第3話 悪魔の生態を調査せよ!其の二
アザゼルと魔界に戻り、早速、悪魔達に魔導器について説明をした。
説明してくれたのはアザゼルだ。
実際に魔導器に受肉しているアザゼルの説明は説得力があるはずなのだが…
「この魔導器に入り込んでイメージですのん!魔力全開で成りたい姿をイメージですのん!」
微妙だが…伝わっただろうか?
しかし、俺の不安を他所に悪魔達は次々に魔導器に入って行く。
そして、悪魔達はイメージ通りの見た目を手に入れる。
禍々しい角と蝙蝠の様な羽、そして何か企んでますと言わんばかりの顔は、男前と美女に変化した。
「成功ですのん!」
「不思議な感覚だ…視界は少し狭いが快適だ…」
「その身体は好きに使ってくれ。お前達に名前を付けたいな!」
「魔王様…我々に名前を付けてくださるんですか!?」
「ん?名前はダメだったか?」
「是非お願いします!!」
名前を持つのは高位の悪魔だけ。どうやら、その力が無いのに良いのか?と思った様だが、俺が不便なのだ。
何より凄く嬉しそうだ。
「じゃあ、1番力がある者から前に出てくれ」
先ず出てきたのは、紅い炎の様な髪の悪魔だ。鋭い切れ長な眼が危険な雰囲気を醸し出している。
コイツは、ベレトにしよう。
次は、女性の悪魔だ。
白金色のクセのない髪が美しい。お姫様と言っても疑われないだろう。
この悪魔はライカだ。
次に出てきたのは獣型…
よく此処まで形を変えたなと関心してしまった。本人曰く、俺の横に居た精霊を真似たそうだ。その精霊とは犬型の上位炎精霊ムックだ。
お前は…フルフルにしよう。
そんな感じで適当に名前を付けていったが、みんな大喜びだ。
ちなみに、名前を付けたが何が変わる訳でも無い。単純に、俺が呼びやすくなっただけなのだ。
俺が名前を付けている間に、アザゼルは食事の用意をしてくれていた。
いつの間に料理を覚えたのだろうか…
少し覗いて見ると、炊いた白ごはんに、今、森の国で人気の”濃いコーンポタージュ”、伸びるチーズ、パセリに塩コショウだ。
ゴハンを装い、煮詰めて更に濃くしたコーンポタージュをかけて塩コショウ、チーズとパセリをトッピング…
仕上げに火炎魔法で焼いている…
「みなしゃん!出来まちた!//」
「アザゼル、これは何て料理なんだ?」
「名前は無いですのん…でもおいちぃですのん!」
…パクリ。
う…うまいっ!?
俗に言うズボラ飯だが…美味い…
アザゼルがお腹が空いたと言うと、ディーテはものの2分程で食事を用意してくれるらしい。
それを見ていたアザゼル。最初は魔法だと思っていたそうだが、そうではない事に気がつき密かに研究したらしい。
我が子の成長を実感する親の気持ちとは、この様な気持ちなのだろうか…感動だ…
コーンポタージュドリアは好評の様だ。ベレト達もガッツいている。
「どうだ?これが”食べる”って事だ」
「こ…これが食べる…グルナ様!どんどん食べたくなるのですが何なのですか!?」
「それが”美味しい”って事だ」
「美味しい…」
「おいちぃですのん!!//」
そして、食事を終えた悪魔達は思うのであった。
この様な素晴らしい体験をさせてくれる新たな支配者…我々の新しい主に忠誠を誓うのだと。
「なぁ今更だけど、この国の名前は何なんだ?」
「サタン国です!」
「マジか…」
俺は、急遽新しい国名を考えるのであった。
…………………………………
旧サタン国隣国 パズズ国
「パズズ様、城の竣工は3ヶ月後だそうです」
「ふむ、サタンを倒した異世界の魔王か…」
「我々では手に余ります…」
「争うつもりは無い…裏で操るのだ!準備を進めよ!儂が世界を牛耳るのだ!フハハハッ!!」
近所で何か企んでる悪魔が居る事など知らない俺は、城を破壊し国名考えていた。
ちなみに、城は簡単に壊れた。
おから工事だったのだ。まぁ精神生命体の悪魔達が魔法で泥を固めて作った様な城だ。そんなもんだろう。
新たに建設する城は、ドワーフの国宝が立てる城なのだ。魔界一立派な城になるのは間違いない。
「グルナ様、国名は決まりましたか?」
「うん、一応コレっていう案はある!」
独断で”サタナス国”にした。
単純に魔王の国という意味だ。
悪魔達は早速、変な板に国名を書き、何処かへ走って行った。
「何処行ったんだ?あの板はなんだ?」
「あれは回覧板です。何もなければ1週間程で近隣諸国を回ります」
「…………」
回覧板は止めさせよう…
この調子じゃ、他にも効率悪い事をしてそうだ。
色々と問題が有るだろうとは思うが、発覚してから改善するの繰り返しになりそうな気がする…
就職の面接で、御社には事務員は居ますか?とか質問しないのと一緒なのだ。居て当たり前だと思ってる事務員さんの存在を最初から疑う事は出来ない。それと同じ事だ。
「ライカ、この世界に通貨は有るのか?」
「通貨?」
どうやら無いらしい。
食事も必要なくて、服も自力で用意出来るのだ。その気になれば、魔法で家も建てるだろうし、魔界にはお金の概念は無かった。
「もしかして、温泉の事ですか?」
「ん!?温泉があるのか!?」
魔界風呂…
まさか魔界に温泉が有ろうとは…
これは調査しなくてはならん、森の国から来てくれてる皆んなに癒しも必要なのだ。
早速連れて行ってもらった。
「こちらです!」
案内されたのは、超巨大温泉旅館であった。
一体幾つ湯船が有るんだ!?というぐらい色々あるのだ。
悪魔達は毎日利用するそうだ。
試しに入ってみたが、とても気持ちいい。
しかも、魔力が一気に回復するのだ。悪魔達が毎日訪れるのも納得である。
「何か仕事をこなすと国から入浴券を貰えます!仕事の難易度で枚数が増えるんです!」
「報酬が入浴券なのか!?」
「はい!」
魔界の通貨は入浴券であった…
建物を建てる手伝いや家財道具を作ると入浴券。他国との戦争に参加すると入浴券…一体何に何考えてんだ。
これは急務だ。価値の数値化をして、ちゃんとした報酬を得なくてはならないだろう。
不満が溜まって破壊工作だの侵略だのをしている可能性もある。
入浴券欲しさに戦争するバカは居ないはずだ。
もし、毎日3枚とか入浴券貰ったら永久に使い切れない。
城が完成したら、周辺国の悪魔が挨拶に来る。そのタイミングで、この件について議論するのも良いかも知れない。
「温泉以外に何か無いか?例えば、武具が売ってる店とかお土産屋とか」
「うーん、無いです」
「…ホントに何も無いんだな」
「王の夜の相手をするサキュバスは居ますよ?」
「あー、それは要らん。他には無いか?」
「無いです!」
通貨の流通…その為の準備をすべく、俺は森の国へ戻ったのであった。