第55話 不妊症?
新設部隊はミダスが頑張って育てているので放置だ。
人数は少ないが、半年毎に隊員は増えていくと思うので楽しみなのである。
街の方も順調そのもの。
店舗の営業もスタートし、森に住んでいた悪魔達は軍の施設で食事の用意や清掃等をしてもらい生活している。
楽しみの一つである牧場も、約束通りゲージフリーでのびのびと動物達を飼育しているのだ。
兵士が常時10,000名、本国からの移住が約8,000名、森に住んでいた悪魔達が5,000名……
森に住んでいた悪魔達は、まだまだ増えるだろう。
追加の居住地も完成し、しっかりめの街になっていた。
施設に常駐する者の中から、街の統治者を選ぶ予定だったが、忙しかったので先送りしていたのだが、選定は意外と急務だったようだ。
立候補させるのもいいかも知れないが、今回は任命する事にしよう。
俺は一先ず国に戻ったのだった。
………………………………
森の街は順調だったが、俺のプライベートは問題が発生していた。
「旦那様……」
「だんな様……」
王妃達は時間差で、俺に話をしに来た。
その内容は……
”一向に懐妊しないのですが……”
であった。
そんな馬鹿な……
しかし、ショックだ。何やかんやと数ヶ月間、精も根も尽き果てる程頑張ったのに……結果が伴わないとは。
不妊?
確率で言えば、間違いなく俺に問題がある事になる。
これは、婿養子ならケチョンケチョンに罵倒されるパターンな訳だが、幸いにも俺は嫁をもらった側なので、とりあえずは生きていられる。
だが、王妃達から”種無し役立たず野郎”の烙印を押されてしまうのは、死よりも辛いだろう。耐えられん。
そこで俺は、森の国へ向かった。
「ん?グルナおかえり!どうしたんだ?今日は魔界で過ごす日だろ?」
「ちょっと聞きたい事があるんだ。体調はどうだ?」
「……体調はいいぞ?でも……」
「……でも?」
「出来ちゃったみたい……//」
キターーーーーー!!色んな意味ですげー嬉しいんだが!!
ディーテは(恐らく)御懐妊である。
護衛だ……徹底的に守らせなくてはならん。
すぐに専属の護衛部隊が編成され、身の安全は確保された。
俺は赤飯を作りながら考えていた。
ディーテが御懐妊という事は、俺が種無し役立たず野郎ではない証拠だ。
しかし、魔界の王妃は2人共まだ音沙汰無し……
2人とも不妊症とかあるか?
可能性は無くはないが、かなり低いだろう……
では、原因は?
俺の思考は出口の無いトンネルの中を彷徨い続けていた。
「グルナ、月の神殿で聞いてきたらどうだ?」
「そうか!その手があったか!」
俺は、神々の住む月の神殿へ向かった。
……………………………………
旦那様は、地上世界へ行ってしまった。
さっきの話を気にしているのだろうか……
リリア様と考えていたら、ディーテ様が来た。
「こんにちは!」
「こんにちはディーテ様。物々しいですね」
「強制的にな」
セレネにカラ、神獣にも匹敵する強力な魔物を創り出すエキドナ。
それに巨神族まで護衛に付いているなんて……地上世界の戦力はどうなっているのか。
「もしかして……」
「そう、身篭ってしまった」
「おめでとうございます。羨ましいです」
「ありがとう。その事でグルナが悩んでたから、月の神殿へ向かわせたぞ」
「天空神の処へ?」
今日、ディーテ様が来たのは報告では無かった。研究の進捗を確認しに来たのだ。
私達3名の王妃達は、旦那様が1人になりたい時もあるだろうと思い、その時は1人にしてあげると決めていたのだ。
しかし、心配なのは皆同じ。
私達は、こっそり旦那様から黒ムック本体を奪い取った。
黒ムックは時空を司る闇の最上位精霊。
全ての”時”と”場所”に繋がるのだ。
私達は、黒ムックを捕まえても時と世界を超越する事は出来ないが、それを見る事は出来る。
黒ムックGPS探知機である。
魔力とゴハンを対価に、星の模型を作ってもらい旦那様の居場所を高精度で特定する。
旦那様は、一緒に居る黒ムックを本体だと思っているが、実は分裂体(発信機)なのだ。
私達の部屋は、旦那様は立ち入り禁止。
監視室だからだ。
「王妃様!ご主人様は神界に着いたよ♪」
星地図上では神殿がある部分が光っている。
何処で何をしているか筒抜けなのだ//
素晴らしい//
「便利だな!//」
「ディーテ様用の星地図も出来ましたよ//」
「すごいタイミングでゴハンの用意できるな!便利すぎる//」
「だんな様の移動経路も分かるんですね//」
私達がこんな事をしているのが知れたら……
3人のドキドキは止まらない。
…………………………………
月の神殿。
俺は、天空神ゼウスに会いに神界へ転移していた。
何故、魔界の王妃達は懐妊しないのかという謎を解明する為だ。
「おいーすっ!久しぶりだな分身よ!」
(うふっ……酒臭ぇ……)
天空の神々は宴会が大好きだ。
今日も朝から楽しんでいたそうだ。
「久しぶり、聞きたい事があって来たんだ」
「魔界の王妃の件だろ?まぁ座れよ」
流石は神様。お見通しだ。
超強力な個体であり、”美しすぎる支配者”として有名だったバハムートと、突如現れた超美人悪魔を嫁にしたと、結構前から神界では噂になっていたそうだ。
「ディーテは身篭ったが、魔界の王妃達は音沙汰無いんだよ……」
「そんなの当たり前だろ」
「え?」
神様曰く、ディーテは女神であり人種違いの様なものらしいが、魔界の王妃達は違うと言うのだ。
アリスは幻獣、リリアは悪魔。
分かりやすく言えば、地球人と宇宙人ぐらい種類が違うらしく、そんな別物同士が一般的な方法で子供を作る事は不可能らしい。
まぁ、納得だ。
「お前は世の男共全員を敵に回してもおかしくない程の女性を妻にしてるんだ!贅沢言うな!」
「えー!何とかならないのかよ!困ってんだよ!!」
「コウノトリが運んでくるのを待て」
「…………」
酔っ払いでは話にならん。今日は帰ろう。
素面の時に、もう一度話をしに来よう。
「方法は無い訳ではないが……」
「あるの?」
「かなり疲れるぞ?死ぬかも知れん。
方法は、掌に自分自身を創り出すイメージで全魔力を集中させ”種”を作る」
集中させた魔力は、小さな飴玉の様な丸い塊になった。
消耗した魔力は99.9%。
死ぬ寸前だ。
「……マジか、冗談抜きに死にそうだ」
「それは、お前の個人情報の結晶だ。
女性にそれを飲ませ、相手の同意があれば身篭る」
「分かった……ありがとう。少し休ませてくれ」
ムックに伝言を頼んだ直後、俺は意識を失ってしまった。