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第84話 従者を見つけ契約せよ!前編

第9の試練は、単独クエスト。

各々が、信頼出来る従者を探す旅に出掛けて行った。

子供達は、何れは国王となる予定だ。

(そう勝手に思っている)

そんな時、信頼の置ける従者の存在は何者にも変え難い。

現在、子供達には直属の配下と呼べる者達は居ないので、選抜する事が出来ない状況だ。

なかなかに困るだろうと思い、試練に捩じ込んだ訳だ。

誰が、どんな従者を連れてくるのか非常に楽しみなのである。


子供達が旅立ってからというもの、今か今かと日々心待ちにしながら過ごしていた、ある日の夜。

遂に、動きがあったのだ。


「パパ、少し時間取ってくれない?」

「ん?クロエの為なら公務はパスするぞ?明日、喫茶店でも行くか?」

「行く!パパ大好き♡」


俺も大好きですとも。

娘と喫茶店に行く事になり、浮かれていたが……

俺の脳裏に、一抹の不安が過ぎった。

クロエも年頃の女の子だ。もしや彼氏(おとこ)ではあるまいな……と。


「旦那様?どうしたの?戦争?」

「だんな様、また変なのが現れたんですか?」

「いや、確定ではないんだ。しかし、現れる可能性は有る。今後の為に、息の根を止めなくてやらなくてはならん」

「「……?」」


専用武器と専用防具を装備し、街の喫茶店でクロエを待つ。

クロエは遅刻して来る様な子では無い。

予定より、2時間も早く喫茶店入りしてしまった俺が悪いのは百も承知だが……クロエが呼び出した理由が分かるまでの時間は、途方も無く長く、そして耐え難いものであった。

クロノスに時間の流れを遅くするなと八つ当たり的なクレームを入れつつ、待つ事2時間。

遂にクロエがやって来た。


「パパ、結構待った?」

「いや、今来たとこだ。で、要件は何なんだ?」

「……実はパパに相談……うーん、聞いて欲しい事があるの」

「……相談?聞いて欲しい事?」


相談。聞いて欲しい事。

俺の脳裏には、「デキ婚」という言葉が過ぎった。


許さん……


俺の大切な娘を傷物にするとは……断じて捨て置けん!!

死をもって償わせてやる。


喫茶店の空気は一変した。

まだ見ぬ愚か者へ対する殺意は、未だかつて無い程、俺の心を不安定にしたのだ。

身の危険を感じ、逃げ出す客達。

民の前で、何たる醜態……愚の骨頂ではないか!

そんな事は分かっている。

分かってはいるが、抑えきれる訳がない!!


「……クロエ。パパは、お前の気持ちを第一に考えてやりたいと思っている。これは本心だ。だが、大前提にそれが有ったとしても、相手にはそれ相応の報いを受けさせなくてはならない……そう思うのだ」

「……?」

「最愛の娘が傷物にされて、黙っている親が居ると思うか?

パパは悪者になっても、クロエに嫌われても構わない。それでも相手に罪の重さを自覚させるつもりだ」

「……それは何の話か分かんないけど、今日はパパに頼みがあるの!」

「え?」

「私に赤ムックの本体を譲って欲しいの!!//」

「ムック!!!!??」


真っ赤に染るクロエ頬……まるで秋の夕焼けと、見事に色付いた紅葉が織り成す束の間の奇跡の様に穢れなく美しい神秘的で純粋(ピュア)な表情は、俺の汚れきった心を清めた。


「私、ムックが大好きなの//

あのもふもふ……冬場の快適さ……

もう、分裂体じゃ我慢出来ない!!私はムックの本体を従者にしたいのっ!!//」

「…………………。」


「もし、パパがムックの本体譲ってくれたら……2週間に1回、腕組みデートしてあげる//」

「腕組みデート!!!?」


最早、俺に悩む余地は無かった。

一瞬、何てバカな親なのかという思いも湧いたが、俺の心は既に凝り固まってしまっている。どんな凄腕の按摩師であろうと解す事は不可能。

ムックが俺の専属の精霊となって、数十年。

腕組みデートの破壊力は、その数十年を上回るのだ。


「ムーックッ!!」

「何なにー?ご主人様ー、どうしたのー?」

「部署替えだ。本日よりクロエに仕えるがいい!」

「!?何でー?」

「ムックちゃん?私の従者になりなさい」

「え?」

「ムックちゃん?私が守ってあげるから、私と寝食を共にしなさい//

これは命令よ?

毎晩、私の布団を温めなさい!そして、毎晩一緒に寝なさい!」

「分かりましたー!クロエ様ーよろしくお願いしますー!」

「おいムック……あんまり調子に乗るなよ?な?マジで」

(何でー!?グルナ様ニコニコしながらめっちゃ怒ってる!?)


俺は、ムックとの心の絆を解除した事によって、2週間に1度の腕組みデートとムックの分裂体を手に入れた。

後悔?まさか……

俺の心は、晴れ渡る真冬の青空の様に澄み切っていた。


クロエ、第9の試練クリア。



…………………………………………



ある日、俺はクロエと腕組みデートを楽しんでいた。


「ねぇパパ!フルフルの新しいお店オープンしたらしいよ♪行ってみようよ♪//」


キモっ!クサッ!ウザっ!等と罵倒される父親も居るというのに、俺は何と幸せなのだろうか……

楽しんでいると、ベレトから連絡が入る。


(グルナ様、ディオニス様がお見えです)

(…………)

(グルナ様?もしもーし)

(…………)


邪魔するな。である。


その日の夜。

渋々、城に戻るとディオニスは待っていた。

音信不通だったが、ちゃんと帰って来た俺を見るディオニスは非常に嬉しそうだ。


「ディオニス、待たせてすまない。

今日は人生で2番目に大切な用事が有ってな」

「いえ、いくらでも待ちますよ

クエストの件で、叔父さんにお話があるんです」

「従者?」

「はい、デアシアさんと契約したいんです。

魔王軍の精鋭であるデアシアさんとの契約は可能ですか?」

「うーん……デアシアの同意も必要だし、俺の一存では決められないな。とにかくデアシア呼んで来よう」


ディオニスは意外と直球で話をして来る。良い事だと思う。


デアシアは優秀な兵士だ。

戦闘力も高く、近々、軍の要職に就けようと思っていたのである。

彼女が抜けるのは、魔王軍としては痛手だ。

暫くすると、王の間にデアシアがやって来た。

跪き、鋭い眼光で要件を問うデアシア。


「グルナ様。この場にディオニス様が居らっしゃるという事は、先の試練にて敗退した私に名誉挽回のチャンスを頂けるという事でしょうか……」

「いや、呼んだのは他でも無い。

ディオニスは、デアシアを従者としたいそうだ。

そこで、君の気持ちを聞きたいんだ。

嫌なら断って構わない。俺も強制させるつもりは無いからな」

「……誠に恐縮ですが、お断りします」


即答で、お断りされてしまったディオニス。

まぁ、断った理由を聞かない事には、はいそうですかとはならないだろう。


「デアシアさん、理由をお聞きしてもいいですか?」

「……ディオニス様、あの様な不意打ちで勝利しておきながら、私を支配した気になっているのではありませんか?」

(ん?ムックの記録映像を見る限り、不意打ちしたのは君だった様な……しかも躊躇無く頭を撃ち抜いた様な……)

「私は、貴方様を認めてなどおりません。

私が生涯仕えるのは、敬愛する我が主、大魔王グルナ様と未来の夫のみです」

(ん?俺、大魔王なの?)

「では、僕と結婚しましょう」

(!!!?ディオニス?おいディオニス?)


王の間は、一瞬にして殺気に包まれる。

デアシアは馬鹿にされてると思ったに違いない。

凍る様な冷たい目線を浴びせるデアシア。

次にディオニスが何か言ったら、最大火力で銃撃戦を始めそうだ。

何とか銃撃戦は避けたいと思った俺は、ディオニスの覚悟を確かめるべく質問をする。


「ディオニス。デアシアと知り合って間も無いが、そこまで彼女を欲する理由を聞かせてくれ。彼女は、我が魔王軍の優秀な兵士だ。

生半可な気持ちの者に嫁がせる訳にはいかないぞ?

デアシアも、冷静にディオニスの話を聞くんだ」

「……ディオニス様、話の内容によっては厳罰に処されようとも、此処から生きては帰しません」


腰に下がる大型拳銃に、神殺しの神呪を刻み込んだ最大出力の魔力弾が装填された事に俺は気付いた。

デアシアは、本気で殺る気だ。


「第2の試練で、僕はデアシアさんと戦い勝利しました。

戦いの最中……魔王軍の精鋭、その恐ろしさを身を持って知る事になった訳ですが、同時に不思議な感情を知ったのです。それは当時、理解出来なかったのですが、最近分かったのです。恋だと」

「貴様……程々にしておけ……」

「デアシア、落ち着いて最後まで聞くんだ」

「冷酷なだけの人だと思っていたデアシアさんが、健を絶たれた時…”キャッ”って言ったんです」

「……!!?

死になさいっっ!!!」

「お断りします」


撃ち出された”神殺し”の魔力弾は、ディオニスの邪視により消滅してしまった。

ディオニスを睨み付けるデアシアの表情には、悔しさと怒り、そして羞恥心が入り交じっていた。


「…くっ……殺しなさいっっ!!!」

「それも、お断りします」


デアシアが不覚にも見せてしまった恥部を、ディオニスは容赦無く攻める。


「今まで、女性に対して微塵も興味が持てなかった僕は、生まれて初めて女性に興味を持ちました。

”キャッ”……とんでもない破壊力でしたよ。

しかし、王子と友好国の兵士という関係のままでは、もう二度とそんなデアシアさんを見れないでしょう。

もっと見たい……僕は”キャッ”って言ってしまうデアシアさんを独り占めしたいのです!!」


ポロポロと涙を流すデアシア。

プライドの高い彼女だ。人生最悪の時間だろう。

必殺の魔力弾も無効化され、主の前で失態を暴露され、これ以上無い屈辱に涙を流し震えていた。

しかし、ディオニスはとどめを刺す。


「デアシアさんは間違いなく隠れMです。僕は隠れSなので絶対に上手く行きます!」

(か…隠れSM!?)

「カンカンカーーン!TKO!!ディオニス!もう止めてあげてっ!!」


デアシアは、部屋を飛び出し何処かへ行ってしまった……

あんなに追い詰められたデアシアは初めて見た。ちゃんと帰って来るだろうか……


「叔父さん……ダメでした?」

「俺の前で言ったのは不味かったね……

てか、オルフェは知ってるの?」

「まだ言ってないです」

「結果はともかく、事後報告は良くないな……」


俺は魔王オルフェを魔界に呼ぶ事にしたのだった。

暫くすると、王の間にオルフェ夫婦がやって来た。

何とかデアシアと連絡を取り、王の間に戻って来てもらう事が出来たのだ。


「……邪神との一件では間が無く、御挨拶出来ずに申し訳ございませんでした。改めまして、私、魔王軍特殊部隊所属 デアシアと申します」

(何という圧力……これが冥界の王、魔王オルフェ様……)

「気にするな。ディオニスの相手になってくれたらしいな。礼を言うぞ」

「……恐縮です」

「オルフェ。今、子供達は第9の試練で従者の探している。ディオニスはデアシアを従者としたいそうだ」

「いい眼をしている。優秀な兵士なのであろう?良いと思うぞ。だが、魔界の戦力に穴が空いてしまう様では困るだろう。グルナよ、その辺はどうなのだ?」

「父さん、僕はデアシアさんに結婚を申し込みました」

「「!!?」」


突然の事に、オルフェは勿論、刹那も驚いて沈黙してしまった。


「ディオニス。父さんはな、今は落ち着いているが昔は結構やんちゃだったんだ。

攻め込んで来た隣国を地図上から消してやったり、大鎌振り回して魔王アルトミアに喧嘩売ったりしてな…ハハハッ

だから、お前の気持ちは分かるし大概の事は口出ししないつもりだ。だがな……」

「…………」

「式場は、森の国の洞窟教会がいいぞ!!」

(口出しするのはソッチかよっ!!)

「ディオニスちゃんが心に決めた人なら、ママは大歓迎よ!!//」


ダメだ……またデアシアが泣き出してしまいそうだ……


「まだデアシアの気持ちを聞いてないだろ?勝手に話を進めないでくれ。

デアシア。これは政略結婚とかじなゃないんだ。ゆっくり考えて返事をしてくれたらいい。自分の気持ちを大切にするんだぞ?」

「グルナ様、3日程休暇を頂いてもよろしいでしょうか……」


その日は解散した。

休暇が終わったら返事をすると言い、デアシアはフラフラ部屋に戻って行った。

その翌朝、ディーテから連絡があったのだ。


「グルナ軍のデアシアが来てるぞ」

(グルナ軍?何それ新しい)

「休暇をやったんだ。ディーテはデアシアと仲良かったっけ?」

「いや、まともに話した事もないぞ。

何かあったのか?すごく落ち込んでるぞ?

喫茶店連れて行って美味しいコーヒー飲ませてやろうと思うんだ」

「……ちょっとな。何の用事か分かったら教えてくれ。デアシアを頼んだぞ」


はて……何故、ネモフィラ連邦国に?

気分転換の観光だろうか……

まぁ、ディーテに任せておこうと思い放置したのだが、結局3日間ディーテから連絡は無かった。


………………………………………



3日後、俺とサタナス国の幹部は驚愕した。

城で働く者達は、当たり前だがオシャレな制服を着用して職務に当たっている。

その中でも、男性の幹部や王妃を警護する近衛兵は軽装鎧とマントの着用が義務付けられているのだ。

非番の時は言うまでもなく皆私服なのだが、デアシアは常に制服を着ていて、私服姿を見た者は居ない。

そんなデアシアが、化粧をし女性らしい服装で現れたのだ。


「デアシアは美人なんだから、ちゃんとオシャレさせないとダメだぞ?」

「…………」


何故?俺はディーテに怒られている。

3日間、デアシアが森の国で何をしていたかと言うと……

化粧の仕方を勉強し、料理の勉強をし、一般的な家事をマスターし、女王の集まるお茶会に参加し……

その他諸々を学習していたそうだ。


「グルナ様……」

「何も言うな。半刻程すればオルフェ達が来るだろう。その時に聞かせてくれ」


魔王オルフェ一家が到着し、先日の続きが始まった。


「デアシアさん、一体何が有ったんですか?」


まぁ気になるだろう。

軍内でも、冷酷無比と恐れられるデアシアが制服以外の服装をしているだけでも大問題なのに、化粧までしているのだ。

ディオニスの問い掛けに、何も答えないデアシア。


「困りましたね」

「…………?」

「僕の趣味の1つに、珍しい石や宝石を収集するというのがあります。

しかし、その趣味はもう終わりですよ。

今のデアシアさんの前では、美しいと思っていた宝石達が霞んで見えてしまうことでしょう」

「……!!!?」


うんうんと頷きながら、ディオニスの問題発言を問題視しないオルフェ。

おい!オルフェ!どんな育て方したら、こんなスケコマシ野郎になるんだ!!と言いたかったが、空気を読んで俺は沈黙を守った。

少し戸惑いながらも、顔を赤らめるデアシア。


「私は、ディオニス様の事を殆ど知りません。それはディオニス様も同じだと思います。

なので、結婚は勿論、婚約する事も今は出来ません」

「大丈夫ですよ。僕は隠れSですし、デアシアさんは隠れMですから。

上手くいかない訳がないです」

「ディオニス様にあんな事を言われてから、それを思い出す度に私の心は熱く脈を打つのです……私は、その感情が何なのかまだ分かりません。

……ただ、それを見極める為に従者として御供させてもらいたいとは思っております」

「デアシアさん//」


こうして、デアシアはディオニスの従者として契約する事になった。


「パパ!今日はお祝いよ!!//」

「ふむ、早速準備しなくてはな!!」

「…………」


オルフェと刹那は、宴の準備をする為に、国へ戻って行った。


「ディオニス様、一つだけご了承頂きたい事がございます。

悪気は無いのですが、稀にテンションが上がると”ブタ野郎”とか言ってしまう場合が……」

「大丈夫ですよ!

僕、そう言うの嫌いじゃないんで」

「お前ら属性が逆じゃねぇか!!」


色々ありそうだが……

ディオニス、第9の試練クリアである。

残るは、ラクレスとオリオン。

無事に従者を見つけてくれるといいのだが、オリオンは凶暴な印象がマイナスに働き……

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