第47話 会員制高級クラブ 2
オープン2日前。
その日は、国の幹部や森の国から来てくれている者達を招待してプレオープンだ。
恐らく、来店する可能性が0の王妃達も良い機会なので参加してもらった。
店の入口は2箇所。
1つは城の隠し扉から行き来出来る。
もう1つは、歓楽街の路地を進むと現れる正面入口だが、高めの塀に囲まれ中を窺い知る事は出来ない。
塀から店までの通路入口には、黒いスーツを着た屈強そうなSPモドキが立っており、一般客は門前払いされるのだ。
店内は黒を基調とし、シャンデリアと間接照明でラグジュアリーな雰囲気を演出している。
紹介以外は入店出来ない高級店なので軽装はNGだ。まぁ無いと思うが軽装で来店した客用に着替えを準備してある。
指名しない限りは、黒服が客の雰囲気を見て付ける女の子を決める。
因みに、指名料は無料だ。
ホステスの飲み物は、基本的には客が入れたボトルを一緒に頂く事になる。
万が一、それが苦手な酒だった場合は、違う飲み物をおねだりされるのだが料金は客持ちなのは言うまでもない。
食べ物はチョコやナッツ、フルーツ盛合せ以外に出前も取れる。
他の客の迷惑になるので、匂いのキツい物はお断りされるが、そうでなければ意外と自由度は高い。
時間は90分以降が延長となるが、客が何も言わなければ自動で延長される。
客が楽しい時間を過ごしている時に、黒服が雑音を入れてくる事は無いのだ。
始まって1時間程過ぎたが、特に問題は発生していない。
王妃に付いたホステスは緊張している様だが。
傍から見ていると不思議な光景だ。
俺の横にアリスとリリアがやって来た。
超高級クラブに夫婦で来るシチュエーション等無いだろう。
とても新鮮だ。
両サイドに居るのは自分の妻な訳だが、此処は高級クラブで……
高級クラブなのに、両サイドを美しい自分の妻に囲まれた俺は無駄に混乱し、何がどうなってるのか分からなくなった事で、更に何がどうなってるのかサッパリ分からなくなってしまった。
馬鹿である。
「旦那様?何でメリアが働いてるの?」
アリスは普通に気が付いてしまったか……
採用はしたが、その目的は分からないままなのだ。
俺的には、単なる社会勉強だろうと思っているのだが。
「目的は分からないけど……多分、メリアは気付かれてないと思っている。暫く様子を見守ろう」
「フフッ。メリアは色々な経験をしたいのでしょうね//」
俺達は見守る事にしたのだ。
ベレト達は自分が飲んでいる酒の値段に驚くも、此処ぞとばかりに楽しんでいた。
中でも1番楽しんでいたのはフルフルだ。
唯一の獣型であるフルフルは、その見た目を活かし女の子の膝の上に座り、酒を飲ませてもらったりフルーツを”あーん”してもらったりと存分に楽しんでいた。
「グルナ様!会員になるにはどうしたらいいんですか!?」
常連1名ゲットである。
フルフルは国の幹部なので自由に来店出来るのだ。
報酬は、それなりの額を払っているが自腹で来店したら我に返るはずだ。
今、席に着いて2時間程だが、飲みまくり食べまくっていたフルフルの会計は日本円で40万近くになっているだろう。
控え目に遊んでくれることを切に願う。
プレオープンは大きな問題も無く、無事に終わった。
みんな気遣いや立ち振る舞いも問題無しだ。
中でも、1番評価が高かったのはメリアだ。
まさかの結果だが、1番居心地がいいと感じたと、皆、口を揃えて言うので間違いないだろう。
普段がわんぱくなメリアだけに、その評価は俺の印象に残った。
オープンしたら、店に黒ムックを配置しようと思っている。
黒ムックとは、以前天空の神々の神殿に行った時に貰った精霊なのだ。
普通のムックは赤い毛に覆われた炎の最上位精霊だが、黒ムックは黒い毛に覆われた闇属性の最上位精霊だ。
紳士ばかりが訪れる予定だが、稀にセクハラする客が来る可能性も無くはない。
黒ムックは姿を消す事も出来るので、そういう客の監視用に最適だ。
目を凝らすと黒いソファーの隅に居たりするかも知れない。
オープンから1ヶ月後。
各国の王族や豪商が顧客な訳だが、かなり満足度は高かった様だ。
店は繁盛している。
メリアは出勤日数は少ないが、順調に顧客を増やしていた。
恐らく、1年も経たないうちに不動のNo.1ホステスになってしまうだろう。
店を辞める気配も無く、目的も不明……そして、気の所為かも知れないが、夜の仕事を始めたメリアは少し不安定になった様な気がした。
眠いとかではない様だが……
ふとした瞬間に、心ここに在らず状態になると言うか……
黒ムックの報告では、熾烈な虐めがある訳では無さそうなのだ。
まぁ、本気で怒ったら店は潰れてしまうだろう。勿論、文字通りの意味で。
定期的に店に行って、直に様子を見るとしよう。
俺は気にしつつも、街の開発を進めるのであった。
……………………………………
魔界には2人の王妃が居るのだが、日中は意外と問題無い事に気が付いた。
逆に、とても協力的なので非常に助かるのだ。
日々、魔界の名物を開発しようと試行錯誤しているのだが、それだけではなく既存の商品のリニューアルもやって行きたい。
販売したら終わりではいけない。
品質の向上を怠ると客は離れてしまうのだ。
今日はリリアと一緒に過ごす日。
彼女達の一言から意外なアイデアを得られる事は多々ある。
「だんな様、美味しいベーコンを作りたいです//」
「ベーコン?」
「はい♪Lサンドのリニューアルもしたいので♪」
「それはいい!よし!肉屋に行こう!」
俺は目利きだ。
しかし、買ったのは特に厳選した訳ではない魔豚のバラ肉。
選ぼうと思ったら、リリアは”味付けで美味しいの作りたいから選ばなくていい”と言ったのだ。
確かに……サンドの品質向上を兼ねているのだ。厳選は出来ないだろう。
城に帰ると、アリスも参戦し早速試作が始まった。
何とも美味しそうな燻製の香り……
楽しみだ。
「だんな様、明日の夕食を楽しみにしててくださいね//」
楽しみにしてますとも!