第53話 ニーズヘッグ 花嫁になる
翌朝。
ムックから連絡があった。
「ご主人様ー!メリアちゃんが地上世界に来るよー!」
「え?すぐ?1人?」
「すぐ来ると思うよー!パーシス様と一緒にー」
俺は、城ではなく洞窟教会に居たのだ。
だが、パーシスと一緒ならサプライズを用意しなくてはなるまい!!
俺のチンケなドS心に火がついた。
早速、アレスに連絡し数名の部下と共に、洞窟教会に来てもらったのだ。
フル装備(ショッカーマスク・迷彩服・ミリタリーブーツ・ケツしばき棒)で。
「グルナ様!また任務ですか!?」
「いや、任務と言うかサプライズだ。パーシスが来るから、俺が合図したら襲い掛かるだけだ」
「…………グルナ様、我々は生きて帰れるんですか?」
「大丈夫だろ、流石に殺しはしないと思うよ」
「…………これより1時間程、グルナ様の指揮権を剥奪します!」
「えっ!?なんでだ!!」
部下を総動員して俺を拘束しようとするアレス。
捕まるまいと逃げる俺。
流石に魔王パーシスの相手はキツかったみたいだ。
そんなアホな事をしていると、パーシスとメリアの気配を探知した。
「おい!来たぞ!配置に付け!!」
「くっ!」
渋々隠れるアレス達。
何事も無かったかの様に振る舞う俺の頭の中は、巡りに巡っていた。
おい!コイツ、指名したら本気で売上取りに来たぞ!どうなってんだ!!とか言われたらどうしよう……
コイツの真の姿は何でこんなにチンチクリンなんだよ!金返せ!!とか言われたらどうしよう……
実は、酔った勢いで……孕ませちまったんだ……すまん。とか言われたら……
どうしよう!!!
遂に、目の前に来たパーシス。
何も言わずに突如、土下座したのだった。
(え?土下座?)
「グルナ!メリアを俺にくれっ!!」
何だよ……そっちかよ。
何故か安心した俺の脳裏には、2つの選択肢が浮かんだ。
優先度が高いのは……こっちだ!!
「貴様に娘はやらんっ!!帰れっ!!」
俺は、魂のメンチ切りをしながら言い放った。
土下座する魔王兼国王に言い放ってやったのだ。
ディーテは笑いそうになっているが、止めることは無い。
俺の事を注意出来ない過去が有るからだ。
そして、襲撃の合図である”デデ~ン”を言おうとした時、一気に形勢逆転される事になる。
「メリアに2度と会えなくなるぞ。いいのか?」
(え?それはダメだよ?)
「お前はメリアに嫌われたかも知れん。まだ間に合うぞ」
(…………)
「ショッカーマスクが潜んでいるな……命の保証は出来んぞ」
(バレてた!)
メリアは問題児だが、かわいいのだ……
会えなくなるのは困るので、認めよう。
「もー!分かったよ!お前達の結婚を認める!メリア!お前との絆は解除する!今後はパーシスの妃として生きろ!」
その言葉を聞き、パーシスに抱きつくメリア。
その姿は、誰がどう見ても、恋する美しい乙女だった。
………………………………………………
1ヶ月後。
2人は、森の国の洞窟教会で式を挙げた。
刹那の仕立てたドレス。
すこし伸びた髪。
そこに居たのは、中性的なメリアではなかった。
わんぱくな性格の方が偽りの性格だったのかと思うほど、女性らしい仕草や表情を見せるメリア。
でも、どちらが本当の性格だとしても、あの幸せそうな顔を見たらどうでも良くなってしまう。
「メリア可愛かったな」
「あぁ、可愛かったな」
会場には、俺の妻が3名揃っているのだが俺的には、どうでもよかった。
と言うか、そこに頭は回らなかった。
俺が考えていたのは、娘を嫁に出す父親の気分とは、今の気分に近いのだろうか……という事。
もし、アザゼルが彼氏を連れて来たら……俺はどうなってしまうのだろうか。
アザゼルを嫁に出したくない気持ちと、アザゼルに嫌われたくない気持ち。
その葛藤は、俺を禿げさせるだろう。
考えたら、涙が出て来た。
「なぁ、グルナ。刹那の護衛凄くないか?」
「え?護衛?」
刹那の護衛は、一般の兵士ではなくケルベロスとオルトロスのみで編制されていたのだ。
因みに、ケルベロスとオルトロスはヘルモス王国の特殊部隊である。
勿論、横には魔王オルフェも居る。
(おそロシア……誰も近寄れねぇよ……)
ケルベロスにこっそり聞いてみることにした。
(なぁ、ケルベロス?何でこんなに厳重なの?)
(グルナ様、お久しぶりです。御本人達から直接お聞き下さい)
聞くと、刹那が御懐妊されたそうだ。
なんと目出度い……
メリアが結婚し、刹那が懐妊とは。
「お祝いしなきゃな!…………」
振り向くと、そこには6つの光が薄らと光っていた。
紫の光、赤い光、青い光……
「…ど…どうした?俺、何か不味い事言っちゃった?」
「グルナ、私達もそろそろじゃないか?」
「旦那様、そろそろだと思うよ!待ってる!//」
「だんな様、私は何時でも大丈夫ですよ!(今すぐでも!)」
「…………」
もしかして、これは一番厄介な案件ではなかろうか……
3名中誰も懐妊しない=永久に迫られ続ける。
3名中2名が懐妊する=1名との仲が非常に険悪になる。最悪離婚も有り得る。
3名中1名が懐妊する=2名は嫉妬し険悪になる。居場所がなくなり、最悪離婚も有り得る。
3名中3名が懐妊する=平穏な日々が維持される可能性が最も高い。(しかし、懐妊発覚の順番を考慮しなくてはならない)
……バカか、無理だろ。
ほぼ同時とかになったら、俺は誰と一緒に居たらいいんだ!?みんな大切な妻だぞ?
しかも、魔界では事に及んでいないのだ。
”克己心”
そう、己に勝つのだ。
すまない、嘘だ。
一緒に寝てはいるものの、ディーテに申し訳なくて、魔界の王妃達との夜の営みは無いのだ。
Aまでだ。
もう一度言う、Aまでだ。
信じて欲しい。俺は何もやっていない。
数日は地上世界で過ごし魔界に帰るのだが……
とても心配になって来たのである。