第80話 幻獣王リヴァイアサンの元で修行せよ!
子供達は、幻獣界の支配者リヴァイアサンの城に来ていた。
魔力探知を使えば、巨大な魔力の塊が移動しているのを感じる。全て幻獣なのだ。
パステルカラーの植物も、幻獣界ならでは。
「リヴァイアサンこんにちは!」
「こんにちは。暫く見ない間に、すっかり逞しくなったね!」
「稽古付けてくれるんでしょ?楽しみだなー」
第7の試練は、能力の解放である。
リヴァイアサンは、バハムートに次ぐ実力者だ。
魔王から、この話が来た時、リヴァイアサンは二つ返事で引き受けた。
何しろ、全員が将来有望で無限の可能性を秘めているのだ。興味を持たない筈が無い。
「稽古と言っても、私の技術をマスターしてもらうのでは無く、君達の能力を解放するのが私の役目なんだ」
「能力?」
「うん、力を引き出すって言った方が分かりやすいかもね。早速、明日から稽古をするけど、意味が有るのか疑問に思う時もあるかも知れない。でも、私を信じて付いてきて欲しい」
「「勿論です!!よろしくお願いします!!」」
(うん、素直ないい子達だ//)
初日は住む場所を案内してもらい、ゆっくり過ごした様だ。
翌朝。
「みんな魔力量は十分だね。余程酷使したのかな?」
「……ちょっとね//」
「そっか、じゃあ早速だけど、逆立ち出来るかな?」
「楽勝だよ!」
オリオンを皮切りに、子供達は張り切って逆立ちを始めた。
「じゃあ、片手で出来るかな?
出来たら、次は5本の指先だけにして、それが出来たら、指を1本づつ減らして、最後は人差し指だけで逆立ちしよう」
「えっ!!?」
(折れない?大丈夫?)
何とか人差し指のみで逆立ちをする子供達。
更なる試練が課せられるのだ。
「じゃあ、私がいいと言うまで続けてね」
「「は……はい……」」
(……フィジカル?)
プルプルしながら耐える事1時間。
リヴァイアサンは何処かに行ったきり帰って来ない。
「もうダメ……」
ラクレスは限界の様だ。
その後、クロエも脱落し最後まで粘ったオリオンもクリア出来なかった。
戻って来たリヴァイアサンは微笑みながら、少しだけアドバイスする。
「大事なのは、集中力。
筋力>魔力じゃなくて、魔力>筋力って事だね。でも、身体強化と重力操作はダメ。
体重を支えられるだけの魔力を放出し続けて、体重を相殺するんだ。
さ、続きだ。君達なら1週間以上は維持出来るさ」
「「は……はい……」」
(うおおおぃ!1週間って何!?)
リヴァイアサンは居なくなった。
いつ帰って来てくれるか分からない不安とも戦いながら、子供達は何時しか”無”になっていく。
指先の一点に掛かる負荷、それのみを意識する。
勿論、全身のインナーマッスルは悲鳴をあげているがそれどころではない。
何故なら、いいと言われるまで出来なければ、恐らく、この初歩であろう訓練は終わらない。
2日後。
リヴァイアサンは、子供達の元へ戻って来た。
(1人ぐらい残ってるかな?
まぁ、1週間は冗談さ。ゴハンもトイレも必要だからね//)
見ると、子供達は全員倒立したまま、微動だにしない。
「なっ!?」
(まさか、全員が丸2日耐えたのか!?)
「みんな、よく頑張ったね。休憩にしよう」
「くぅー、長かったぁ……」
「うっっ…お腹空いた……」
温泉に浸かり、用意された食事をいただく。
食事は、人化したフェニックスが用意してくれたそうだ。
10歳ぐらいの幼女である。
「ねぇ、リヴァイアサン?フェニックスがゴハン作ってくれたの?」
「うん、そうだよ。美味しいだろ?」
「まだ子供なのに、こんな美味しいゴハン作れるなんてスゴいね!」
「見た目は幼いけど、年齢は君達の1万倍ぐらいだよ」
「!?」
「フェニックスは転生するんだ。大人になって、10年もしない内に炎に包まれて子供に生まれ変わる」
子供の時間が長い不死鳥。
記憶は引き継ぐらしいので、精神は立派に大人のレディなのである。
「クロエちゃん、私の事知りたい?
教えてあげちゃうよ?大人のテクニックとか♡」
「……私、そういうのよく分からないです」
「…チッ…分からないとかじゃなくて!」
「ヒッ!」
幼い見た目とは裏腹に、グイグイ攻めて来るフェニックスは、クロエにとって恐怖でしか無かった。
食事が終わると、次の訓練が始まった。
しかし、子供達は皆パジャマだ。
「用意されてたのはパジャマだったけど、このままでいいの?」
「うん、そのままでいいよ。
次の訓練は、夢の中だからね」
リヴァイアサンからネックレスを渡され、眠りに着くだけだと説明される子供達。
そのネックレスは、身につけた者に明晰夢を魅せる。
本来、夢そのものを変化させる事が可能だと云われる明晰夢だが、ネックレスの効果で夢自体は制御されている。
夢の中には、様々な世界が広がるのだ。
自分がとても幸せな状況、何者かと戦っている状況、捜し物をしている状況など様々。
その世界で、自由に動き回れるのだ。
だが、心拍数が上がろうがリヴァイアサンの指定した時間までは覚醒する事はない。
戦いの夢なら悲惨だ。
「私は夢の中には現れないからね。クロエのお母様みたいに、誰かの夢に入り込むのは超高難度なのさ。私は夢を制御するのが精一杯、だから安心しておやすみ//」
その夜、子供達が見た夢はバラバラだったが各々が目覚めてから、暫し考え込んでしまう様な不思議な夢だったそうだ。
……………………………………………………
「午前中は逆立ちをしてもらうけど、午後は少し違う事をしよう」
「先生!逆立ちは午前中だけでいいんですか!?」
「嬉しそうだね、午前中だけでいいよ。
午後からは、二人一組になって押し合いっこしよう」
「押し合いっこ?」
子供達は二人一組になり、手を限界まで伸ばし、互いに触れるか触れないかの距離まで近付き前屈立ちをする。
前に出した足は90度に曲げ、後ろの足はしっかり伸ばし背筋を伸ばす。
互いの後ろに引いた足の踵が接する場所に印を付け、円を描く。
出来上がった円の中で押し合いっこをするのだが、手で押すのではなく魔力で押すのだ。
手が触れるか触れないかの距離を維持しながら、相手が引けば自分も引き、相手が押して来れば円から押し出されない様に押し返す。
「円の中から出たり、足の裏が地面から離れたら負けだよ?
足の裏を地面から離さない様に、摺足で円の中を移動しながら相手を押し出すんだ」
意味が分からない。
子供達は困惑するも、兎に角押し合ってみる。
押してくる相手に対して、引き過ぎれば途端に押し切られ。互いに押しすぎれば、相手が引いた瞬間姿勢が崩れるか、互いに吹き飛んでしまう。
相手を負かすには、相手の体内の魔力の流れを感じ取らなくてはならない。
(神になる者なら、魔力の流れが見えるなんて当たり前だよね//)
ただ、円の中をジリジリと動く子供達。
傍から見れば滑稽だが、当の本人達は真剣そのものであった。
午前中は、魔力の緻密なコントロールを。
午後は、魔力の流れを見極め対処する。
そして、夜は夢の中で己を見つめる。
数ヶ月が過ぎた時、子供達は永遠に続けるのではないかと思わせる程、1mmもブレない倒立を披露し。勝った負けたを繰り返していた押し合いは、永久に決着が着く事無く続き。夢の中では”何か”を手にしつつあった。
そして、遂に子供達は目覚めた瞬間、微笑んだ。
奇しくも、申し合わせた様に同じタイミングで。
「みんな、頑張ったね。
このクエストの卒業試験だ。
ムック、居るんだろ?出ておいで」
何故か申し訳なさそうに姿を現すムック。
少し怯えている様にも見える。
「このムックは分裂体、消滅しても問題無いって事だ。
君達が、積み重ねて来た訓練の成果。そして、夢の中で手に入れた力。
恐らく、生身の相手では披露出来ない能力も有るだろう。
でも安心していい。それをぶつける相手は……この分裂体ムックだ!!」
(リヴァイアサン様ー!本気なのー!?)
「ムック!わたしはムックが大好きだよ。
何匹居ても構わない!」
(え?何?どういう事?)
”月の瞳”
クロエの発現した”月の瞳”は、全ての生物の宿命。
創造・成長・衰退・破壊の象徴。
本日発動したのは創造と成長、そして衰退。
月明かりに照らされた様な気がしましたー。後にムックはそう語った。
ムックは、意思とは無関係に分裂し、10匹に増えたのである。
(何でー!?)
だが、それで終わりではなかった。
増えたムックの中の1匹が、みるみる魔力を吸い取られ衰弱したのだ。
その1匹は、ものの数秒でピクリとも動かなくなり、徐々に灰になっていった。
ビビるムックの群れ……
(危険な能力だね。まだ未熟だけど末恐ろしいよ。
ネックレスの効果を破壊して、夢そのものを作り変えたのはクロエだけだったし)
「ムック、助けてあげるね」
”神眼”
灰になったムックの分裂体は、炎に包まれた。
毛の一本一本が鮮やかな紅色に輝き、みるみる再生していく。
ラクレスの”神眼”は解除や回復だけでなく、完全なる再生の能力。
恐らく、寿命以外の病気や外傷等での死亡なら、魂そのものから修復可能だろう。
(神薬どころじゃないね。バハムート様が治せなかった魔王様の左手も再生出来るかな?)
「分裂体だけど、少し可哀想だね。
ムックに防御結界を張ろう」
リヴァイアサンの強力な万能結界が構築され、ムックを保護している。
(これを破れるのはクロエだけかな?)
ディオニスがムックの前に立ちはだかる。
「ムックさん、安心したらダメですよ?」
「えっ!?」
”邪視”
ディオニスが睨み付けた瞬間、結界諸共ムックは消滅した。
「「!!!?」」
ディオニスの”邪視”は消滅の能力。
万能結界を消滅させ、ムックの魂そのものを消し去ったのだ。
元々、オルフェの能力を引き継ぐディオニスは魂を刈り取る事が可能だ。
刈り取られた魂は転生輪廻の理から外れ、刈り取った者の許しがあるまでは、永遠に冥界で罰を受ける。
しかし、邪視は魂を消滅させる。
二度と転生する事は出来ないのだ。
(見たものを消滅させる能力か……格上の存在以外は抵抗出来ないだろう。同格は敵ではなくなったと言う事だね)
「リヴァイアサン、俺の能力は披露したくても出来ないよ」
「どんな能力なんだい?」
「俺のは”竜眼”相手の能力を見破る能力と、願いを叶える能力なんだ」
「そうか、負担も相当だと思うし、いつか発動した時は、その記録映像をムックに見せてもらう事にするよ」
(恐らく”宝珠”でしょうか?
それを手に入れた者は全ての願いを叶えると云われる玉。
竜眼で見えるのは、相手の能力だけではないでしょう。心の中さえも全てを見抜く能力。悪者に玉を与える事は出来ないですからね……まぁ、出来る事はそれだけとは思えませんが……楽しみでなりませんね//)
「みんな、とんでもない能力を開花させたね。
見事、試練クリアだよ。
卒業祝いに、私の鱗で作ったサプリをあげよう//」
「鱗?」
「うん、私の鱗は貴重品なんだよ?1ヶ月分あげるから、騙されたと思って飲んでね//」
「無くなったら買いに来ていいですか?」
「いいよ、1日分で金貨10億枚で販売中だから」
「「!!!!?」」
「なーんちゃって//冗談だよ!またおいで」
「「わーい!ありがとうございます!」」
リヴァイアサンが言った金貨10億枚は冗談ではなかった。
そうとも知らず、子供達はお世話になった幻獣達や竜神族の親戚に挨拶を済ませ、魔界に戻って行ったのである。
1ヶ月分のサプリを見たアリスが絶句したのは言うまでもない。
幻獣界で能力を開花させた子供達は、魔界の宿屋に滞在していた。
次なる試練は、魔王と幹部の4名の殺害……
何故?戸惑う子供達だったが、試練は始まってしまう。