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第8話 ユグドラシル

魔界に帰ると、城にはパズズや周辺国の王が居た。

ゴハンが食べたくなったのかと思ったが、どうやら違う様だ。かなり動揺している、嫌な予感だ…


「グルナ様!大変です!」

「何があったんだ?俺が1日居なかっただけで、深刻な問題が起きるのか?」

「世界樹が弱っているのです…」

「世界樹?」


世界樹とは、9つの世界を内包する存在らしい。その根は1本1本が各世界に繋がっていて、根腐れを起こすと世界が崩壊すると言うのだ。

まぁ、飽くまでもパズズの話だが…


「どうしましょう…」

「知らねぇよ、植物はよく分かんないからな。今回が初めてか?」

「過去にもありました…しかし、その時はサタン様が…」


サタンの名前が出ると、対岸の火事では済まされないな…。

とりあえず、当時サタンは、どうやって世界樹を蘇らせたか知ってる者が居ないか確認する事に。


「これを持って世界樹の元に行ったのです。その後、1万年程行方不明になりましたが…」


瓶だ…1万年後に国に戻ったサタンは配下に瓶を渡し、次は自分達で何とかしろと言ったらしい。

何が入っているのだろうか…

しかし、1万年って事はサタンは消滅したんじゃなかろうか…

アザゼルにも聞いてみたが、まだ生まれてなかったらしく、その事は知らないらしい。


瓶を開けてみると、とんでもない臭いの液体が入っていた。


「うわっ!!くっっさっ!!!早く蓋しろっ!!こんな臭いの撒いたら世界樹枯れるぞ!」


失神する者が出る程の臭いだ。アザゼルも泡を吹いて倒れている。

はっきり言おう、使いたくない。

俺達は、他の方法を探るべく世界樹へ向かった。


…………………………………………



パズズ国領内。


世界樹はパズズの支配地域にあるらしい。

世界樹といわれるぐらいだ。相当大きな木をイメージしていたが見渡す限り、それらしき木はない。本当に此処に世界樹があるのだろうか。


「此方です」


パズズは山の麓にある洞窟の中に入って行く。

暫く進むと、明かりが見えて来た。

そこには、大きな空間が広がり巨大な1本の木が生えていたのだ。

神秘的な光景に魅入ってしまったが、調査開始だ。

直径数百mの世界樹、原因は裏側に有った。

何者かが世界樹の根を齧っていたのだ。

ナイフとフォークを使い、モリモリ根っこを食べているのは金髪にやや赫色の瞳の少年。


「おーい!何してるんだ?」

「こんにちは!僕お腹空いちゃって…この木の根っこ美味しいから、たまに食べに来るんだ♪」


犯人だ。恐らく、この瓶に入っている臭い液体は、彼の食欲を無くさせる為の物だろう。

しかしだ…残念ながら今回は通用しない可能性が高い。

何せ、鼻栓をしているのだから…


「おい、パズズ!この臭い液体は使えなさそうだな。鼻栓してるぞ」

「前回ので学習したのでしょうな…」

「…試しに撒いてみるか?ダメだったら違う方法を考えよう」

「グルナしゃま、避難準備おっけーでしゅる!」


俺達は、謎の液体を世界樹に掛からない様に撒き、一目散にその場を離れた。とにかく臭いから仕方無いのだ。

強烈な臭いは、安全圏まで逃げたと思っていた俺達を襲ったが、悲劇は臭いだけではなかった。


「君達が臭い水を撒いたの?」


世界樹の根を食べていた少年が、ゆっくりと此方に歩いて来たのだ。

何と邪悪な顔をするのだろうか…食事していた時とは大違いだ。


「僕の食事を邪魔するなんて、いい根性だね」

「なんて魔力だ!お前は一体何者なんだ?」

「僕は、ニーズヘッグ。食事の邪魔した事を後悔させてあげるよ…新魔王様♡」

「!?」


ニーズヘッグと名乗った少年が動いた瞬間は見えた。しかし、その後の加速は異次元だった。

構えてはいなかったが警戒はしていたので、大概の攻撃は”躱せるはず”だったのだが…


「新魔王様、大丈夫?」


視界が一瞬砂嵐に包まれ…その後、歪む景色…動かない身体…

俺は脳震盪を起こし、地面に膝をついていたのだ。


「新魔王様やるじゃん♪サタンは”さっきの”で消滅しちゃったんだよ?大したもんだよ」


この世界に来てから、初めて味わう脳震盪。

称賛してはいるものの、ひしひしと伝わる相手の思考。


”僕の方が強いんだよ?”


快挙。

まさに快挙だ。俺からダウンを取った者は、転生して以来、お前が初めてだ…


「速いな…」

「まだやるの?僕、食事の途中なんだけど」

「速いが…速いだけだ。それ以上では無い」


ニーズヘッグ。多分だが、コイツは相当短気だ。

その予想通りに、期待以上の速度でニーズヘッグは止めを刺しに来た。

来ると分かっていれば…しかも、躊躇無く殺す気で来ると分かっていれば”迎撃”出来なくもない。

ニーズヘッグは右ストレート…それに合わせるのは、固有スキル”闘神化”で最大まで身体能力を上昇させて放つ、最速の右ジャブ。

拳を先に相手に当てた方が勝ちだ。


ウィービングでニーズヘッグの打撃をギリギリ躱し、握りの緩いジャブで顎の先端を撃ち抜く。

掠っただけで、頬を切り裂くスピードと破壊力をもつ打撃は脅威だが、カウンターで迎え撃つ事が出来ればチャンスに変わるのだ。

ニーズヘッグの常軌を逸したスピードは、逆に1発で仕留めさせる為の、最高の材料を俺に提供する。


(新魔王様やるじゃん!まさか躱すなんてね)

追撃に移行しようとしたニーズヘッグだが、それは叶わず大地に捕えられる事となる。

景色は溶けだし、身体は動かない。


「ニーズヘッグ、根っこは諦めてもらうぞ」


(いかずち)を纏う新しい魔界の王が迫るが、ニーズヘッグは動けず混乱していた。

初めての体験…ドロドロに溶けた視界にも驚いたが、身体が自分のものでは無いのではと思う程に動かない。

何という屈辱…悪魔など敵と思った事も無かったニーズヘッグに突き付けられる、動かす事の出来ない事実。


”魔界の王に敗北した…”


思わず、涙が零れる。

(このままじゃ僕が殺される…)


その時、倒れ伏す自分を見下ろす新たな魔界の王は、”何か”を取り出し目の前に置いたのだ。


「根っこより”コレ”の方が美味しいぞ?」


(いい香り…)

今まで嗅いだ事の無い…甘く優しい香り。

少しずつだが、身体は回復している。何とか起き上がるも、最早反撃する気は無かった。

目の前に置かれた”いい香りがする何か”はニーズヘッグの闘争心を掻き消すのだ。


「新魔王様、コレは何?」

「コレはプリンって言う食べ物だ。食べてみないか?」


どうやら、新魔王様も戦う気は無い様だ。

言われるがままに、その”プリン”を一口頬張るニーズヘッグ。

まさに衝撃だった。

口いっぱいに広がる、優しく上品な甘さ。香りは幸福感を伴う余韻を何時までも感じさせる。


「殺さないの?」

「ん?短気だけど、根は良い奴みたいだから見逃してやる!命令だ!根っこを食べるのはやめて、俺の配下としてサタナス国に来い!美味しい物がいっぱい食べれる予定だぞ?」


少し強引な新魔王様。

でも、不思議と嫌な気はしない…

何より、片手間で戦う様な相手では無い。自分を従える実力は十二分に有る。


「僕、新魔王様の配下になるよ」

「よし!帰るぞ!」


こうして、9つの世界のどれかが崩壊するのを阻止した俺達は国に戻るのであった。


…………………………………


その頃、月の神殿では。


「ゼウス様、グルナ様がニーズヘッグを倒し、配下にしたようです」

「……いいんじゃない?全然想定内だ!順調順調♡」

「…………」


(神々も恐れる”悪意の打撃者”聖魔獣ニーズヘッグを倒すとは…流石は俺の分身よ♪)


グルナの働きにゼウスは、とても満足したのであった。

しかし、サタナス国に戻ったグルナが衝撃の事実を知る事になるとは、神々も予想出来なかったのである。

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