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第39話 いい客ムカつく客

夜の世界は、女の戦場だった。

スナックからクラブへ、そして高級クラブで働くようになった子は、前の店で虐められたそうだ。

誰かの客を取れば、殴られるなんて事もあったらしい。

城で働いていたら分からないだろう、城に居る女性達は皆穏やかだ。

それに比べ、夜の世界は厳しい。

私も私物が無くなるなんて事はあったが、この店の虐めは可愛いものなのだと思う。

働き出して1年近くが過ぎた。

私は、店でNo.1のホステスになっていた。

少ない時は、週に3日しか入らず、アフターも全て断っているのに。

店には、指名を取るために週に6日入る子や、ほぼ毎日入って頑張っているのにノルマを達成出来なくて罰金を給料から天引きされる子も居る。


「メイさんスゴい♪今月も売上げ1位ですわね♪出勤少なくて地味なのに流石ですわ♪」


敷居の高い店だが、ムカつく女が居ない訳ではない。

さり気なく嫌味を言って来る。

私は相手にしないが、事ある毎に関わってくるのだ。

褒めたいのか貶したいのか……悪びれない所も癇に障る。


絡みもムカつくが、今日は嫌な予約も入っている。

隣の国の国王、パズズ。

私が係だが、吐き気がする程に嫌なのだ。

こいつの固有スキル”嘘をつく者(プセフティス)

スキルの能力が乗った嘘は、あたかも真実の様に頭の中に響く。

格下相手に使えば、100%騙す事が出来るだろう。

しかし、私は圧倒的に格上だった。

もう時期、パズズが店に来る。私は……この時間はNo.1ホステス メイ。

相手が、どんなにクズだろうが手は抜かない。


パズズが来店し、私は席に呼ばれた。

横に座るも、なるべく近寄られない様に少し斜めに座る。

どうやら、私に気がある様だ。

吐き気がするが、顔に出す事はない。

2~3時間の我慢で、店の売上げは跳ね上がる。それに、終わりが見えていると気が楽になるのだ。


「今日は、メイちゃんにプレゼントがあるのだ」


そう言うと、小さめの箱からネックレスを取り出した。

大きな宝石が埋め込まれた、いかにも高額なジュエリー。


「こんな高価な物を私に?……」


断ろうとする私の手を握り、パズズは詰め寄る。

殴りたい……私は聖魔獣ニーズヘッグ。

こんなカス、跡形もなく消し去るなんて容易い。


「気にしなくていい。それよりどうだ?この後、2人で飲み直さないか?」


アフターのお誘い……

今回が初めてではない。何度となく誘ってくるが全て断っている。

そもそも、店的にもアフターは禁止なのだ。


「メイさん、よろしいですか?」


黒服である。

他の席に行かなくてはならない。

私は、パズズに礼を言い席を立つ。


「パズズ様、失礼します。

この様な高価な物をありがとうございます。大切にしますね。すぐ戻ります」

「いや、構わん。今日は、それを渡しに来ただけだ」


そう言うと、パズズは帰って行った。

黒服に案内された先は、事務所だった。

嫌がる私に気付き、気を使ってくれたようだ。


「メリア様、大丈夫ですか?」

「ありがとう……もう少しで殺すとこだった」

「今日は早めに上がって、ゆっくりしてください。また明日からいい笑顔でお願いしますね」


黒服は少し困った様な、心配する様な曖昧な表情でそう言った。

その後、私は家路についた。

太陽石が煌めく歓楽街。私は、ふと後ろを振り返った。

実は、夜の仕事は嫌いじゃない。自分が店の売上げに貢献出来ている満足感だろうか……

私の居場所は此処なのかも知れない……そう、ふと思ったのだ。

だが、昼の仕事を辞めるわけにはいかない……

これが、悩むと言う事なのだろうか。



…………………………………



翌日、店の事務所に魔王様が来た。

黒服と喋っている。


黒服とばかり言っているが、彼は国の幹部であり名前がある。

名は”ビオン”だ。

身長は180cm程、スラッとした体躯に黒髪、赤い瞳の男前でキャストにも人気だ。

私は興味は無いが。


魔王様は、来週大切なお客様を店に連れて来るらしい。

フリーで入るが、私が空いていれば席に付いて欲しいとの事だった。

魔王様の席に付くのは正体がバレないか心配だが大歓迎だ。

何故かと言うと、エロさが無い。

そして、話を振らなくても色々と話してくれ、とても気を使ってくれる。

楽なのだ。


その大切なお客様というのは、地上世界の魔王様2名と軍の幹部、そして人間の国の皇帝らしい。

そして、魔王様が予約している日が来た。


静かに席に着く魔王様御一行。

皆にこやかだが、店内の空気が一瞬にして変わる程のオーラを放っていた。

それもその筈、魔王様と同じテーブルに居る2名の魔王は、地上世界の頂点の一角。

パズズの様な小物とは格が違う。


私の客が帰り、いいタイミングで魔王様の席に付く事が出来た。


「メイちゃん、紹介しよう。

此方は、兄のオルフェ。

そして、ドワーフ国の王様パーシス、地上世界の大国の皇帝オルガ。

それに、頼りになる俺の元部下アレスだ」


オルフェ様は何度か見た事がある。オーガ族の可愛らしい姫君の旦那様だ。

パーシス様は魔王様と同じ世界から転生したと聞いている。

アレス様は模擬コンビニ強盗の役を演じたが、やり過ぎてお叱りを受けた面白い人。

オルガ様は初めてだ。


夜の私は初対面……全員に挨拶をし、楽しい時間が始まった。

会話の内容は、全て記憶している。

異世界から来ているので、今日が最初で最後かも知れないが、もし次に来店した時に同じ話をしない様に覚えておくのだ。

流石……皆、一流だ。

こういう場の過ごし方を良く分かっている。


途中、魔王様は私の話を始めた。


「メイちゃんは、とても気遣いが上手なんだ。絶妙なタイミングで気が付く。

それに、売上げを取りに行こうとしない所がまたいいんだ」


私は、自分から食べ物をねだったり、酒を飲んだりしない。

それが良いらしい。

たまにしか来ないが、魔王様はよく見ている。


その日、私はラストまで魔王様の席に付いた。

お見送りの時、魔王パーシス様と目が合い、此方にやって来る。


「次来たら、メイちゃんを指名していいか?」

「光栄です。是非またいらして下さい」


私は、微笑み見送ったのだった。


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