第81話 勇者パーティーVS魔王軍 前編
魔界に帰った子供達は、王の間へ急いだ。
兎に角、真意を確かめる為だ。
王の間に着くと、魔王の姿はなかった。
どうやら外出中らしい。
安堵する子供達、何せ第8の試練は魔王と幹部の殺害という内容なのだから。
その頃。
魔王は、異世界コンビニ”アザリコ”に来ていた。
「いらっしゃいましぇー」
今日もアザゼルは元気に働いている。
アザゼルの手作り弁当を買いに来たのだが、要件はそれだけでは無い。
「グルナしゃま!いらっしゃいですのん♪」
「アザゼルの弁当が売り切れる前で良かったよ」
アザゼルを抱き上げ、頬擦りする。
アザゼルは我が子同然なのだ。
「言ってくれれば取り置きしておきますのん♪」
「アザゼル。これは争奪戦なのだよ!魔王VS一般のお客さんなのだ。
それはそうと、ケンちゃん居る?」
「居ましゅ!休憩中ですのん」
事務所でウトウトしている 勇者 大澤ケンジ。
その首元に刃が迫る。
目を閉じたまま、護身用のナイフで迫り来る刃を受け止めると、目にも留まらぬスピードで懐に入り込み、魔王の喉元にナイフを突き付けた。
「もーー!脅かさないで下さいよ!!」
「戦士たる者、常に気を張っているなんて基本だろ?鈍ってなくて何よりだ」
「まぁ、そりゃそうですけど……
そう言えば、聞きましたよ?子供達と戦うらしいじゃないですか!」
「何処から話が漏れたのか……まぁ、その通りだ」
「しかも、達成条件は魔王と幹部4名の殺害って……一体何考えてるんですか?」
「そのまんまだ。合計5名をあの世に送るんだ」
「……本気ですか?」
「本気だ。正直、俺はイラついてる。爆発寸前なんだ……。
自分で言うのもなんだが、俺は強くなり過ぎた。
放っておくと危険だと思う。
俺は、子供達が相手なら……子供達の成長を見れるのなら……悔いはない」
「そんな……」
「そんな魔王討伐パーティーのリーダーをケンちゃんに任せる!よろしく!」
「えーーっ!?僕も参戦するんですかっ!?」
勇者 大澤ケンジ 参戦決定。
…………………………………………
決戦の日は1週間後。
子供達と大澤ケンジは、決戦の日について話をしていた。
その時、部屋に超悪魔アザゼルが入って来た。
「みなしゃん!グルナしゃまを殺しちゃダメですのん!!
どうちても戦うと言うなら……わたちが相手になりますのん!!」
「うるせーな!戦いたくないから話し合ってんだよ!
アザゼルも何か考えろよ」
「はい……ごめんなしゃい……」
アザゼルも話し合いに参加し、夜は更けていった。
結局、辞退する事に決めた子供達は魔王の元に向かった。
「父さん!僕達、魔王討伐クエストは辞退しようと思う。
出来ないもん!勘当されてもいい!!」
「えーっ!頼むよ!魔王とその手下を討伐してくれよー!
放っておくと悪さするぞ?いいのか?
お前達が思ってるよりも、もっとスゴい悪さだ!魔界だけじゃない、地上世界も無茶苦茶に壊しちゃうかも知れないぞ?いいのか?」
「ダメだけど、殺すなんて無理だよ……」
「うーん、まぁ水の日の午後……13時42分に此処に来るんだ。約束だぞ?」
子供達が去った後、王の間にアンラ・マンユとヨグ=ソトースがやって来た。
指定した日時に子供達が来てくれるか、正直不安なのだ。
「ちゃんと来るかなぁ?」
「見せてやれ」
ヨグ=ソトースは、水の日の14時を映し出した。
そこには、魔王と戦う子供達の姿。
(ちゃんと戦ってるじゃないか……)
街の宿屋に集まった子供達は、また会議を始めた。
そこで、子供達の脳裏に過ったのは、”そもそも戦って勝てるのか?”であった。
魔王は、天空神の能力”雷霆”を使う化け物。
地上世界の守護神セレネの絶対防御結界を破壊し、魔王オルフェ必殺の斬撃を受け止め、邪神アンラ・マンユ率いる猛者達を、勝ち抜き戦にも関わらず1人で壊滅させた男である。
「…………無理じゃない?」
「……不意打ちしましょう。正面から行っても負けます」
「汚ぇけど、猛毒入りの酒で仮死状態にしてから、ラクレスの神眼で蘇生だな。メデゥーサが伝説の毒持ってたよな?さすがに効くだろ」
「ビオンにお酒もらってきましゅ!」
「何とか平和的に解決出来そうな気がしてきましたね!」
平和的かどうかは分からないが、子供達は決戦の日に向けて準備を開始したのであった。
決戦の日まで、子供達は街の宿屋に泊まっているのだが、ある日、その宿屋にアリスがやって来る。
護衛として、ベレト、スキア、デアシアも同行している。
リリアが連れ去られる事件が有ってから、魔王の命令で警備が強化されたのだが……少々度が過ぎていないか?と思う ケンジ。
王妃の突然の訪問に、宿屋の店主は泡を吹いて倒れ緊急搬送されてしまった様だ。
「ママ!何でこんな事になっちゃうの?」
泣き出しそうなクロエに、アリスは呟いた。
「魔王は2人も要らないの。1人居たら十分……これは、次の世代に世界を託す為の試練なのよ?」
「そんなのおかしいよ!地上世界には魔王様が何人も居るじゃない!!」
「地上世界は、天空の神々が複数名で支配する様に仕向け、自身の分身ともいえる存在を地上に送っているの。
魔界は違う。邪神に認められている支配者は、旦那様のみ。
その前は、サタン……常に、王は1人。魔王としての力を持つ者、魔王を名乗る者……それらとは争う運命なの」
「ママはそれでいいの!?」
「…………」
アリスは、城に戻って行った。
”旦那様は、あなた達の成長をとても楽しみにしているわ……”
と言い残して。
特製の猛毒酒を持ち、子供達は王の間へ向かう。
そこには魔王と3名の王妃、魔王オルフェ夫婦、そして招かれざる客が待ち受けていた。