである。
……………………………………………………
一方、北の連邦国南部の村では
例の一件から2ヶ月後、村の広場に建てられた神殿でアジ・ダハーカとルーナの結婚式が行われていた。
平民の娘と邪龍の結婚式。
しかし、村は異様な雰囲気に包まれていた。
”超”厳戒態勢だったのだ。
出席者は、地上世界の王族は勿論、神界・邪神界の神々、魔界の王族……
そして、ルーナの身内や友達等だ。
各国から精鋭部隊が派遣され、警備に当たるのだが、その人数は村の人口を大きく超える程の規模だったという。
「妾は最強魔王アルトミアぞ!!酒を持って来い!!ルーナとやらも持って来い!!!」
酔って暴れるアルトミアを抑えるリリアとアザゼル。
(アジちゃん……すごい人達と知り合いなんだね)
(いや、知らない人も大勢居るよ……)
(てか、クロエちゃん魔界の王女様じゃん!そう言うのは早く教えてよ!)
(…………。)
式の前後、凡そ1週間程。
各国の王族達が村に滞在した事で、とんでもない経済効果が有ったそうだ。
そして、村が邪龍アジ・ダハーカの拠点になった事により、周囲の魔物達は逃げ出し北の連邦国で最も安全な村として多くの者が移り住んだ。
邪龍アジ・ダハーカは、村人達にとって聖龍となり、神話とは全く違う別の顔が語り継がれるのだった。
めでたしめでたし。
無事にキノコを献上した子供達は、海の魔物を討伐する為にプティア王国の海岸に向かった。
海に魔物が居るのは知っているが、船が沈没させられる話など聞いたことも無い。
とんでもない新種の魔獣を想像し海岸を捜索する子供達の前に、見覚えのある人物が現れる。