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第42話 2人の心

城に帰るまで、所々だが覚えている。

頬に触れる髪の感覚、優しく懐かしい香り……

そう、俺は横に……確かに芽生の存在を感じていた。


次に意識が戻ると、俺はベッドで横になっていた。

部屋に、誰かが居る。

ぼやける視界に、1人の女性が映った。

その女性は、メイちゃんだった。眉毛をへの字にし心配そうな表情で、水の入ったコップを俺に渡そうとしている。


幸の薄そうな顔……

胸元が開いた服から見える、控え目な胸……

声も、表情も、身体も、見る全てが懐かしい。

虚ろな思考の中で、俺は目の前に居る彼女を

、転生した芽生だと思った。

いや、芽生としか思えなかった……


俺の手は、コップを素通りし、彼女の手首を掴み引き寄せた。


床に落ちる、水の入ったコップ。

ベッドに押し倒され、驚いた表情になるも抵抗する様子は無い。

何か言いそうになる彼女の口を塞ぐ様に、俺はキスをした。


詠唱し転移してしまうと思った。


転移だなんて……後で考えたら笑えてきた。

転生して500年以上、魔法が存在する世界で暮らした俺は、相手が転移して居なくなってしまう心配をしたのだ。

だが、一瞬にして彼女と自分の命を失った経験から、また儚く消えてしまいそうな不安から、本気でそう思ったんだ……


俺は、彼女にキスをし抱きしめた。

消えないで欲しい。もう何処にも行かないで欲しいと願いながら。

そして、服を脱がし、俺は彼女を抱いた。


戸惑う表情で俺を見つめる彼女は、少し抵抗したが、直ぐにされるがままになった。

奥に当たる度に唇を咬み、必死に声を押し殺す彼女。

ぐっと閉じられた目からは涙が伝っていた。

彼女の細い腕は、強く俺を抱きしめ離す事はなかった。



…………………………………………



夢だと思いたかった。


大急ぎで支度をし、家を出る。

城へ向かう私は、まだ下半身に僅かな痛みと違和感を感じていた。


城に近付くにつれ、鮮明に思い出される夜の出来事。

初めての体験……

私は驚き、戸惑った。

いきなり…いきなり、あんな事をされるなんて……

でも、私は受け入れてしまった。

抵抗すれば、部屋から逃げ出す事は出来ただろう。

でも、彼と1つになった時…痛かったけど、嫌じゃなかった……


城に近付くにつれ、彼の事が頭を巡る。

まだ城に居るのだろうか……

彼に会ってしまう事を心配する私の心が、少しずつ大きくなっていく。

その原因は、この姿だ。

中性的な幼い…男か女かも分からない様な姿……


会いたいのに会えない……


会いたいのに会いたくない……


私だと気付いて欲しいのに…気付かれたくない……


もう分からないよ……。

誰か教えてよ!どうしたらいいか…誰か教えてよ……。

表現のしようも無い、混沌とした感情。

締め付けられる心は、質量を失いつつも自身に掛かる強大な外圧を感じながら宛もなく彷徨う。


とても酸っぱく、微かに甘く、ほろ苦い……


私の心は、収穫するには早すぎる青い果実の様だ。

地上世界の王妃とのやり取りを思い出していた。


これが”恋”?


城に着くと、私は魔王様と王妃、そして幹部のみんなに挨拶し、いつも通り働き始めた。

パーシス様は、もう地上世界に戻っていた。

私は、胸が締め付けられる様な感覚と安心を同時に感じていた。


その日の勤務が終わると、私は直ぐに姿を変え夜の店へ行った。

そして、ビオンに辞めると伝えたのだった。


………………………………



朝、城の客室で目を覚ました。

部屋には、俺しか居ない。


俺はなんて事をしてしまったんだ……

あの女性は芽生だったのか?

似てただけじゃないのか?


何も言わずに居なくなってしまった彼女。

会員制の高級クラブで働くNo.1ホステスのメイちゃん……

あの雰囲気……心地よい香り……姿……

そして、酔っ払いながらも確かに聞こえた芽生の言葉。


”やっと逢えたね……”


俺は記憶が消去されないまま転生している。

しかし、全員がそうなのか?

死と転生を繰り返したグルナの嫁ディーテは、途中で記憶が戻ったが、最初は消去された状態だったではないか……


もし、記憶が消された状態で転生していたなら……俺の事を覚えてる事など有り得ない。

だが、確かめたい。


重要な会合が予定されているので国に戻らないといけないが、必ず会いに行く。

そう思い、俺は地上世界に戻った。


家臣に丸投げ出来る全てを投げまくり、数日後、俺は魔界に来た。

店に行くと、そこにメイちゃんの姿はなかった。

黒服に尋ねると、俺が地上世界に帰った日に辞めてしまったとの事だった。

魔界は広い、この国だけでも異常な広さだ。

メイちゃんは、この国の住人なのだろうか……

それとも国外か。


辞めた原因は、間違いなく俺だろう。

いきなり辞めてしまうなんて……会えなくなったからといって、アッサリ忘れられる訳ないじゃないか!!

腕に残る彼女の体温(ぬくもり)、心の底から湧き上がる様な昂ぶる感情……どちらも、今もこんなに鮮明に思い出せるのに!

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