第2話 悪魔の生態を調査せよ!
城に居た悪魔達に挨拶をし、森の国に戻った俺は考えていた。
何故だ…何故悪魔達は素直に言う事を聞くのだ?
「どうしたんだ?やっぱり悪魔を配下にするのは大変か?」
ディーテは夕食の準備をしながら話し掛けてくる。
女王だが、週に4日は夕食を作ってくれるのだ。素晴らしい嫁である。
「いや、何か腑に落ちないというか…悪魔達が素直に言う事を聞きすぎてる気がするんだ…
相手が悪魔じゃなかったら気にならないのかも知れないけど、サタンがあんな感じだったろ?何か企んでるんじゃないかって思ってしまう」
「ふーん、素直なのかー。それはグルナが魔王だからじゃないのか?」
「……!!!」
その通りだ…そもそも俺は勘違いしていた。魔界に乗り込んで、そこの支配者を叩きのめすのではない…
…俺が魔界の王じゃねーかッ!!
つまり、少なくともサタンの支配していた領土では、俺は既に新たな支配者として悪魔に認知されてる事になる。
それは素直に言う事を聞くはずだ…
という事は、あのジャパニーズマフィアの様な格好で行ったバカな挨拶は必要無かったと言う事になる…
「グルナ?どうした?頬っぺに米粒付いてるぞ。おーい、グルナ?」
何という事だ…
”夜露死苦!!”とか恥ずかし過ぎるだろ!!
……。
落ち着け…落ち着くんだ…済んだ事を気にしても仕方無い。大事なのはこれからだ。
そう、明日からは普通に接したらいいのだ。
…………………………………
旧サタン城
悪魔達はザワついていた。
新たな支配者の一連の行動についてである。
門を破壊し、兵士を薙ぎ倒したまでは理解出来る。その目的は恐らく、示威活動であろう。
問題はその後の挨拶だ。
「夜露死苦って何?」
「知らねぇよ…」
「俺達に早速呪いをかけたんじゃ…」
「おい、それサタンよりヤバいぞ!」
そして、悪魔達は1つの結論を導き出す。
”新しい主には絶対に逆らってはいけない”
サタンの旧家臣達は大急ぎで周辺国や近隣住民に回覧板を回すのだった。
………………………………………
翌朝、悪魔達が勘違いしている事など知らない俺は先陣として魔界に派遣する人員と資材の確認を行っていた。
今日は、街が住める様になるまでの仮設住宅の建設だ。
メンバーの1人、クラティスは悪魔の襲撃よりも環境が気になっている様だ。
「グルナ殿、魔界ってどんな所だ?」
「とにかく薄暗いぞ。昼間は2時間位だ」
「作業出来るのか?」
問題無い。ちゃんと暗闇対策を用意してあるのだ。
ミダスに作らせた”ホタル石モドキ”基、太陽石である。
この石は魔力に反応して眩く光るのだ。
魔界に行って気が付いたのだが、魔界の大気は魔力に満ちている。
アザゼルもそうだが、この世界に来た悪魔が受肉しないと一定時間しか活動出来なかったのは、大気中の魔力濃度が薄過ぎる為だ。
悪魔達は魔界の魔力に満ちた大気の中ではアストラル体でも問題無く活動出来るのだ。
光源も大量に用意し、早速転移だ。
移動時間は20秒程、すぐ着くのだ。
「…本当に薄暗いな」
「早速、太陽石を試してみよう」
太陽石は箱から取り出す前に、既に眩しく輝いていた。
大気中の魔力に反応し、永久に輝き続ける太陽石はノーベル賞ものの発明ではなかろうか。
「これは凄いな!作業も問題無く進められるぞ!」
みんなが仮設住宅の建設をしている間に、悪魔達に色々聞いてみようと思う。
城を壊すのは明日以降なので、大きな会議室の様な部屋で話を聞くことにした。
「俺の事はグルナと呼んでくれ。魔界は初めてだから色々質問があるんだ」
色々聞いたが、魔界にも国が無数に存在し、その国を支配する王が居るらしい。
元サタンの領土は魔界のほぼ中心にあり、領内は勿論、周辺国は完全に服従しているそうだ。
そして、サタンの死は知れ渡っているらしく、サタンを倒した俺の事は、周辺国には既に魔界の王として認知されているらしい。
城の建設が落ち着いたら挨拶に来るそうだ。
周辺国は新たな魔界の王として俺に忠誠を誓うと表明しているが、遠方の国はそうでもない。
王座を狙っている国もあるらしい。
それと、今目の前に居る悪魔達に名前は無いそうだ。名前を持っているのは高位の悪魔だけらしいが、この世界で俺の配下になる悪魔達だ。
後々、名前を付けてやろうと思う。
「とりあえず、サタンの領地は好きに出来る訳か!どのぐらいの広さなんだ?」
「地図があるんです、持ってきますね」
地図を見せてもらったが、かなりの広さだ。
森の国の倍はあるのではなかろうか…
開拓し甲斐があるな。
「後は、お前達は何食べて生きてるんだ?」
「グルナ様、食べるとは?」
「ん?食事だよ。食事」
悪魔がザワつきはじめた。
食事とは何ぞや…新しい魔王様は何を仰っているのだ?
「………いや、そんなに考えなくても…」
議論を始める悪魔達。
悪魔達は困惑していた。食べる?食事?初めて耳にする単語だったのだ。
何を”食べて”生きてるのか…
何を”楽しみ”に生きてるのか…
議論を重ねるうちに、質問自体が変化した。
「……なぁ、お前達?」
そして悪魔は質問の答えを口にする。
「破壊工作と侵略です!!」
「……………」
その答えは、新しい魔王様はお気に召さなかった様だ。
「馬鹿野郎!!お前達は何を食べて生きてるのかって聞いてるんだよ!!
お前達の生命維持の方法は何なんだ!!
破壊工作と侵略を食ってんのか?あ!?」
「ヒィィィィ!!!」
「▲☆◎*▲※!!」
「魔王様!落ち着いてください!!」
「○*▲◎☆!」
「うわっ!!」
「………」
やっちまった…。
途中でアザゼルも最初は「食べるって何?」って言っていたのを思い出したが、時すでに遅し。
失神している者が数名居る。
「すまない…少しテンションが上がってしまった。許してくれ」
「大丈夫です…聞きたい事も分かりましたし…」
悪魔達の話では、飲み食いは必要ないそうだ。
大気中の魔力を取り込むだけでいいと言っていた。悪魔とは非常にコスパがいい連中だったのだ。
しかし、俺は食事が必要なのだ。
魔界とはいえ、精神生命体だけしか居ない訳ではないと思うので、色々探そうと思う。
そして、俺だけ食事をするのも変な感じだ。アザゼルも食べる必要はないが、森の国の食事の美味しさを知ってからは毎日ゴハンを食べている。
配下の悪魔達にも美味しいゴハンを食べさせてあげたいと思った俺は、森の国に戻り、コア無しの魔導器を準備するのであった。
……………………………
森の国に戻り、そのコア無し魔導器を用意しているとアザゼルが来た。
「グルナしゃま!魔界はどうでちた?」
「アザゼルの言ってた通りホントに何も無いな」
アザゼルは元サタン配下の大悪魔。転生した世界で俺が初めて出会った悪魔である。
森の国の破壊工作の為に呼ばれたのだが、俺が名前を言い当ててしまった事でサタンの支配から開放され、今では超絶可愛い悪意の欠片も無い魔物(超悪魔)になった。
アザゼルは人間に受肉する事なく森の国で普通に生活しているわけだか、それは、今準備している魔導器に受肉しているからなのだ。
魔導器は、ミダスが開発した二足歩行の魔道歩兵。
アザゼル同様、そのコア無しに魔界の悪魔達を受肉させる。
10名分の魔導器と調理器具、それに食材も持った。
「グルナしゃま、わたちも久しぶりに魔界に帰りましゅる!」
「もう少しで準備が終わるから一緒に行こうな」
アザゼルを連れて行って、魔導器に受肉した時のイメージを伝えてもらおう。
悪魔達も安心するだろう。
生まれて初めての食事を口にする悪魔達の反応が楽しみだ。
そんな事を考えつつ、アザゼルを連れて魔界へと転移するのであった。