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第70話 不仲

魔界には平和な時間が流れていた。

異世界より降臨した魔王は創造神である邪神アンラ・マンユを、お前の作ったルールなど不要とばかりに、”殴り””蹴り”そして地に伏せた。

そんな魔王が治める世界で戦争など起こる訳も無く、ただ単に日照時間が極端に短く、悪魔が大勢暮らしているというだけの平和な世界となっていた。


精神生命体だった悪魔達は、その平和な世界で身体と仕事、そして”食事”を与えられ、”生きる喜び”を知ったのだ。

一見、平和そのものに見える魔界の城、その一室で歯車は狂い始めていた。


「旦那様!何でダメなの!?」

「だんな様!理解出来ませんわ!!」

「…………」


事の発端は、子供達の今後について夫婦で話をしていた時だ。

今年で、子供達は15歳の誕生日を迎える。


可愛い子には旅をさせよ。

世間知らず、井の中の蛙ではいけないのだ。

子供達が一回りも二回りも成長し立派な大人になる様にと、俺は心を鬼にして子供達に12の試練を課そうと提案したのだ。

地上世界の妃、ディーテ。

魔界の妃、アリス、リリア。

俺は3人の王妃に詳細を説明し、意見を求めた。

王妃達は、提案自体には賛成だったのだが……


「グルナ!辛い時は一時帰宅を認めてあげないと可哀想だぞ!」

「だんな様!ムックかシェイドを護衛としてつけてあげて!」

「護衛はダメ!子供達だけで乗り越えないと意味が無いだろ?」

(護衛を付けたら意味無いじゃん……そもそもシェイドは監視対象だし)


「「もーー!!分からず屋!!」」


試練を乗り越えるまで帰国させないとする俺の方針に対して、王妃達は激しく反発した。

そして、会話はおろか食事の用意もしてもらえなくなり、地上世界にも魔界にも俺の居場所は無くなってしまったのだ。

事情を知らない子供達とアザゼルだけが、俺の心の支えだ。


「グルナしゃま…けんかしちゃったのでしゅか?」

「うん、ちょっとな……ちゃんと仲直りするから心配するな」

「……」

(グルナしゃま、べっこり凹んでますのん……)

「グルナしゃま」

「ん?」

「わたちが一緒に居てあげますのん!//」


アザゼルは、居場所の無い俺をコンビニのバイトとして迎え入れてくれた。

社員の時給は銅貨16枚。しかし、魔王である俺の時給は銅貨5枚。


”……何故?”


しかしだ、朝昼晩にアザゼルのお手製弁当が無料で貰えるのだ。

最低賃金を割っていて、しかもオープンから閉店までのシフトが組まれているが何の不満も無い。


コンビニが休みの日は、子供達と朝から修行に励む。


……………………………………………………………



王妃達と仲直りする機会を伺いながら、数週間が過ぎた。

無視されているが、俺は王妃達が大好きだ。


”折れよう……”


そう思っていた俺の元に、アンラ・マンユがやって来た。


「魔王よ、久しいな。どうでもいい情報を持って来てやったぞ」

「あ?どうでもいい情報とか、どうでもいいから」

「……。まぁ聞けって」


アンラ・マンユの話を聞いた俺は歓喜に包まれた。


「これで仲直り出来る!!アンラ・マンユ様ありがとう!これからは神様として扱うよ!」

「はぁ!?今まではどういう扱いだったんだ!?」


コンビニのバイトが終わるのは夜だ。

閉店と同時に上がれる様に、俺は徹底的に品出しと前陳をし、清掃と現金棚卸を行い、閉店を待った。

閉店まで残り10分を切った時、ベレトが駆け込んで来た。


「ベレト、絶対に買い物はするな。早く帰りたいから」

「グルナ様!リリア様が連れ去られました!!」

「なっ!!」


城は大変な騒ぎになっていた。

シェイドもオロオロしていて、俺と目が合うなり飛び付いて来た。


「敵の姿を見た者は居るか?」

「グルナ様」


スキアが現れ、当時の様子を報告して来た。

彼の話では、突如空間に歪みが発生し、直後リリアが消えてしまったらしい。

城には索敵結界と侵入防止結界が張り巡らされており、外部の者が許可無く立ち入る事は不可能。

警備の兵士達は反応を察知したそうだが、それは敵の侵入では無く魔法が発動した事を察知出来ただけで、為す術はない。

索敵結界は城下町にも展開しているので、敵は内部の者か、城下町の外からリリアの居場所を正確に特定し、転移魔法を発動させた事になる。

仮に、外部から魔法を発動させたとしたら、相当な手練だ。


「ご主人様ー!リリア様の居場所の特定が出来たよ!ちゃんと成功したみたい!」


王妃達には、黒ムックの極小分裂体を共に行動させてある。

結界に阻まれ、かなり反応が弱くなっていたが、黒ムックは居場所の特定に成功した様だ。


”偶然か?それとも警告か……”


しかし、万が一の保険は効果を発揮した様だ。

万が一の保険とは、王妃達に渡してある指輪である。

抗魔法(レジスト)”の効果を付与した魔法具なのだ。

防御ではないものの、その身が危険に晒された場合、安全地帯へ転移する術式が施されている。その安全地帯はサタナス国の森の中に建設した避難所。

場所は限られた者しか知らない上に、対魔法・対物理の万能結界に隠匿魔法を組み合わせたものであり、魔法でありながら探知が難しい結界だ。


「リリアを迎えに行ってくる。お前達は警戒を怠るな」


しかし、相手は何者なのだろうか……

転移魔法自体がレアなのだ。

自分自身が転移するならまだしも、自分以外の……しかも特定の人、物を対象に接近することなく転移させる能力とは……

(ケンジを転移させた術式に近いのだろうか)


避難所に行くと、リリアは不安そうな顔で静かに待っていた。

一応、何か有れば避難所に転移する事は伝えてあったが、実際に起これば動揺もするだろう。


「だんな様!一体何があったのですか」

「何者かが、リリアを連れ去ろうとした様だ。阻止出来たとはいえ、不安な思いをさせてしまった事を不甲斐なく思っている」

「大丈夫……だんな様は必ず助けてくれるって信じてるから」


俺に駆け寄り、胸に顔を埋めるリリアを抱きしめつつも、俺は苛立っていた。

魔王城で喧嘩を売られたのだから。


城に戻り、対策を始めた。

幹部全員に”抗魔法(レジスト)”の術式を施した魔道具を装備させ、各都市に大規模な防御結界を構築した。

住民達が発する魔力で維持するので、俺は術式を構築するだけで負担は無い。

都市結界に”反魔法(カウンターマジック)”を組み込み、城自体にも”反魔法”を含む対策を施してあるが……

そもそも、敵が使用したのは相当に複雑な術式のはずであり、頻繁に使う事は出来ないだろう。

その予想通り、その後同じ様な事件は起こる事は無かった。


敵の正体が不明で、いつ行動を起こすか分からないが気にしてばかりいても仕方が無い。

子供達の件を進める事を伝え、クエストに帰国出来るものを組み込む事で了解を得たのだった。

子供達全員が誕生日を迎えた翌日、試練について話を始める魔王。

子供達は意気揚々と旅立つも、早速問題が発生してしまう……

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