第83話 勇者パーティVS魔王軍 後編
”可能態干渉術式”の発動によって、俺が対象として認識した者に”力”が上乗せされる。
今回、俺が許可した使用上限は85%。
だが、子供達4名に10%づつ、ケンジに20%が上乗せされた。
これは、彼等の限界が低かったのでは無い。そのパーセンテージで十分に達成可能と言う事だ。
「何をしたか知らぬが……魔力の上乗せ程度で覆す事は出来ぬぞ」
ケンジは気付いていた。
違う……これは、魔力の上乗せじゃない。
これは、魔界の支配者の”力”そのものを上乗せされている。
「雑魚の相手は任せろ!
ケンヂの邪魔はさせねぇ!!」
勇者と共に現れた小さき者達。なかなかの実力ではあるものの、残った4名の配下が遅れを取る程でもない。
たかが魔力量を増やした所で何になるというのか。発動が困難な魔法の行使が可能になるか、持久力が上がるのみではないか……下らぬ!!
魔王バエルの配下4名を相手取る子供達も気付き始めていた。。
”可能態干渉術式”の影響下にある子供達に上乗せされていたのは、魔王グルナの”力”
それは、力と名のつく全てある事を。
魔力、身体能力は勿論、神の能力さえも貸し出される。
上乗せされた数値だけを見れば、少々控え目な印象だが、発展途上の子供達と魔王グルナでは地力が違う。
無数に飛び交う攻撃魔法は、ディオニスの邪視で消滅し、オリオンの放つ雷霆を纏うメイスの一撃に砕ける筈のない防御結界は容易く砕け散った。
目の前で起こる不可解な現象、ある者は足を竦ませ、ある者には命乞いをさせた。
恐怖に震える異世界の魔族に、ラクレスとクロエは容赦無く斬りかかった。
ディオニスは、自身の能力で専用武器を顕現させる。
他の子供達は、高純度ビトラスを鍛えた専用武器を扱う。
その専用武器は、使用者の属性を纏うのだ。
命乞いをする者に対して放たれた斬撃は、一見、無慈悲極まりないが、その実、慈愛に満ちていた。
クロエは、全ての不安や緊張から解放された夢を。
ラクレスは、恐怖と痛みを取り去る救済の魔法を。
雷霆の能力と共に刃に載せ、一撃で命を断った。
一瞬で葬り去られる配下。
その身に何が起こったのかさえ検討も付かない、魔王バエル。
数瞬の思考の後、自分の未来に入り込んだ、一点のカオスの存在に気付く。
「何をした」
「まだ分からないか?上乗せしたのは魔力では無い。真なる魔王の全能力だ」
「ならば、その原因を排除すれば結果も消え失せるという事だな?」
「その通りだ。やってみるがいい。
俺は構わんぞ?子供達に譲ったが、本当は自らの手で始末したくてウズウズしているのだからな」
玉座に深く腰掛ける魔王は、弱体化しているにも関わらず、不気味な恐怖を感じさせる。
”緊縛剛鎖”
勇者を捕縛し、鎮座する魔王グルナに襲い掛かる魔王バエル。
(ふむ、上位の緊縛術式か……ケンジに破れるかな?)
魔王対魔王……その間に割って入る勇者ケンジ。
その速さは、先程パイモンを葬り去った時と同じ、魔法と見紛う魔王グルナの動きであった。
「破ったというのか!?」
「これは、メテオラの人々が貴様を倒す為に編み出し、俺に授けてくれた技だ」
「邪魔をするなっ!!!」
「秘奥剣”千本桜”」
勇者ケンジは、渾身の力を込めて放った。
魔王の能力と、メテオラへの想いが載った視界を埋め尽くす程の斬撃の嵐は、魔王バエルを再生不能の状態にまで斬り刻んだのであった。
「ディオニス君」
「ケンジさん、任せて下さい」
ディオニスの邪視で、魔王バエルの魂は完全に消滅した。
「ケンヂ、終わったな」
「……みんなありがとう」
魔王は立ち上がり、言い放った。
「まだ終わりではないぞ。
メテオラを修復する」
「「…………?」」
「パパ、魔族に殺された魂を蘇らないって言ってたじゃない……」
「確かに、魔族に殺された者は魂に呪いを刻まれる」
「じゃあ、どうやって?」
「”可能態干渉術式”によって借り受けるのは、可能態となった者の全能力だと言った筈だ。
対象を変更する。」
王の間に居るのは、魔王と3名の王妃。
そして、ディオニスの親である魔王オルフェ夫婦。
そして、勇者ケンジと子供達である。
「オリオン、お前が現実態となるのだ」
「俺が!?」
「オリオン、此処に居るのは誰だ?」
「!?」
「そう。そして、俺は魔王だ。魔族の呪いに屈すると思うか?」
”可能態干渉術式”
オリオン以外の全員が可能態となり、その能力をオリオンに貸し出す。
オリオンが借り受けた能力は3つ。
魔王ディーテの”無垢なる救済”、女王 刹那の”森羅万象”、そして魔王オルフェの”冥界の王権”だ。
他の7名は魔力の供給行う。
膨大な魔力を注入され、光り輝く竜眼。
オリオンは恐怖さえ感じていた。個に対して複数の可能態が貸し出す場合、効果は掛け算となる。
やがて、オリオンの掌に”宝珠”が出現する。
手に入れた者の願いを叶える玉である。
「世界を作り直すには、オリオンの魔力だけでは到底不可能だ。
だが神の権能と、無限ともいえる程に増幅した魔力、それが有ればメテオラが蘇る未来へ到るのだ。
ケンジ、祈るな。
叶えろ」
増幅した”無垢なる救済”により魂は呪いから解放され、肉体は修復される。
”森羅万象”は荒れ果てた大地を蘇らせる。
”冥界の王権”は魂を元の器へ転移させるのだ。
「グルナさん、見に行きたいです」
連中が使った転移魔法はムックが記録していた。
それをコピーし、俺達はメテオラへと転移したのだった。
ゲートを抜けたケンジの目に飛び込んで来たのは、懐かしい景色だった。
人々は戸惑っているが無理もない。
ケンジは、メテオラ統一政府の城に向かい、今回の件を報告して来たようだ。
俺達の事は、転移した異世界で仲間になった冒険者と説明した様で、英雄として迎え入れられた。
「ケンちゃん、やっと戻れたな!転移の術式を紙に書いといたから、また遊びに来い」
「……僕、やっぱり魔界に住みます!」
「ん?何で?」
「アザゼルさんが心配で……//」
「!!?」
(コイツ……まさかアザゼルにほの字ではあるまいな……)
「旦那様?どうしたの?」
「う、うん。その辺はケンちゃんに任せるよ!ハハハッ……」
暫くメテオラに滞在し、観光を楽しんだ俺達は魔界に戻った。
そして、子供達は次の試練へ旅立ち、俺は直ぐにアザゼルの警備を強化した。
「……わたちはグルナしゃまだけですのん♡//」
(こんな可愛い娘を、何処の馬の骨か分からん奴の嫁にはやれん!!)
問題が発生しそうな気配が漂っているが、無事に第8の試練はクリアしたのであった。
無事に魔王とその配下を討伐し、第8の試練を突破した子供達。
第9の試練は、単独クエスト。従者を見つける旅の筈だったが……