第6話 国を近代化しよう!其の壱
城の建設も終わり、入浴券に代わる通貨の導入も周辺国に伝えた。
次は店だが、先ずは魔界で調達出来る原料を調べなくてはならない。
ベレト達に聞いてみる事にした。
「あの美味しい料理の材料がその辺に有るんですか!?」
「………………」
早速、調査開始だ。
馬なども発見出来ていないので、アザゼルから習った重力操作を使い飛行しながら探すしかないのだが、かなり広いので丁度いい。
広い領土には平野は勿論、山や湖、森林など何でもあるのだ。
ちなみに、一般の悪魔達は羽を使って空を飛んでいる。重力操作は少しチートらしい。
調査開始から直ぐに、生命体を発見した。
森の国でお馴染みの魔牛である。
何処にでも居るなと思ったが、近くに行くと様子が少し違う。
動きが遅いのだ。この世界を支配している悪魔達は魔牛の存在等どうでもいい。つまり、魔牛は天敵が殆ど居ない生活に慣れ、素早い動きをする必要がなかったのだろう。
そのせいかは分からないが、かなり大柄だ。
森の国の魔牛で1~1.5t位なのだが、魔界の魔牛は3t以上ありそうだ。
次は湖だ。
湖の水質は、普通に透明度の高い水であった。
早速、釣りを始めたが生け簀並に当たりが来るのだ。非常に楽しい。
釣れる魚はどれも大きく、しかも鋭い歯が生えている…とても凶暴そうだ。
鑑定眼で見てみると、食用可と出ている。まぁ食べる時には元の見た目など分からないのだ。早速刺身にしてみたが、泥臭さは一切無く美味しい魚だった。
湖で釣れたのは魚だけではなく、大きい海老も釣れた。
伊勢海老の様な見た目だが、サイズは30倍程だ。持って帰って天ぷらにしよう。
他にも、森では果物やスパイスとして使えそうな実など結構色々見つける事が出来た。
森の国から呼んでいたゴブリンのトムに見てもらい、畑で育てる野菜を決めてもらったのだ。
ちなみに、トムは俺が転生して国を興す前からの付き合いだ。
森の国が出来てからは農業に従事し、農務長官として、今も頑張ってもらっている。
護衛として来てもらっているオーガ族のみんなに魔牛をハンティングして来てもらい、解体作業を行う。
焼肉上級者の俺は、常に捌き包丁、筋引き包丁、平切り包丁を空間収納に忍ばせているのだ。かなり大きいので苦労したが、無事に部分肉に分解し、更にステーキや焼肉用の肉に切り分ける。
採れる肉の量も凄かったが、一番驚いたのは肉質だ。松阪牛と比較しても遜色ない程の見事な霜降り肉だったのだ。
A‐5ランク…天然ものとは思えない品質である。
受肉した住民達も呼んで、バーベキューだ。
食べてみると、期待を裏切らない美味さだった。甘みのある脂と肉自体の味もしっかりしている。そして、美しい霜降り肉は口の中でトロけ消えていくのだ。
ふと横を見ると、ステーキを食べていたアザゼルは震えていた。
「グルナしゃま…」
「ん?どうした?美味しくなかった?」
「…口の中でお肉が消えてしまいまちた…こんな食材が地元にあるなんて知りませんでちた…」
大丈夫。俺も含めて、みんな初めて知ったところだ。
ついでに海老も食べてみた。大きいので、焼き用と刺身にして試食する。
「プリプリですのん!//おいちぃですのん!!//」
アザゼルは大はしゃぎだ。
住民達も気に入った様で、サタナス国の今後の発展を期待する声が多く聞こえた。
こうなってくると、早く店をオープンさせたくなるが、時期尚早だ。
この国…と言うか、魔界にはお金が無いのだ。
内需も育てなくてはいけないが、異世界との取引もしたい。
とにかく、お金の原料を手に入れよう。
俺はノームにお願いして、金、銀、銅の鉱脈と”ある”物を探し始めたのだった。
………………………………………
1ヶ月後
無事に貨幣の原料を手に入れた俺は、ドワーフの国に来ていた。目的は勿論、お金の製造を依頼する為である。
今回、用意したのは金30t、銀40t、銅60tだ。
金は柔らかいので合金にした方がいいかと思っていたが、偽造防止と破損防止の術式が施されるので問題無いそうだ。原料は1枚5gの貨幣に加工される。出来上がった総量の中から金貨は0.05%、銀貨と銅貨0.2%が手数料として差し引かれるのだ。
当分の間、繰り返し納品しなくてはならない。是非、造幣技術を開示してもらいたいものだ。
魔界に帰る前に、ミダスの所に寄って研究の進捗を確認しよう。
「どんな感じだ?」
「俺を誰だと思ってんだ?ラクショーだよラクショー!だが、試運転はしたいな」
「そうだな。原料を手配しよう」
「待て、その美人は何なんだ?まさか新しい嫁さんか?」
「妻だなんて…//」
「俺の秘書だ。羨ましいか?」
「ケッ!」
羨ましい様だ。
ミダスは、態度は悪いが頼りになる。
日本からの転生者であるミダスは、俺が作ってもらいたい物のイメージを直ぐに理解してくれるのだ。
そして、ミダスの固有スキル”製作者”は金属を自由自在に加工する。
魔界に戻った俺は、配下の悪魔達を集め会議を行った。
「物の加工が得意な者を探してるんだが、心当たりは無いか?」
「得意ですー!」
唯一の獣型配下、フルフルである。
早速、ノームに頼んでおいたアルミのインゴットを持ってきてもらい、薄く延ばしてもらう。出来るなら、厚さは0.025mmがいいができるのだろうか。
「簡単ですー!」
「0.025mmだ、頼むぞ」
フルフルの魔法は、みるみるインゴットを延ばし、見事に0.025mmに仕上げたのだ。
素晴らしい…
それを袋に加工してもらい、調査で見つけた謎の木の樹液を内側に塗る。
この樹液は乾燥が早く、乾くと合成樹脂フィルムの様になるのだ。
これで撥液効果もあるアルミ袋の完成である。
ちなみに、ノームに準備してもらったアルミのインゴットは1t。これを伸ばし、樹液を塗りながら棒に巻き付けてもらったのだが、フルフルは5分程で終わらせてしまった…悪魔は魔法が得意なのだろうか。
それを持って、再びミダスの所へ。
そう、ミダスに作らせていたのは自動充填包装機である。
魔界は好き勝手にすると心に決めていた俺は、最初に転生した世界とは別世界にしようと思っていたのだ。
試運転で包装するのは、ポテトチップスだ。
「おい、グルナ。
その美人は何なんだ?」
「俺の秘書だって言ったろ。絶対にセクハラすんなよ?」
「しねぇよ。
しかし、グルナよ。俺は、この世界で”あの”袋に入ったポテトチップスを拝めるとは夢にも思わなかったぞ」
「ミダス、落ち着け。先ずは試運転だ」
結果は、大成功だった。
これに気を良くしたミダスは、食品接触可の紙を使った簡易包装をする機械や真空包装のレトルトパウチ製品の包装機などを作り始めたのだった。
今の時点では、味気無い銀のパッケージなので良いデザインを転写する人材や、内容物を製造する人材を育てなくてはならない。
やる事は多いが、今後の展開が非常に楽しみになったのである。