第35話 魔界の王妃を決める話
俺が重症を負った事で先延ばしとなっていたスナックの研修も無事に終わり、無事に営業を開始している。
少し気が早いが、VIP専用の会員制高級クラブを建設中だ。
店の造り、酒、食べ物、全てが最上級。
最初に名前を付けた幹部の中から、黒服が務まりそうな者が居ないか、日々観察を怠らない。
営業出来るまでに時間が掛かりそうだが、楽しみなのであ…る……。
ダメだーーーーっ!!!
仕事に集中できんっ!!!
俺の頭は容量がショボいのか?……考えるまでもない、ショボいのだ。
女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女・アザゼルアザゼル・仕事。
簡単に言うと、俺の脳内はこんな感じになっている。
自分で言うのもなんだが、今の俺はゴミ野郎…いや産廃以下のクソ野郎だ。
アリスの言葉が頭から離れず、俺は廃人になりかけていた。
場を設けてもらおう……
俺はムックに伝言を頼んだ。
”翌週、土の日18時。森の国の女子会に参加した者はサタナス城に集合せよ”
《ご主人様ー!ディーテ様が、何すんの?って言ってるよ!何するか教えてエロい人!》
「限界だ。魔界の王妃を発表する。と伝えてくれ。念の為言っておくが、俺のエロさは突き抜けてはいない!並だ!並!」
《……ご主人様、私は何があっても味方だからね!!》
「…………」
ムックは俺の不安を煽り、伝言を伝えに言ったのである。
一応、森の国の女子会で、俺の意思を尊重する様、遠回しに釘を刺されているはずだ。
多少荒れるのは、勿論覚悟しているが。
魔界の方は、直接伝えるとしよう。
それを伝えた日、サタナス国の空気は変わった。
…………………………………………
ある日の夜。
寝室に行くと、アリスは既に寝ていた。
俺は起こさないようにベッドに入ったのだが、アリスは起きてしまった。
と言うか、起きていたのだろう。
チラッと見える、アリスの肩……
(ん?タンクトップ?)
違ったのだ。
その正体はスク水だった。
「ちょっと恥ずかしいけど、そろそろ良いかなって……//」
「…………」
そろそろって どんなタイミングなんだーーーーーー!!!!
顔真っ赤やんけっ!!
その、はにかんだ笑顔からは”私は、頑張って魔王様の望みを叶えたぞ!”という満足感が溢れている。
「アリス……俺の我儘を聞いてくれてありがとう。だが、その水着はお蔵入り…いや、今日は仕舞ってくれ」
「何故?嬉しくない?」
「とても嬉しいが、それは特別な日に着てくれ。今日はパジャマにしような」
「うん、分かった」
パジャマに着替え、何故か半笑いでベッドに入るアリス……
(恐ぇよ……)
大きなベッドに横になる2人の距離は軽く1m以上空いている。普段はかなり近付いて来るのにだ!
何か企んでいる……俺は、そう直感した。
「アリス……こっちにおいで」
「えっ……うん//」
寝る時に、今まで触れもしなかった俺は、その日はアリスを抱きしめて眠った。
これ以上、アリスが良からぬ事をしない様に。
翌朝、アリスは何時もの様に早起きし、俺の朝食を準備していたらしい。
その時、俺はまだ寝ているのだ。
(頭がボーっとする……朝まで拘束して寝てたのか……)
俺は、アリスを抱きしめたまま、朝まで寝ていたと思っていた。
(うーん、いい匂い……ん!!?)
俺は一気に目が覚めた。
いい匂いと思ったのは一瞬だった。
いい匂いなのは間違いなかった。しかし、それはアリスのいい匂いではなかったのだ。
「グルナ様…おはようございます//」
「…………」
そこに居たのは、部屋にこっそり侵入したセレネであった。
(ちゃっかりパジャマ着て、昨日から一緒に寝てました感を出してやがる……)
つまり、俺はベッドに無断侵入したセレネを無意識に抱きしめて寝ていたというのか!?
何という失態だ!
「セレネ、何時から此処に?」
「10分程前からです//すぐに自室に戻ろうと思ったのですが、グルナ様の抱擁が心地よくて……//」
「…………」
(爆発寸前じゃねぇか、顔が真っ赤っかになってやがる……)
警戒しなくてはならないだろう。
若手のお笑い芸人並にグイグイ来そうな気がしてならない。
食堂に行くと、並べられる朝食。
鯛モドキの塩焼き…赤飯…伊勢海老モドキの頭が器から飛び出た味噌汁……。
何と目立たい朝食なのか……
「アリス?どうした?今日は目出度い日なのか?ん?」
「……察して//」
察したくねぇよ!!
心の中で叫び、無言で朝食を済ます。
王の間に移動し、日課の悪魔観察をしなくては……。
王の間に入ると、俺の玉座の両脇には小さな椅子が置かれ、セレネ、ライカ、リリアが鎮座していた。
そこに、洗い物を終えたアリスが登場。
定位置に座り……他の3名同様、熱視線を送り始めた。
気まず過ぎて消えてしまいたい……。
「無礼者共が!!此処に座っていいのは王妃のみであるぞ!!」
と言いたいが、言えないのである。
アリスが椅子を置いた時に言っておくべきだったと後悔するも、最早手遅れ。
出来る事は、微かに残る王の威厳を保つのみ。
玉座に座り、足を組む……そう、ハーレムを楽しむ悪代官の様に!
俺は平静を装った。当たり前の様に、あたかも”コレが”日常であるかの様に。
しかし、両脇で起こっている目に見えない鍔迫り合いの様な緊張感に、俺の安物のメッキは耐えれるはずはなかった。