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第69話 魔界産魔牛枝肉品評会

プロの方々、本来であれば共進会とするべきですが品評会としている事をお許しください。

遂に、後1週間後に魔牛枝肉品評会が行われる。

第3回である今回は、漸く素晴らしい魔牛が期待出来るだろう。

肥育日数36ヶ月齢。つまり、肥育日数が凡そ3年、生まれてから出荷まで4年程を要し、愛情を注ぎまくって育てられた魔牛なのだ。


今日も、王妃達と食肉加工場で見る目を養っているのである。


「だんな様、コレは抜けが悪そうですね」

「……うん、リリア鋭いな」


抜けが悪いとは、高級部位であるロースの霜降りが、頭側はいい感じの霜降り肉だが、お尻側に行くほど霜降りが弱くなっている状態だ。

徐々に品質が悪くなるので、詐欺にあった気分になる。

ロースの霜降り具合は、骨や脂が邪魔で見えないのは勿論、肉内部の状態なので目視出来ないが、様々なポイントから予測は出来る。

審査員も順調に育っている様で何よりだ。


因みに、最優秀賞以外は設定していない。

5つある牧場は、責任者が違うだけで主は同じ。0か100でいいのだ。

キロ単価が10倍程になる訳だが、ちゃんと働いている者達に還元する様、注文をつけている。

聞くと、最優秀賞の魔牛を出荷した牧場には臨時ボーナスが支給されるらしい。


「グルナよ!今年の出来はどうじゃ!?」

「フフッ、期待してていいぞ」


鼻息の荒いアルトミア……彼女は肉食なのだ。

アザゼルやディーテ、最近はリリアもだが、3名を見る時以外は、獲物を狙う猫科の猛獣の様な眼をしている。

絶世の美女なだけに、残念感は想像を絶する。

態度だけでは無い。好物は勿論


”肉”


不味い肉を与えると悪魔に成り、良い肉を与えるとアルトミアは天使に成る。

舌の肥えた狂気の女王……危険な相手だが、アルトミアに太鼓判を押してもらう事が出来れば、サタナス魔牛ブランドは知名度、ブランド価値共に跳ね上がるだろう。


「二言はあるまいな?期待を裏切る様な事があれば……分かっておろうな!!」

「勿論だ。だが、マカリオス王国に最優秀賞の魔牛オススメ部位を優先的に卸すんだ、期待以上だったら言う事聞いてもらうからな?

「ふん!せいぜい吟味するがいい」


とは言ったものの、魔牛は生き物なのだ。

当日まで結果は分からない上に、ランクが高ければ味も良いとは限らない。

言う事聞けとか言ってる時、冷や汗が流れたのはここだけの話だ。



……………………………………



品評会当日。


審査員は俺と魔界の王妃、そしてベレトと赤黒ムックだ。

朝霧が立ち込める中、全員白衣を装備して審査に臨む。

本日出品された枝肉は、20頭分。

その中から、最も肉質の優れた1頭を選ぶのだ。

枝肉は、約2t。

通常は、かなり良いもので1kg当たり銀貨2枚で買い上げているので、今回、最優秀賞に選ばれた魔牛は1kg当たり金貨1枚で買い取る。

日本円で1億円以上になるだろう。

購入資金は、スナック菓子工場で発生する俺の報酬全額と、王妃達が管理しているベーコンやチーズ工房での報酬だ。

嫌な顔ひとつせず、資金を提供してくれる王妃達には、最早感謝しかない。


「だんな様、今回は素晴らしいですね」

「旦那様、私も今回はかなり良いと思うよ!」


最終選考に残ったのは2頭。

何方も色、艶、張りは申し分無く、歩留りもいい。

しかし、2頭の違いは霜降りであった。

方や、会場が響めく程、見事に霜降りが入っている。

方や、一見すると霜降りが非常に弱い様に見えるが、目を凝らすとキメ細かな筋繊維の間に、同じくキメ細かな霜降りがしっかり入っている。

余りにもキメ細かな霜降りは、素人目にはランク下に見えてしまうだろう。


「では最終審査だ」


各々が、各項目に点数を付けていく。

会場に来ている牧場主は勿論、最終選考まで残った魔牛を輩出した牧場の責任者の表情にも緊張が漲っている。

牧場の責任者にしてみれば、これは宝くじの様な物だ。


審査の結果、得点は五分。

この場合、日本では枝肉重量で優劣が決まるが、此処は異世界。

テイスティングである。

よく、ランクは美味しさの基準ではないと言われる事がある。

例えピラミッドの頂点であっても……


”う~ん…美味しい!……?”


これではダメなのだ。

美味い方が勝って然り。

食す部分は、味が無いと云われるヒレ肉の端っこ。お尻に近い部分だ。

赤黒ムックは涎が滴り、ソワソワしている。

食べたくて仕方無いのだろう。とても可愛い。


一口大にカットされた肉は、AとBの表示のみ。


審査員は、単純に美味いと思った方に票を入れるのだが、此処でも割れてしまった場合、不本意だが重量で勝負が決まる。

試食を終え、投票の刻は目前。

しかし、俺は投票前に爆発寸前だ。


周囲に薄らと漂う威圧感


”おい、この魔牛育てたのは誰だ……”

(旦那様、落ち着いて……みんな怖がってるわ)


アリスの一言で正気に戻り鎮火したが、それ程に違いが有ったのだ。


違いと言っても、方や美味しく方や不味いと云う訳ではない。

間違いなく何方も美味しいのだが、美味しさの桁が違うと言ったら良いだろうか……味と食感が断トツに良かったのはAの皿だった。


そして投票。


ヒレ肉は、最も柔らかい肉だ。

食レポで一口食べ ”肉がとろけて消えてしまった”と言う表現を耳にするが、アレは言い過ぎだと、今まで思っていた。

噛み切るのが容易か否か……現に、口に含んだ瞬間消えて無くなる様な肉に出会った事など1度足りとも無かったのだ。


しかし


”遂に出会ってしまった……”


口に含み、そしてひと噛みした瞬間、肉の繊維がほぐれ、きめ細やかな繊維の間にびっしりと詰まり、繊細な霜降りと化していた良質な脂が溢れ出し、恰も自然の摂理の如く、喉の奥へと消えてしまったのだ。


結果は、Aの皿に6票。


文句無し、Aの魔牛が最優秀となり今年の品評会は終了した。

その日の夜は表彰式の後、盛大に宴が行われ

翌日からは、国内の精肉店で品評会に出品された魔牛肉が販売される。

とんでもない額で競り落とすが、精肉店での売価は変動しない。

隣国や地上世界からも客が訪れ、文字通り、あっという間に完売となった。


さらに翌日。


俺は最優秀賞の魔牛のヒレ肉とロースを届けに、狂気の女王が治める国、マカリオス王国へとやって来ていた。

自称”美食家”のアルトミア女王に献上するのだ。


「並の品質だった時は……分かっておろうな!!裸に剥いてサタナス国の広場で晒しものにしてくれようぞ!!」

「落ち着けよ。今回は自信がある」


こんな事を言ってはいるが、アルトミアは楽しみで仕方無いのだ。

ナイフとフォークが曲がる程握り締めるアルトミアは、爆発する事なく肉を待ち続けた。


「お待たせしました」


アルトミアの前に、レアに仕上げられたヒレステーキが運ばれて来た。

味付けは、別途用意された岩塩のみ。

目を閉じ、大丈夫かと心配になるほど大ぶりにカットしたステーキを口へ運ぶアルトミア。


(なっ……何じゃこの肉は……!!?)


その後も無言で肉を頬張り、凡そ450gのステーキを5分も掛からずに完食したアルトミアの表情は幸福感に満たされていた。


「良い肉じゃ。褒めて遣わすぞ……じゃ!」

「じゃ!じゃねぇよ。約束通り言う事きいてもらうぞ。クククッ」


血の気が引き、青褪めた表情のアルトミア。


”どうな要求をされるのだろうか”


思考を巡らせるアルトミアは、必死の抵抗を試みる。

何せ、相手は魔界の王なのだ。


「貴様ッ!妾は貴様の義姉ぞ!!身体は許しても心までは渡さぬぞ!!」

「…………」

(どっちも要らねぇよ……)


「アルトミアよ、その美しさからは想像もつかぬ実年齢を公開せよ」

「なっ!?」

「クククッ、魔王アルトミアよ、出来ぬか?ん?」

「くっ……!殺せ!!」


くっコロさんになってしまったので、冗談は終了である。


「冗談だ。サタナス牛は最高級の肉だと太鼓判を押してほしい」

「…………それで良いのか!?」

「それだけでいいよ。ハンドビラとか作るから名前貸してね」

「身体は!?妾の身体が目的では無いのか!?妾を愛人にしたいのではないのかっ!!!」

「要らねぇよっっ!!」

(コイツは俺の事を何だと思ってんだ?)


俺のイメージがおかしい……

これも一夫多妻制の副作用的なものなのだろうか。

解せん。


足早にマカリオス王国を後にした俺は、地上世界の王族達に肉を配達し、何とも言えない気分のまま、地上世界の妻の元へ向かったのであった。

平和な時間が流れていたサタナス国。しかし、魔の手は忍び寄っていた。

次話、王妃の身に悲劇が起こる。

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