第77話 畑を荒らす鳥を退治せよ!
ゼウスの神殿を掃除し終え、子供達が次に向かったのは南の島国プティア王国。
そこには魔法の通じない怪鳥の群が蠢いていた。
神界から戻り、次に向かったのは地上世界の南方にある島国、プティア王国。
この地は、ミダスが貴族として転生した国だ。
王族を幽閉し、軍を支配下に置いたミダスは魔物売買で稼いだ資金で魔導兵器を作り、世界征服を目論んだのだ。
当時、ネモフィラ連邦国は無く、森の魔物達は連れ去られたり殺されたりと散々な目に遭っていた。
森の中に勝手に町を建設中だった俺達は、森中の族長達を纏め上げ、知性のある魔物達の生命と自由を守る為に国を興した。
ディーテを王とする”ネモフィラ連邦国”が魔物の森に誕生したのだ。
その後、ミダスの件は一件落着しプティア王国とネモフィラ連邦国の関係は、現在に至るまで良好そのものだ。
ミダスも更生し、2つの世界を股にかけて活躍している。
話が逸れたが、プティア王国は豊穣神(魔王)の神殿があり、農業が盛んだ。
大陸の国々へ作物の輸出を行っていて、各国の依存度も高い。
そんなプティア王国の畑が荒らされていると相談があったのだ。
被害が拡大すれば、野菜の値段が高騰し家計は大変だ。
(魔界の野菜を輸出するのも有りだが、大量輸送が難しい)
そこで、ボーナスステージを兼ねて害鳥退治を引き受けたのである。
プティア王国の王族達に挨拶を済ませた子供達は、魔王デメテルの元を訪ねた。
「こんにちは!デメテル様、お土産持って来たよ! 」
「みんな久しぶりだね。お土産ありがとう//
さぁ、入って」
事前に連絡を受けていたデメテルは、子供達が大好きな冷やしキュウリを用意していた。
キュウリを食べ終えたところで、害鳥について話し始めるデメテル。
「最近、島の南側に住み着いた鳥でステュムパリデスという厄介な鳥なんだ。
行ったら分かると思うけど、戦闘型ではない私には手に負えないよ」
害鳥は昼夜問わず現れるらしい。
被害の出ている農地に向かうと、プティア王国軍の部隊が監視を行っていた。
皆、24時間体制の警備で疲労困憊だ。
視線の先には、翼開長6m程の巨大な怪鳥の群。
凡そ50羽の鳥は微動だにせず、高台から此方の動きを伺っている。
(でけぇ……うじゃうじゃ居る……)
赤く光る眼、青みがかった緑色の羽……
警戒中の兵士の話では、作物だけでなく人間も襲い、猛毒を含んだ糞を撒き散らすそうだ。
兵士達の装備は、弓や大砲等で魔導歩兵部隊は居ない。
「あの鳥には、魔法が通じないのです」
「えっ!?」
どうやら、羽に魔力を乱す効果がある様だ。
此方が飛び道具で仕掛けようとすれば飛び去ってしまい、弓撃や砲撃の射程圏外となる。
飛行して、直接叩きに行った事もあったそうだが、取り囲まれて返り討ちされたらしい。
空対空の戦闘は鳥の方が上手だろう。
ディオニスが矢を放つ素振りを見せると、怪鳥の群は一斉に飛び立ってしまった。
「仕留めるのが大変なだけで、鳥の戦闘力自体は大した事ないんじゃないか?」
飛行し、後を追うオリオン。
オリオンが弓や大砲の射程圏外に出た途端、鳥達は戦闘態勢に入り、一斉にオリオンに群がる。
「オリオン大丈夫かな……」
「大丈夫じゃなさそうですね」
(完全に包囲されてて、オリオンがどんな状況なのか全く分かりませんよ)
数分後、ボロボロになって帰って来たオリオンは、空対空戦闘訓練の必要性を説いた。
「……近寄るのはダメだ。マジでヤバい」
「うん、危ないのは見ててよくわかったよ」
「射程距離が長くて、発射速度の速い武器が必要ですね」
「一旦退却ね……」
子供達は、鳥退治の装備を手に入れるべく魔界へ向かった。
魔王軍の訓練施設がある森の街、そこで特殊部隊の育成に励むミダスの元を訪ねたのだ。
「よぉ!お前等よく来たな。何も言うな……分かってるぞ」
「えっ!?何で来たか知ってるの!?」
「あぁ、勿論だ。試練で躓いて俺様に泣きつきに来たんだろ?」
「「…………」」
近からず遠からずだが、ふくれる子供達。
「ミダスさん!プティア王国を助けるの手伝って!」
「……プティア王国か」
ミダスの表情が曇る。
プティア王国では、ミダスの評判は良くないのだ。
何せ、ミダスのおかげで数万の兵士が死亡し、王族達は各国に賠償金を支払う羽目になったのだから仕方無い。
「ミダス、名誉挽回のチャンスじゃねぇか?もう昔とは違うだろ?」
「…………」
ミダスは世界大戦が終わった後、禁錮1000年を言い渡され服役していた。
そんなある日。
魔王が訪れ、死地へ連れて行き家畜の如く使い潰したい罪人が居ると王族達に相談に来た。
その罪人とは、ミダスであった。
最初は断ったが、軽く暴行を加えられ二つ返事で快諾し、娑婆に出る事になったのだ。
当時、魔界のイメージは最悪だった。
魑魅魍魎が蠢く恐怖と絶望の暗黒世界、どうせ生きて帰って来ないと思われたのだろうか……ミダスは放免されたのだ。
出所の日に王族達に謝罪はしたものの、本心ではなかった。
魔王の元で人々の役に立つ仕事に従事し、少しづつ浄化されていく心。
そこに芽生え始めた罪の意識。
常に心の片隅に有り、決して消える事の無い痼。
「ったく……しょうがねぇな!!俺様に任せとけ!!」
「僕達は何したらいい!?」
「ミスリルを山盛り持って来い。いくらあっても困る事はねぇ。こっちは1ヶ月位掛かるから徹底的に集めろ」
「「はいっ!!」」
オリオンは、プティア王国に戻り農地の警戒に参加する事になり、他の3名はノームとミスリルを採る為に山へ入った。
順調に進む子供達だったが、問題は別の場所で発生していた。
アリスが暴れていたのだ。
「旦那様!何で私は手伝ったらダメなのっ!!」
「いや……アリスが行ったらプティア王国そのものが消し飛ぶから」
「もーー!!手加減したらいいんでしょ!?私は行ってくるっ!!」
「ダメ!黙って俺の傍に居ろ!居てください!お願いします!!」
「……はい//……でも、やっぱり少しだけ行ってくるっ!!」
「何でやねん!!」
(バハムートが現れたら、その時点で知性の無い魔物は逃げちゃうんだよ!!試練にならねぇよ!!)
「じゃあ私が!!」
「何でやねん!!ダメ!!」
(リリアも戦いに行こうとするとは……)
この件が終わるまで、俺は24時間体制で王妃を監視する事となる。
王妃を止められる者は、俺以外には居ないので一般の兵士は勿論、幹部達も我関せずを貫き通したのだった。
そして1ヶ月後。
再びミダスの元に集まった子供達。
採掘し、精錬したミスリルは凡そ5tだ。
「よく集めた。この後は、お前等にコイツの弾丸を作ってもらう」
ミダスが創っていたのは、ビトラス製の銃身を6本備えた”50口径魔導ガトリング砲”
見た目とサイズは、GAU-8 アヴェンジャーそのものだ。
スペックは、毎分12000発の連射性能を誇り、簡易の物理防御結界を張っている城塞程度なら秒で粉砕する。
それが、4基。
移動式地上運用型だ。
「すげー!」
「俺様は天才だからな」
有効射程距離は3km、最大射程距離20km。
毎分12000発の弾幕から逃れるのは不可能に近いだろう。
早速、弾丸の作成を始めるミダスと子供達。
またしても、魔力の枯渇と回復を繰り返しながら、毎日12時間みっちり弾丸作りに励んだ。
そして、2週間後。
ガトリング砲を輸送し、設置完了。
いよいよ鳥退治である。
見慣れない物体に警戒を強める鳥達は、農地から1km程離れた高台に群れている。
「いいか?本来は1基を3名で運用するが、お前達の魔力量なら2名で運用出来るだろう。
1人は魔力を供給しつつ弾の充填だ。もう1人は魔力を供給しつつブッ放す係だ」
「ちゃんと当てられるかな……」
「正確に狙う必要は無い。適当に撃ちまくれ」
銃身が回転し始め、配備された2基のガトリング砲が火を噴く。
銃身が回転し始めた瞬間、鳥達は一斉に飛び立ったが、最早手遅れ。
轟音と凄まじい反動に驚くも、子供達は撃ち続けた。
1分も経たないうちに、鳥達は粉々に吹き飛び海の藻屑と消えてしまった。
結局、撃ち漏らしは1羽のみ。
その1羽が戻って来る事はなく、無事に鳥退治は終了したのだった。
「どうだ?俺様の銃は最高だろ?」
「……うん」
(ミダスのヤバさが分かったよ、父さん)
撤収作業をしていると、王族達がやって来た。
「ミダス……見事、民の命と土地を守ってくれた。感謝する」
「……大した事ねぇよ。あんたらには散々迷惑掛けたからな、まだ返せたとは思ってねぇ」
「魔王様に託したのは正解だった様だ。
今後は、良い関係を築いていける未来が見えるぞ」
「あぁ、俺もそう在りたいと願ってる。
改めて謝罪させてくれ」
”すまなかった……”
不器用なミダスの精一杯の言葉だった。
この日を境に、ミダスと王国の関係が良い方向に向かって動き出したのだ。
その後、農業機械の開発依頼やメンテナンスの依頼が入るようになり、ミダスはプティア王国を訪れる機会が増えた。
そんな日々は、国民の心の蟠りを少しづつ消し去り、完全に馴染んだ頃、ミダスの心の痼も消えていたのであった。
第4の試練見事クリアである。
鳥退治を終え、再びマカリオス王国へやって来た子供達。
第5の試練は逃げた牝鹿の捕獲だが、アルトミアも手を焼く鹿に、子供達ももれなく翻弄される。