第21話 逃亡
「私は、この国を破壊しに来た…」
「お前…この世界の住人じゃないな!何者だ!」
「私は、幻獣界の王。バハムート」
「!!!?」
マジか…
アロカスとかいうバカが身の程も弁えず呼び出してバハムートの逆鱗に触れ自滅したが、まさか契約自体は有効だったのか?
即壊しに来れば良かったものを、わざわざ時間差で壊しに来るとか…まさに上げて落とされた感じだ!
「バハムート、俺が無抵抗だと思ったら大間違いだぞ?」
「バハムート様!お止め下さい!」
メリアが止めに入る。しかし、それはそれで逆鱗に触れた様だ。
「ニーズヘッグ、君は王である私と魔王様の会話に割り込むのを無礼だとは思わないのかい?」
指先から、今まで見た事もない程の威力を秘めた魔力弾が放たれ、ニーズヘッグは吹き飛び沈黙した。
「メリア!」
「心配しなくていいよ。あの子は丈夫だから。君が集中しないといけないのは、目の前に居る私じゃないかな?」
「…くっ…」
誰一人動けずにいる。
しかし、壊しに来ただけなら買い物も会話も必要無いはずだ。バハムートは意外と話が出来るのではなかろうか…
と言うか、話をして時間を稼がなくてならん!!住人の避難だ!!
「バハムート、城で話がしたいんだが…どうだ?」
「うん、立ち話もなんだし場所を変えよう」
何と冷たい目をするのだろうか…
顔は天使の様な微笑みを浮かべているが、瞳は凍りつく様な視線を投げかけてくる。
ムックに住人の避難を指示し、バハムートと城に向かった。
誰も居ない城の一室。
セレネは結界で城を覆っている。何とか街への被害を食い止めようとしてくれている様だ。
「そんなに、この国を壊されたくないの?」
「ん?当たり前だろ!」
バハムートが口を開く。
まだ分からないが、交渉出来そうな雰囲気が漂っている。
「条件がある。それを飲めるなら壊さない。どうする?」
「その条件ってのは何なんだ」
バハムートの頬が、少し赤く染まっている。
「私を…として迎え…」
「えっ?ごめん、声が小さくて所々聞こえなかったんだが」
「もー!私を妻として迎え入れたら壊さないって言ったの!何度も言わせないで!//」
「…………」
マジか…頬真っ赤っかの上目遣いでモジモジしてやがる…
振られる=国を破壊するって事なのか!?バカか!!
そもそも、こいつはどこまで知ってるんだ?
「俺が既に結婚してるのは知ってるか?」
「知ってるよ。でも魔界の王妃はOKなんだよね?」
「……………」
知ってやがった…
あの爆弾発言を知ってやがるとは…幻獣のネットワーク恐るべしだ。
どうする?どうする!?これはマジで面倒臭いぞ!!相手はメリアを瞬殺する猛者…色んな意味でヤバ過ぎる!!
「ねぇ…旦那様…//」
「ちょっと待て!俺はまだ何も言ってないだろ!何で旦那様になってんだよ!」
バハムートの目が涙ぐんでいる…ちょっと言い過ぎたか?
いや!言い過ぎたとか絶対にないっ!!負けるな!俺!!
しかしだ、国を守る為とはいえ、即答で「はい、分かりました」って言ってしまったら、とんでもない弊害が発生する恐れがある!いや、間違いなく発生する!
何とか有耶無耶にすんるんだ!!頑張れ!人生で一番頑張れ!俺!!
「すまないが、今返事をする事は出来ない」
「そんな…何がダメなの?教えて旦那様!」
「会って数十分の相手と結婚出来るか?結婚っていうのはな…相手の事を想い、一生支え合い、そして分け合いながら生きていくのだ!俺には即決出来ない。バハムートが思ってる様な奴じゃないかも知れないしな、後悔させたくもない」
「私は後悔しないし、旦那様を後悔させない自信があるよ?」
バハムート強ぇ…。
腕っぷしもハートも相当強ぇな…流石だ…
パーシスとかが聞いたら、キモすぎて爆笑しそうな発言にもビクともしない…
「じゃあ、せめて俺に時間をくれ」
「時間?」
「いきなりで驚いてるんだ。俺は一目惚れとかする方じゃない。バハムートの事を好きになる時間が必要だ」
「好きになる時間…//」
俯き、頬が赤くなるバハムート。
可愛らしいが、真の姿は西の大国を一撃で消滅させニーズヘッグを瞬殺する獰猛なドラゴンなのだ。まだ安全圏ではないだろう。
早く地雷原から抜け出したいものだ。
「バハムート…名前が神々し過ぎるから親近感が湧く名前で呼ぶぞ!今日からアリスな?
」
「アリス…旦那様可愛い名前をありがとう//好きになってもらえる様に私頑張るから//」
バハムート、改めアリスは頬が赤く染まり、のぼせそうになっている…何とか安全圏だ。
ついでに、今日はお引き取りいただこう。
「アリスは幻獣界の王なんだよな?忙しいだろ、暇な時にでも此処に来てくれたら良いから!じゃ!」
「帰らなくても大丈夫//」
無問題だったか…
自分が居なくても仕事が回る組織を作り上げているとは…優秀な上司だ…
絶対に国を破壊しないという確約を取り付け、避難命令を解除する。
外の空気が吸いたくて城の外に出ると、皆、心配して集まってくるのだが…
「君達。国を壊すのは今後の様子を見ながら判断する事にした。だから、今は安心していい」
(おい!アリス!早速話が変わってるじゃねぇか!!)
(大丈夫、みんなに緊張感を持ってもらうだけだから。それと…みんなの前でアリスと呼ばないで。”嬉しいけど”まだ恥ずかしいから…)
「君達。今生きている事を、魔界の王グルナに感謝するんだよ?」
(終わった…何の緊張感なんだよ…)
2人の時に見せた表情は鳴りを潜め、颯爽と城に戻るアリスとてもクールで王者の風格が漂っている。
俺は思った。アリスはツンデレならぬクルデレなのではなかろうかと。(そもそもクルデレってなんやねんだが…)
普段クールという事は、第三者が居ると常にクールな訳か…
この習性は使えるかも知れん。
時刻は、既に深夜1時…もう寝よう…疲れた。
俺はアザゼルをおんぶして寝室に向かった。背後にアリスが居る事を承知で。
「此処が魔王様の寝室かい?その子も一緒に寝るの?」
「うん、そうだ。バハムートは隣の部屋を使ったらいい」
「…………」
(怒った!?アリスじゃなくてバハムートって呼んだのに怒った!?)
「私も同じ部屋で寝よう」
そう言うと、アリスは床に布団を敷き始め眠りについた。
俺が床で寝ると行ったのだがアリスは拒み続けた。
……………………………………………
翌朝。
部屋には誰も居ない。
アザゼルは、ちゃんと起きて店に行ったようだ。
食堂へ向かうと、包丁で何かを刻む音が聞こえる。
音だけで手際の良さが分かる…そして良い香り…味噌汁?
食堂を覗く悪魔達、とセレネ。
みんなに挨拶し、調理場を見るとアリスが料理をしていた。
”バハムート朝飯を作る!!”
衝撃のニュースが国中を駆け巡った。
誰の為に!?魔王様の為に!!
「魔王様、私は君の前世の世界の料理を作る知識がある。材料的に作れる物だけだが…。魚の小骨も取っておいたよ」
「い…いただきます」
美味い…味噌汁の濃さ、米の水加減や研ぎ方…全て極まっている…
「すごく美味しい…」
「魔王様に喜んでもらえて光栄だ」
少しだけ頬が赤くなるものの、耐えている様だ。何故なら、扉の影から星○馬のお姉さんの如くセレネが見つめているのだ。
気まずくて死にそうだ。
食事を済ませ部屋に着替えに戻った。その日から毎朝アリスは朝食を用意し、俺を優しく起こすのだ。
ある日、俺は朝から用事が有り早めに食事を終え部屋に着替えに戻った。アリスは洗い物をしているので付いてこなかったが、セレネが付いてきた。
「グルナ様…どういう事ですか?」
今にも泣き出しそうだ…
どういう事?それは俺が聞きたいのだよ。何故こんなにも気まずいんだ…あれから、ずっと気まずかったが話すタイミングが無かった。常にクールビューチィが居たから仕方無い。
いい機会だ、言おう。
「バハムートを王妃として迎え入れる事で国は無事に済んだんだ」
「…!?」
セレネは部屋を飛び出し何処かへ行ってしまった。
それを追う気力は俺には無く…何が切れてしまった気がした。
気が付くと、俺は国を出ていた。