第49話 魔王直伝!ケンカ道場!
ある日。
「グルナ。噂の会員制のクラブに連れて行ってくれ!お前の金で!」
「俺の金かよ!!」
パーシスである。
たまには店の売上に貢献するのもいいだろう。
面子は、パーシス、オルフェ、オルガ、アレスだ。
俺は黒服に日程を伝え、メリアを付けるように頼んだ。
全員国王だ。
実はアレスは国王だったりする。アレス国という地図にも載らない様な小国の国王なのだ。森の国 ネモフィラ連邦国に加盟している。
その昔、森の国へ喧嘩を売りに来たのでボコボコにしてやったが、今では頼りになる部下の1人だ。
あまり飲みに行くイメージの無いアレスをどうやって誘おうかと思ったが、いいタイミングで任務があるので参加してくれるだろう。
…………………………………
「アレス、お前に頼みたい任務がある」
アレスの背筋に冷たい汗が流れた。
「内容を伺ってもいいですか?」
「今回も魔界での任務だ。なぁに簡単な任務だ」
「グルナ様は、アレス様を優秀な戦士だと仰っていました」
「俺に務まるでしょうか……」
「アレス……目の前の漢が野生のライオンかどうかは目を見れば分かる……お前にしか頼めねぇよ……」
アレスは戸惑っていた。
前回の模擬コンビニ強盗では、お叱りを受け、理不尽にもケツをシバかれた。
その後、1週間は痛すぎて椅子に座るのが怖くなってしまった。
ゴクリ……
「分かりました……」
「流石だ。日程は後日ムックに連絡させる」
俺だったら……絶対に断る!!
そんな事を考えながら、魔界に帰った。
数日後、任務の前にみんなで飲みに行った。
メリアは順調に顧客を増やし、No.1になったりならなかったりの状態だ。
出勤日数が増えたら、確実にNo.1だろうが、メリアは多くても4日程しか店に行かない。
基本3日だ。
俺達が店に入ると、メリアが付いてくれた。
普段のワンパクなメリアは鳴りを潜め、大人な気の利く優しい女性になっている。
この立ち振る舞いが自然に出来のであれば、メリアの本当の姿は一体……
気になるが、俺はメリアだと知らない設定だ。
必要以上に絡む事はない。
店を出る時、パーシスと2人で何か話している。
それも気になるが、敢えて聞かないのだ。
………………………………………
翌朝。
アレス以外は地上世界に帰り、いよいよ任務だ。
「グルナ様、そろそろ任務の内容を……」
今回の任務は、潜入捜査である。
サタナス国は、かなり整って来たので周辺国の支援を始めている。
各国には独自の発展をして欲しいので口出ししていなかったが……最近、妙な噂を耳にした。
”魔王直伝!ケンカ道場!”
これが、パズズ国に有るらしいのだ。
詳しい業務内容は不明だが、俺の名前を勝手に騙って商売しているとなると、内容によっては止めさせなくてはならない。
客を装い、アレスに内容を確認して来てもらうのだ。
姿を消した黒ムックも同行する。
俺はムックと視界を共有出来るので、遠隔でアレスに指示を出せる。
パズズ城の近くに、その道場は有った。
”最強への最短ルート!やるしかない!!”
バカな看板がそこら中に立っている。
料金は30分のレッスンで、銀貨5枚。
日本円で25,000円程。
カタギの商売ではないだろう。
「アレス、早速入店だ」
「了解」
道場に入ると、待っていたのはパズズだった。
「いらっしゃい。私が道場の師範、パズズだ」
「本当に強くなれるんですか?」
「勿論だとも。魔王様から免許皆伝を頂いた儂が教えるのだ。安心して任せるがいい」
料金は前払い制。
胡散臭いので拒むと、5分の無料お試しレッスンを勧めて来た。
(グルナ様、どうします?)
(受けてみよう)
アレスは無料レッスンを受ける事に。
「目を閉じ、身体の力を限界まで抜くのだ。攻撃が来るから気配を感じ、躱すのだ。最初は難しいが何度も通えば会得出来るぞ」
「よろしくお願いします!」
(アレス、反応せず様子を伺え)
(了解)
目を閉じ、気配を探るフリをするアレスを、パズズの打撃は容赦無く襲った。
「グフッ!」
パズズの全力の打撃は、水月へ。
そして、苦しむアレスへ追撃の肩パン!
「最初は、皆そうなるが心配無いぞ?通い続ければ全てを躱す事が可能じゃ!」
そう言うと、パズズは目を閉じたアレスをボコボコに殴り始めた。
これはヤバいかも知れない。
パズズがだ。
(グルナ様。違う意味で、もう……限界です)
(潜入捜査は終了する。対象を破壊せよ)
(了解ッ!!)
アレスは、目を閉じたままパズズの手を掴み取り、銀貨5枚を渡す。
驚くパズズに、アレスは詰め寄るのだ。
「これで30分間正規のレッスンだな?もっと教えてくれよ……オッサン」
「今日はもう閉店じゃ!また明日来るのじゃ!!」
パズズは怯えていた。
相手は、目を閉じて気配だけで動いているのだから。
「お前は気配を感じているではないか!
レッスンは不要じゃ!!
そんなレベルの成人男性を教えられる訳がないだろ!!」
銀貨の受け取りを拒否するパズズに、アレスは無理矢理銀貨を渡し、殴り始めた。
魔王様に憧れるチビッ子達が詐欺被害に遭わないように……徹底的に殴った。
30分間、アレスは腕が上がらなくなるまで徹底的にパズズを殴った。
そして、道場の看板を回収して来たのであった。