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第36話 魔界の王妃を決める話 2

決断の日だけを見ると、こんな感じでしょう( ˙꒳˙ )

大きな月が、夜空に眩しく光る。

此処は魔界の中心に位置する、魔王が治める国。

夜の都サタナス国。


極端に日照時間が少ない魔界は、殆ど夜だ。

煌めく太陽石は、まるで宝石を散りばめた様に美しく、夜空に輝く月さえも霞め、この国を際立たせるのだ。


今宵、サタナス国に女達は集められた。

あの日、魔界の主は呟いた。


”自薦他薦は問わぬ!住む世界も問わぬ!身分も問わぬ!自分こそは魔界の主の妻に相応しいと思う者は、我が前に集え!そして晒せ!我が一生手放したくないと思わせる魅力を、我が前で晒すがいい!!”


女達は色めき立った。

何れも、我こそが魔王の妻に相応しいと息巻いた。

緊張感が漲る魔王城の一室。

部屋に集まった女達は、何れも美の結晶。

魔界の主に全てを捧げ、一生を添い遂げる覚悟を持つ、躾の行き届いたサラブレッドばかり。

甲乙付け難い競合と相対しても尚、何れの女も、我こそが相応しいと信じて止まない。

そんな”超雌”の中から、今宵、1名乃至2名のみが王妃として引き立てられるのだ。


魔界の主が18時に部屋へ訪れる。

相対する者には強気な女達も、刻一刻と迫る天国と地獄の岐路に内心穏やかではいられない。

その心は、握り潰される様に締めつけられ、慟哭にも似た激しい鼓動が身体を揺らす。

女達は感情を抑え、その刻を待った。


過ぎ行く時間と正比例する様に、女達の鼓動は早まり、抑えきれない不安な心と緊張感に、その表情は張りつめる。

時刻は18時となった。

部屋の外から聞こえる微かな足音は、徐々に近付き扉の前で停止する。

音もなく扉は開き、魔界の主は姿を現した。

自身に送られる視線を弾き、捻じ曲げ、ゆっくりと玉座に座る。


椅子に深く腰掛け、見渡す……

ただ是丈。しかし、その動作は女達の背筋に冷や汗を流させた。

今迄、1度たりとも経験した事のない緊張感。

目眩、吐き気、動悸……不安、恐怖、絶望……違う。

表現のしようも無い身体の状態と感情。

まるで永遠とも思える様な時間の終わりに、何を見るのか……


天国か……将又地獄が。


魔界の主が口を開いた。

永遠とも思える、苦痛を伴う刻は終わりを告げようとしているのだ。


”之より名を呼ぶ者は、魔界の王、その王妃として振る舞い、我に全てを捧げる事を許す。心して聴くがいい”


終わると思っていた刻は、女達を嘲笑うかの如く停止した。

女達に出来るのは、ただ黙るのみ。

思考する事さえも許されない静寂が空間を支配する。そこに、一滴の水が波紋を広げるように魔王の声が響いた。


”アリス、リリア。この2名を我が妃とする。

称号は何れも王妃とする。2名を残し、他の者は退出せよ”


動き出した刻は、2名の女を天上の世界へと誘い、他の者を地獄へ突き落とした。

ただの1人にさえも発言権は無い。地獄へ落ちた者は早々に立ち去るのみ。

比肩する者無し。そう自負する、超雌度を誇る女達の戦いは、呆気なく幕を降ろした。


残った女は


幻獣界の王にして竜王アリス。

魔王首席秘書官リリア。


共に”王妃”の称号を与えられし2人の女。

方や王族、方や平民出身。

方や心は喜びに満たされ、方や心を疑問が埋め尽くす。


対象的な2人の心。

心穏やかに、今後の生活に胸を時めかすアリス……

一方のリリアは混乱を極めた。

纏わり付く霧の様に晴れる事の無い疑問は、何時しか、身体を打ち砕く荒波の如く押し寄せ、恐怖を感じさせるのだ。


リリアは、勇気を振り絞り直言の許可を願い出る。

そんなリリアに対し、魔界の主は言い放った。


「お前は、自覚が足りない様だな。お前は既に我が妻……王妃なのだ。何なりと申すがいい」

「私を御選びになった理由をお聞かせください!」


竜王アリスは確当なのだ。

竜神族の王であり、彼女が選ばれた事に異を唱える者は居よう筈もない。

しかし、自分は違う。

違い過ぎるのだ。云わば雑種。

血統書付きと雑種。これ程、的確で分かりやすい比喩も無いのではなかろうか……

期待はしていたものの、いざ自分が選ばれると仕舞い込んでいた劣等感は滲み出す。


魔界の主は、目を閉じ、小さく溜め息を吐く。

そんな些細な事が気になるとは……


「お前に身体を授けた時。お前は何と言った?」


リリアは思い出せなかった。

忘れた訳では無い。1度呼吸をする時間程の極僅かな過去を思い出せない程の混乱に襲われているのだ。

そんなリリアに、魔界の主は理由を聞かせる。


「お前は、俺の役に立つと言ったのだ。身の回りの世話も、夜の相手も何でもする。

だから、傍に置いて欲しいと言ったのだ。

そして、お前は俺の役に立った……お前は約束を果たしたのだ。次は、俺が約束を果たす番ではないか……俺が決めたのだ、妃として俺の傍で生きるがいい」


最後に、魔界の主は2人の王妃に確認を取る。

主が月の半分を魔界で過ごし、残り半分を地上世界で過ごす事を認める。

魔界で過ごす間、アリスは4日、リリアは3日を主と過ごす事。

日中は仕事に集中させる事。

アザゼルの扱いに口を出さない事。


王妃達は快諾した。

そして、どの曜日に何方が主と過ごすか話合いを始めるのであった。


翌日。

王の間には、玉座の両脇に荘厳華麗な椅子が用意された。



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